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第13話 10年越しの口づけ

(どうして? どうして私、強引に唇を奪われたっていうのに、心の奥が喜んでしまっているの? 確かにジェフリー王太子殿下は端正なルックスだわ。でもそれだけじゃないの。ジェフリー王太子殿下にキスをされると、どうしてだか私の心の奥が燃えるように熱くなって、もっともっとと欲してしまうの。強引にされているっていうのに、全然嫌なんかじゃないの……)


 ミリーナはそんな自分の心に、どうしようもなく困惑していた。


 嫌などころか触れ合った唇は燃えるように熱く、その熱で身も心も蕩けてしまいそうだったのだ。


 それはミリーナの意識の外側の極めて本能的なところで、ジェフリー王太子=ジェンであると理解しているからだったのだが、この時のミリーナはそうとは気づいてはおらず、


(あの日のジェンの笑顔を今でも思いながら、なのにジェフリー王太子に強く抱かれて口づけをされて、それで嫌じゃないだなんて。私はなんてフシダラな女だったのかしら――)


 千々に乱れる己の心に困惑するしかできないでいた。

 そんなミリーナをよそに、ジェフリー王太子の情熱的な口づけはしばらくのあいだ続いた。


 終わる頃にはミリーナはすっかり大人しくなっており、もたれかかるように体重を預けながらジェフリー王太子の腕に抱かれている。

 そして10年越しの口づけが終わるや否やジェフリー王太子は言った。


「妬けるな。あまりのことに心が張り裂けてしまいそうだ。だが俺がこんな気持ちになるのも全て君の責任なのだ。一体どうしてくれる、いますぐ責任を取れ。俺をこうまで(たかぶ)らせた責任をな」


「さすがにそれはめちゃくちゃな論理ではありませんか? それに私は本当に好きな人なんて――」


「君の心の中に他の男がいるのは、その切なく揺れる瞳を見れば嫌でも分かる。だが俺の心はもう止まらないのだ。そんなことでは止まれないのだ」


 ジェフリー王太子は真剣な眼差しで、もはやとどまることを知らない思いの丈をミリーナへとぶつけてくる。


「ジェフリー王太子殿下……」


「だからこれから俺は、俺という存在で君の心を上書きする。君の心を俺という存在で埋め尽くし、君の心にいる別の男を綺麗さっぱり追い出してみせる。忘れさせてみせる。2度と俺以外の男のことを考えるなんて気にならないように、ミリーナ、俺は君を愛し尽くしてみせよう」


 そう高らかに宣言すると、ジェフリー王太子は再びミリーナに口づけをした。


「ぁっ……ちゅっ、んんっ、ん、ぁっ、ちゅぱ……」


 ジェフリー王太子は何度も何度もミリーナへと口づけを繰り返す。


 ジェフリー王太子にとってミリーナは10年秘めた恋のお相手だったから、これほどまでに荒々しくも情熱的になるのはこれはもう仕方のないことだった。


(なんて強引な愛情表現なのかしら。普段のお優しいジェフリー王太子殿下からは想像もできないわ。――でもぜんぜん嫌じゃないたの。むしろ嬉しいとすら感じてしまうの。分からない、自分の心のことなのに全然私、分からないわ。どうして私なの? いったい私の何がジェフリー王太子殿下にそうまでさせてしまうの?)


 しかしミリーナは、その理由がどうしても分からずにいた。


 ミリーナがミリィであると、ジェフリー王太子が一言でも言えばそれで済む話ではあった。

 そうすればミリーナは納得し、二人は晴れて両思いとなったのだから。


 だがジェフリー王太子はミリーナに自分の気持ちが過去に囚われていると誤解されることがないよう、もう決して昔のことを言おうとはしなかった。


 ゆえにミリーナはどうしても理由が分からずに、ただただ困惑の波に身をゆだねるしかなかったのだ。



 その後、執事のパーシヴァルがジェフリー王太子を呼びに来るまで、2人は抱き合いながら方や10年越しの思いを遂げる情熱的な口づけを。

 方や2人の男への思いに揺れる戸惑いの口づけをかわし続けたのだった。


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