砂時計さん砂時計さん、私にもう少しだけ時間をください。
「お待たせしました、梅としらすの釜飯です。」
シメの釜飯が来てしまった。乾杯からもう大分経ったようだ。
「3分ほど蒸らした方が美味しくいただけますので、砂が落ち切るまでお待ちください。」
テーブルに砂時計が置かれた。中の砂が落ち始める。
「なんか久しぶりに見たね、砂時計。」
「だな。」
下野君がテーブルの上で頬杖をついて砂が落ちるのを見始めた。
「砂時計って妙に落ち着くんだよな。これ見てるだけで時間潰せる。」
「うわ、わかる。」
やっぱり好きだ。
こういう感性が合うところが好き。
その優しい目も好き。
「もう3分か。意外と早いな。」
「じゃあ食べよ。」
釜の蓋を開けて中身を混ぜ、取り分ける。
彼は無言で砂時計を返した。また砂が流れ始める。
「はい。」
「あんがと。」
「熱いから気を付けてね。」
今日は時期遅れの新年会。チームの4人で予約したが、ぎっくり腰と子供の発熱で2人欠席になり、私と同期の下野君が残った。
好きな人と二人きりの飲み会。降って湧いたようなチャンスだ。
できればライムの友達登録したい。あわよくば告白したい。
「熱っ!」
変なことを考えていたせいか、釜飯で舌を焼いてしまった。
「ばっか、自分で気を付けろって言っといて。」
下野君が自分のハイボールをこちらに押した。遠慮なく口を冷やす。
私はお湯割りだったからすごくありがたい。
「だって、その、我慢できなくて…」
「食いしん坊かよ。」
いじわるな笑い方にどきどきする。
食いしん坊って言葉選びも好き。
「そういや子供のころ砂時計を壊したことがあってさ、」
そう言いながら下野君がまた砂時計を逆さにした。
「砂が全部漏れちゃったんだよ。」
「やっちゃったね。」
「うん。で、どうにか直そうと思って。公園の砂入れて、ガラス用の接着剤で閉じ込めたんだよね。」
「うん。」
手振りでの説明。きれいな爪が見える。
「でもその砂、全然落ちなかったんだ。振ってもすぐ詰まっちゃうし。」
「え、なんでだろ?」
「調べたら粒が小さくて丸い砂じゃなきゃだめなんだって。あと乾燥も必要。」
「調べたんだ。」
わからないことをしっかり調べるのも素敵。
って口に出せばいいのにね。そんな勇気ないけど。
それからまた1時間。
話は弾んだが、結局、ライムも聞けていない。
「さて、そろそろ会計しよっか。」
下野君が呼び出しボタンに手を伸ばす。
「ねぇ。」
今度は私が砂時計を返す。
「あと3分だけ。」
ここに勝負をかけよう。
でもお願い。
砂時計、詰まれ。