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雪の都に華が咲く〜転生したプロデューサーが異世界でアイドル育成を始めたら、チート級の暗殺者になりました  作者: 八万岬 海
03-Bridge

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064話-流された結果

 エイミーとケレスに両手を掴まれて、連行される宇宙人の気分で引きずられるように人気のない方へと連れて行かれる。


「うー……ユキダメだからね」


「え、な、なに?」

「あんまり他の人と……その……とにかく気をつけなきゃ」


「そうそう、まだ若いから知らないだろうけど、女は怖いよー」


 内心で「知ってます」と思いつつ、声には出さずに大人しく二人に引きずられて行く。


「二人とも、どこまで行くの……?」




 教会を通り過ぎると、人が誰も居ない通りだけが奥へと続いている。

 誰も居ない街中は日が落ちただけで真っ暗になっており、人の気配が全く感じられなかった。


「うー……」

「わぷっ!?」


 突然停止したエイミーの背中にぶつかり、慌てて足を止める。


「ご、ごめんエイ……」


 エイミーとケレスが振り返ると突然ギュッと抱きしめられ、このまま締め落とされるんじゃないかと思ってしまう。


「勝手に先走ったりしちゃうのは良いけど……まだユキには早いからね?」

「いつの間にか居なくなって、変な女と仲良さそうに帰ってくるなんて……」


 変な女……。

 確かに変な奴だけど、エイミーとケレスにまで完全にヴァルと色々と何かあったと勘違いされている。


 アイナもそうだけど、そこまで信用されていない……訳ではないか。

 信用はしてくれているけれど、こんな見た目だから心配されているだけか。


(嫉妬……って俺が思ってしまうのは傲慢かなぁ……)


 ともかく二人には改めて謝って、次からは連絡入れると約束する。


「そ、それでユキ……ほんとに何もなかった?」

「あの子に何かされてない?」


「何もされてない……よ?」

「ちょっと詰まった」


「でもほら、エイミー。ユキだって男の子だから。こういうときは女が寛大な心を持たなきゃ」

「えー……ケレスがそれ言うの? 一番ソワソワして探しに行くのに街を飛び出した癖に」


「なっ、ばっ、エイミー言わないって約束したじゃん!」


 ケレスがエイミーの頬をむにむにと弄りながらわーわーと騒ぎ立てていると、どこからともなくアイナが上から降ってきた。


「おまたせーっ! って、なにやってるのケレス」


「おかえりアイナ。エイミーのおしゃべりなお口に仕返ししてたの。アイナこそどこ行ってたの? ユキがまた違う女の子に食べられそうになってたよ」


 またしても誤解を生む発言をぶっこんでくるケレス。悪気は無いのだろうが、どんどん肩身が狭くなってくるので勘弁してほしい。





「ところでアイナ、それどうしたの?」

「……わかんない」


 アイナが戻ってきたときコットはどこに行ったんだろうと最初思ってしまったのだが、アイナの背後から首筋に抱きついていたのだった。


『まーまー、私のことは気にしないで』

「なんだか離れてくれなくなっちゃって」



 あんなにピリピリしていたのに何があったんだろうと気になるが、あまり深入りしない方が良い気がしたので敢えて聞かないことにする。


『だいじょーぶ! 私もうすぐ消える時間だからさ!』

「え……どうして……?」


『今日一日、ユキの護衛に作られただけだからさ! 本体に合流するよーあっちはなんだか大変そうだし』

「そう……なんだ」


 コットの言ったことは少しニュアンスは違うがアイナに分かりやすいように言葉を選んでいるようだった。


 相変わらず高性能な幻影だ。


 大変そうというのは、例のアウスとかいう先輩の事だろう。

 結局ヴァルもあのアウスというやつも、どういう立場で何をしているのかも全くわからなかった。


 俺たちも次に首都へと向かうし、ヴァルも首都に行くと言っていたので遠くないうちに会えるだろう。


(嫌でも会ってしまいそうな気がするなぁ)




「えっと、結局なんだっけ……」


 いい感じに話が脱線していたのに、なぜ俺は話を戻してしまったのだろう。


「あ、そうだった。ユキは座長さんなんだからもっとしっかりしなきゃダメだよ? ってお話」


「そーそー。でもエイミーが言ってるのはユキ個人のことだからね。まだ小さ……若いんだから、しっかり自分を持たないと面倒ごとに巻き込まれちゃうよ」


 エイミーとケレスのお小言が発動してしまったが、今回に関しては二人の言う通りなので素直に謝るしかできない。


「とっ、とりあえずさ、エイミー、ケレス」

「どしたのアイナ。顔真っ赤だよ」

「ちょっと耳貸して」


 アイナがそう言ってエイミーとケレス、コットも引っ張って俺から離れたところへと移動して円陣を組みはじめる。




「だから……って思うんだけど……」

「ええぅ…………じゃ……でも……」

「リーチェとか…………なの?」

「それは……でも……って」


(なんだこれ……)




 静かな街中なので所々内緒話が聞こえてくるが、なるべく聞かないように道の端に移動して誰も住む者が居なくなった家の壁にもたれかかる。

 ともかく明日には用意を終わらせて明後日には出発だと考えると、目的地までどれぐらいの日数がかかるだろうか。


 ローシアの街からここまで七日、その前は俺が拾われた場所まで四日ぐらい。

 その先はどれぐらい掛かるかわからないが、最低でも半月程度の移動になる想定をしておいたほうがいいだろう。

 捕まえた道化商会(ジョクラトル)の四人は『見世物小屋(フリークショー)』へ眠らせたまま入れておく。

 

 (もしかして全員あの部屋に入ってもらって、俺とアイナが二人で身体強化を使って走った方が早いんじゃないか?)


 集団で移動して道中の危険リスクを考えるなら、何がなんでも全員で向かう必要はないだろう。


(でも、せっかく首都とやらに行くならそこで舞台もやりたいな……歌も披露したいし俺もちゃんと聞けなかったし)


 結局みんなと相談だなと当たり障りのない答えを出したところで、アイナたちの話し合いぽい何がが終わったようだった。




『じゃあユキ、私そろそろ消しても大丈夫だから』


 何を言われるのかと思ったら、最初に口を開いたのはコットだった。


「ん、わかった。でもその前に聞きたいんだけど、本体の位置って把握できるの?」

『んーなんとなく? 近づけば多分わかるよ』


「そっか、じゃあ用があるときはまたお願いしてもいい?」

『いーよ! 昼間でも夜でも私はいつでもオッケーだから!』


 いい笑顔でそんなことを言われ頬にキスをされる。

 何かされるかなと身構えていたのだが、気配なく動いたコットに反応出来なかった。


 またしてもアイナたちに何か言われると思ったのだが、三人ともなにやら微妙な表情のまま動かない。


『じゃ、ユキ、よろしくね』

「わかった、ありがとう」


 短くそれだけ伝えるとヴァルの幻影であるコットの魔技を解除すると光の粒となって音もなく消え去った。




 何度見ても俺が出した幻影なのだがコットの言動を見ているともう一人のヴァルを生み出しているとしか思えない。

 俺の『管理の手帳(デウス・リベル)』のせいで幻影の効力が変わったのではないだろうか?

 座長やアイリスは『魔技を強化している』と言っていたがそれだけが原因ではないのはもはや明らかだった。


「えっと、ユキ、それでね?」

「私たちで話し合ったんだけど」

「今後こういうことがあっても後悔しないようにさ……」


 コットが消え残された三人はモジモジとしながら俺に躙り寄ってくる。

 もしかして監禁でもされるのか? と思ったが、どうやらそうではないらしい。


 アイナがふらりと一歩踏み出してきて俺の両手を握ると、指を絡めニギニギされる。


「あのね、キスしてほしい」

「キス……って、えぇっ!?」


 なにを言い出すのかと思ったら、目を閉じて顔を寄せてくるアイナ。

 俺の方が身長が低いせいで、両頬を抑えられ顎を上げさせられる。




「ちょ、ちょっと待って! なんでいきなりそんな話に!?」

「さっきみんなと話し合った」


「まっ、待って……そんなこと言われても心の用意が!」



 アイナはなぜか身体強化まで使っているらしく、頬を掴んでいる手が離れない。

 後ろではエイミーとケレスが次は自分の番だと言わんばかりの表情でじっと熱い視線を送ってくる。


「ユキは、私のこと嫌い?」

「嫌いじゃないけど……」

「じゃあ好き?」

「ま、まあ……好き……だけど」



 好きか嫌いかで聞かれたら好きなのは間違い無いが、この状況はどうしたらいいのか判断できない。

 この世界で男女の交際事など、なにが普通でなにが普通じゃ無いか、俺はまだ知らない。

 やってはまずいことなら、それこそ取り返しがつかないのだ。

 だが、そんな俺の葛藤を他所にアイナがありえないことを言った。


「ユキ……郷に入れば郷に従え……よ」

「――!?」


 驚いた俺とアイナの影があっけなく重なり、俺の鼻孔に甘い花の香りを感じる。


「ん……ぅ…………」


 数秒だったのか、数十秒だったのか、もしかしたら一分以上経過していたかもしれないが、アイナの柔らかな唇の感触がスッと離れていく。


「ん……あははっ、照れるねこれ……はぁー……やばい……顔あつい……」


 自分の顔をパタパタと手で仰ぐアイナだが、俺の顔のほうが熱い。




「アイナ、一つだけどうしても聞きたいんだけど良い?」

「え……ご、ごめん。わ、私、お作法とか間違ってた……っ!?」


 キスにお作法も何もほとんど無いと思うのだが、そんなことではない。

 俺を硬直させてしまったアイナが言った一言だ。


「郷に入れば郷に従え……って誰に聞いたの? それともよくある言い回し?」

「ヴァレンシアに聞いたよ。ユキが拒否するならそう伝えれば理解してくれるって。私も初めて聞いた言葉だけれど、意味もちゃんと聞いたよ?」


「ヴァレンシアから……?」


「もしかしてユキの昔ってヴァレンシアが何か知ってる感じなの?」

「えっと、そういうことじゃないんだけど……俺もヴァレンシアから意味を聞いてたから」


 アイナには適当に誤魔化したが、やはりヴァルは日本のことをを知っている……もしくは俺と同じ?

 そして俺が日本人だということにも気づいているということだ。


(なんで……いつの間にバレた?)


 俺は特にそういった素振りを出したことがないのだが、ヴァルは会話をしている時に色んなスラングを何度も使っていた。

 そのスラングに対し普通に答えていた俺。

 気づかれたということならその辺りが原因だろうか。


 妙な不安が襲ってくるが、ヴァルの様子から突然殺されたりすることはないはずだ。


(……ないよね? まさか捕まって切り刻まれたりとか……ヴァル強そうだし……)


 なるようにしかならないが、こればっかりは心が落ち着かない。

 しかし今の俺に出来ることは何もない――コットをもう一度出現させて聞けば答えてくれるだろうか?


(いや、コットがアイナに言った事自体が俺に対するカマカケの可能性もある)


 結局あーでもないこーでもないと考えがぐるぐると混乱してきたところで、フワッとした花の香りに包まれた。




 アイナとは違う優しな草の香りも混じったような香り。

 エイミーが俺を包み込むように抱きついてきていたのだった。


「ユキ、だいじょうぶ?」


 初めてこの世界に来たときの夜からずっと掛け続けてくれていたそのセリフを聞くと、不思議と心が落ち着いていくのが解った。


「うん……ありがとうエイミー」

「じゃぁ……次私……そ、その……嫌だったら言って……」


 そして唇に触れるマシュマロのような柔らかさのエイミーの唇。

 突然すぎてアイナの時以上に心の準備が出来ていなかった。


「――――」

「…………エイミー……長い」

「エイミーいつまでそうしてるの……?」


 少し震える手を背中に回されており、時折ピクッと動く唇の感触を感じながら背後からの二人のガヤを聞き流す。


「……ん……はぅ……」




(一体なにがどうなってこんなことに……)


 完全に状況に流されるままの俺だったが、彼女たちの気持ちも尊重したいと自分に言い訳をする。


(そりゃ、この世界では一夫多妻が普通だって言ってたし平民ですら15歳には結婚するって聞いてたけど……)




「ユキ……もしかして……嫌……だった?」



 なにも言わない俺に不安を感じたのか、エイミーが悲しそうな顔で俺を見つめていた。


「そんなことあるわけない。嬉しいんだけど……なんていうか」


 日本でのことを未だに強く覚えたままだが、少しずつこの世界の常識も身についてきた。

 それなりに幸せそうな人たちであふれている反面、この街の惨状のように突如人生が壊れる事件がすぐ身近にある世界。

 そんな世界だからこそ後悔しないようにと、みんなこういうことには積極的なんだなと思う。


「みんな悲しませないように頑張ろうって思ってさ」


「そっか、じゃあ嫌じゃなかった?」

「当然」


 俺は俺なりに、なんと言われようとも座長代理として俺のやり方でみんなを守って行こうと改めて心に誓ったのだった。




「じゃぁ……次……あ、あのねユキ、お願いがあるんだけど……」


 普段はアイナと同じぐらい男勝りな元気系のケレスが見たこともないような真っ赤な顔でモジモジしている。


「え……っと、なに?」

「その……ユキからして欲しい!」

「え、ちょっとケレスずるい」


 アイナの抗議に耳を貸さない様子のケレスがてこてこと近寄ってくる。

 ケレスはアイナより少し小さく、エイミーよりは背が高い。それでも俺より顔半分ぐらいは身長が上なのだ。

 俺からというのは些か恥ずかしいものがあるが……。


「わ、わかった……」


 若干俯き気味のケレスがきゅっと目を閉じるのを見ながらゆっくりと顔を近づける。


 リンゴのような蜜のような甘い香り。

 バクバクと高鳴る心臓の音をなんとか抑え、ケレスの頬を両掌で触れ唇を重ね合わせた。



「んん…………っ、はぁっ……ん……ふふっ、ユキの唇柔らかいね」


 恥ずかしさをごまかす為か、口を離すとすぐにクルリと背を向けるケレス。



「えっと……もし教えてもらえたらで良いんだけど……なんでこんな事を」


「ユキが想像してる通りだと思うよ。こんな家業だとさ、いつどんな危険があるかわからないから、もしもその時に後悔したくないし」


「だっ、誰にもこんな事しないんだから……ユキだけだから」


「あ、リーチェあたりがそろそろ探しにくるかも……みんなそろそろ戻ろ?」


 いつかは俺も身を固めなければならないのだろうかと考えながら、四人そろって教会へと戻ったのだった。



次回は幕間があるので21時頃に更新します!

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