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令和釣り日記(新しいリール)

作者: 柳キョウ

自分で読んでみても内容がばらばらです。気楽にどうぞ。


「へぇ、柳さんは釣りが趣味なんだ」


よく声掛けられる内容ではある。そんなときは無難に(はい)と答えるようにしている。

相手も釣りが好きな人ならまだしも、そうでない人との釣りに関しての会話は、私レベルの釣り人にとっては、退屈な時間以外の何物でもない。


(私に釣りの話をするなら、もう少し釣りを経験してから声かけてよ)


て感じが本音であるのだ。この時期なら、(こんなに寒いのに釣りに行くの?)てな質問も多くなるのだが、こんなやからの質問に対しては、返答する気すらも起こらない。

実に自分でも不遜ふそんなことだと思う。


さて、冬も本番に突入し、コロナ禍の最中に発生したにわか釣り師の数も減るこの時期、私にとっての楽しみの一つが最盛期を迎える。

それが漁港内の常夜灯回りでの初冬ナイトシ-バスゲーム。


朝夕の気温は一桁台。早朝に至っては0℃近くまで寒くなるこの時期ではあるが、海水温に関しては、地球温暖化の影響もあるのか、13℃前後というのがここ数年の平均数字である。

太陽が出れば西風が強く吹くことも多いこの時期、深夜から早朝にかけての風の穏やかな時間帯に、漁港の常夜灯についたカタクチイワシを、比較的サイズの揃ったシーバスが好んで捕食するのである。

釣り人も少なく、水面が穏やかであるが故に、イワシやシーバスの存在を目で確認することができるため、ルアーのサイズや動きをハメてしまえば、まるで寒さも気にならない楽し過ぎる釣行となることが多いのだ。


(よし、今夜も天気は良さそう。いっちょ、シーバス爆釣といきますか)

そんな心境で土曜日の昼過ぎ、餌を捕り、丸まると太ったシーバスのファイトに対抗すべく、リールの糸を太めの新品に交換して、ついでにメインベアリングにオイルを注そうとしていた時、その悲劇は起こった。

今年も多くのランカーシーバスを釣り上げたシーバス用ベイトリールのサイドプレートが、“バキッ”と割れてしまったのだ。


購入時にはそれほど大きな期待をせず、低価格に釣られる格好で衝動買いしたこの海外製ベイトリール。本当に只の偶然なのだが、シーバス用大型ルアーを使用した場合、スプールの適度な重さがバランスし、飛んでいくルアーの速度が必要以上に高くなるのを防止する。結果、キャストのコントロールがとてもやさしかった。

日本人の手には大きすぎると思われるハンドル径も、重量級ルアーの巻き抵抗の疲労を軽減する効果があった。

国産製の超精密、超軽量の最新型リールだと、こうは上手い具合にはいかなかっただろう。

正に瓢箪ひょうたんから駒って感じのこのお気に入りリールが、あろうことか釣行当日の準備中に、バキッとなって、意外に短かった寿命を全うしてしまったのである。

メーカを擁護すると、もちろん部品の購入・修理は可能である。それでもここが海外メーカの商売上手なところなのか、この部品一つだけで、セール品で買ったリール本体とそれほど変わらない費用がかかったりする。


嬉々として釣り道具部屋に入って行った私が、これ以上ないほどの不貞腐れ顔で出てきたのだから、女房としてはさぞかし不可解だったろう。

不機嫌の理由も告げずに、居間に敷きっぱなしになっていた布団に、無言で潜り込む。私は不機嫌を隠さない。あからさまにそれを前面に醸し出す。

ここで女房から何も声かけがなければ、私はさらに機嫌が悪くなったことだろう。

何か両親にかまって欲しくて、駄々をこねてる子供みたいで、そんな自己嫌悪が、さらに私の心をささくれ立てる。


「どうしたの?釣りの準備するんじゃなかった?」


特に抑揚のない声で、女房が私に問う。


「リール壊れた。もう寝る」


そうは口にしたものの、ほんの数時間前まで寝ていたのだ。布団に入ったからと言って、直ぐに眠れるものでもないし、何より神経が逆立っている。

本当に不貞腐れて部屋に籠ってしまう子供そのものだ。


「他にリールはないの?」


ある。いっぱいある。むしろここ数年は全く使っていないリールなんかの方が圧倒的に多いくらいだ。

でも釣り人とは総じてそうなのだ。

(今日はこのタックルで、その場所で、あの魚を釣りたい)ってな感じなのだ。

他の選択肢はない。一度決めればテコでも動かない。釣り人とは頑固な生き物なのだ。


そんな釣り人というか、私というか、そんなところを心得ている女房は、決して、

(他にもいっぱいあるじゃない。リール)

なんて事は言わない。過ぎた女房なのだ。そして私が子供なのだ。

ちゃんと自覚している。


「どんなリールがるの?メーカとか型式とかすぐに分かるの?」


(どうせ言っても分からないだろ)


心の中でそう呟きながら、私は言う。


「壊れたのはAB〇のレボってリール。一昨年おととしかったやつ」


「ふ~~ん」


その女房の(ふ~~ん)の意味が分からない。何が分かったのか、何が分っていないのか。

ふすま一枚隔てた隣の部屋で、女房と長女がひそひそと何やら話をしている。

しばらくして長女の方が枕元に寄ってきた。


「お父さん、AB〇ってやつのリールがいいの?レボっていっぱい種類あるみたいだけど、どんなやつがいいの?」


おや、女房と長女は一体なにをコソコソと会話していたのだろう。

AB〇のレボは、ナイトシーバスゲームに使用するには、それなりに使いよかった。使いよかったが、それが決してベストという訳ではない。そもそもあまり期待していなかったことと、価格が安かったことによる(わりといい買い物)であっただけだ。

どんなやつがいいと問われれば・・・


「ホントはシ〇ノのメタ〇ウムの2016年以降のモデルがあれば一番いい」


そんなセリフの後に、削り出しボディの剛性の高さや、旧モデルと比較して一気に高みに達したベアリングの耐腐食性を語ろうとして、止めた。長女に説明する意味がない。きっと理解もされない。

娘が隣の部屋に戻っていく。

またまたヒソヒソ会話が聞こえる。そして・・・



「なんか16年モデルのメタ〇ウムMGLってのが、近所のフィッシングマッ〇スにあるようだけど、それじゃダメなの?」


16年モデルのメタ〇ウムMGL!名機中の名機と呼ばれているリールじゃないか。金額も多分3万円オーバーだぞ!!そんなの買っていいのか?買っていいとはまだ言われていないが。

急に機嫌が戻ってしまうのも、何だか恥ずかしいような気もしたので、朴訥とした声で、(それがあればベスト)なんて淡白に答える。(それが欲しい!)なんて、まだ私は言わない。

(買ってもいいよ)って言葉を、布団に潜り込んだ状態で、ドキドキと期待している訳だ。

我ながら子供だ。



「一年間お疲れ様ってことで、買ってきていいよ。せっかくの週末でしょ」


女房の優しいお言葉。ああ、来週はもう仕事納めか。確かにコロナ禍で様々な制限があるなか、例年と比較しても遜色ない成果を今年は上げた。少しは自分を褒めてあげてもいい。


「そういうことなら・・・まあ、今から買ってこようかな」


ゆっくりと布団から抜け出だした私は、口元がにんまりしないよう、この後に及んで気を付けた。


来年も、仕事と釣り、頑張ろうと思った。

家族を大切にしようと思った。




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