足に絡みつく何か
学校から自転車で帰っている時の事だった。
「あれ?」
ある交差点で、地蔵と、花が添えられていた。
「事故でもあったのかな」
この道は長いこと使っているけど、こんなところにあったのは初めて見たように思う。
「一応拝んどくか」
特に縁もゆかりもない地蔵だけど、信号待ちの間、拝んでおく。両目を閉じ、手を合わせる。数秒程度だったけど、目を開けた時。
「え?」
地蔵から、一瞬何かが出ていた。黒い靄のようなものだ。
「なんだ……?」
あたりを見渡すも何もない。
「まぁいいか」
信号はまだ変わらない。ふと、ペダルに乗せる足が目に入る。靴紐がほどけていたのだ。
「あれ、さっき結んだんだけどな」
ほどけない様にしっかりと両足結び直す。
「これでよしと」
ちょうど信号も青になった。自転車をこぎだし、家へ向かう。市街地を抜け、家まであと少し。人通りの少ない路地に入ったところで。
「え?」
突然自転車が動かなくなる。正確には、ペダルが動かない。
「な、なんだ!?」
チェーンが外れたかと思い、一度降りて確認しようとしたが……まるで何かに掴まれているかのように、足がペダルから離れない。
「お、おい!?」
両足ともペダルに固定されており、自転車はバランスを崩し、横に倒れる。だが、倒れた場所が悪かった。道の端、小さな溝があり、頭部が溝の角に当たってしまう。
「ぐ……!」
目の前が火花が散ったかのようにチカチカと明滅しており、幸い血は出ていないようだけど意識が飛びそうになる。どれくらいそうしていたのだろう。突然の出来事に動揺しつつも、立ち上がろうとするが、やはり両足がペダルから離れない。足を見ると、靴紐がチェーンに絡まっていた。他には何もいない。
「結び直したのに……」
このせいで自転車が動かなくなったのか。私は靴を脱ぎ、自転車の後輪を持ち上げ、前輪を転がして家まで帰る。とりあえず頭を冷やして、転倒した時の事を思い返す。あの時、転倒する直前……一瞬だけ足元が見えた。そこには……あの地蔵がいた。地蔵から出る黒い靄が、私の足に絡みついていた。もう地蔵はいなかったけど、あれが幻じゃなければ……いや、ただ靴紐がほどけただけかもしれない。見間違いだろう。そう思うようにして、翌日。あの交差点の前を通る。だが……地蔵はなく、花だけが残っていた。
完