039話-何が起こったの?
俺が目を覚ましたのは、陽が傾き始めた頃だった。
倒した一本角の牛とフォレストウルフは全員で処理したらしい。
俺が魔法で作った岩壁と岩槍も跡形なく消え去っていた。
「えっと……それでアイリスはどうして地面で正座しているの?」
「ユキを絞め落とした罰だって」
「……どうして隣でケレスまで正座を?」
「ええっと……それは大人の事情……かなぁ」
俺の質問にエイミーが目を逸らして言葉を濁す。
だが、ケレスは明らかに全身びしょ濡れの姿でアイリスの隣に正座させられているという明らかに何かがあった様子だった。
(あと、これは質問したくないけれど、聞くしかないのかな……)
「…………あの、クルジュナ? なんで俺、上半身裸で膝枕されてるの?」
話が進まなさそうなので、意を決して俺を見下ろしていたクルジュナに質問をぶつける。
シャツが脱がされ、シーツをかけられた状態で膝枕されていたのだが、これが一番状況がわからない。
(クルジュナってまつ毛長いなぁ……お人形さんみたい……)
現実逃避気味にそんなことを考えつつ、クルジュナが口を開くのを待つ。
「……ええっと……」
だが、クルジュナも目を逸らしなんというか悩んでいる様子で時間だけが過ぎる。
「お待たせー! って、ユキ起きたんだ、おはよう!」
「アイナ……これどう言う状況か教えて欲しいんだけど」
結局クルジュナもなかなか話そうとしてくれないので、丁度姿を見せたアイナに説明をお願いしてみた。
アイナは「う~ん」と口に指を当て何かを考え始め、やがて口を開いた。
「ユキの介抱をケレスがしてくれていたんだけど、突然発情しちゃって服を脱がせ始めたから水ぶっかけた……って感じかな」
「……えっ?」
「ご、ごめんねユキ……私そんなつもりじゃ……ごめん」
「ええっと、発情ってどういう事?」
驚いてつい聞き返してしまったのだが、犬や猫の発情期と同じだろう。
だが俺の質問にアイナとリーチェはサッと顔を逸らし、アイリスとエイミーが苦笑いしながら顔を見合わせる。
(人間と動物のハーフだと思えば別におかしなことはないだろうし)
「ええっと……ユキ……にはまだ早いかな……もうちょっと大人になってから……ね?」
そうは言われても、中身は既におっさんだしエイミーの反応を見ると大体想像通りだろう。
「えっと、とりあえずもう陽が暮れそうだし、この辺りで夜営の用意しようか」
「それもそうだね〜、じゃあ私、竈作るね! アイナ手伝ってー」
慌てて話題を変えるかのようにリーチェとアイナが大きめの石を探しに行き、サイラスとクルジュナが馬車を街道横へと移動させ始める。
「とりあえず二人とも立って……ほら、足痛いでしょ?」
「うう……ごめんね」
「ユキ……あとで魔法のこと教えてね?」
しょんぼりしたままのケレスとアイリスの腕をとって立ち上がらせると、二人ともヨロヨロとした足取りで馬車へと向かった。
「……はぁ、一体なんだったんだ」
俺は二人の背中を見送りながら、俺はエイミーと一緒に食器類の用意を始めたのだった。
――――――――――――――――――――
曇り模様だった空も、翌朝にはすっきりと晴れ渡り透けるような青空が広がっていた。
「今日もいい天気……だけど」
昨日の夕方、俺たちは街道から少し離れた丘の影に馬車を止めて夜営した。
だが翌日、馬車から出て最初に俺の目に飛び込んできた光景は野営地はぐるりと高い土の壁に囲われており、寝る前に見た景色が一変していた。
「えっと……アイリス……とヘレスにハンナ……の仕業か」
昨夜は夕食を取りながら、すっかり元気を取り戻していたアイリスとハンナ、ヘレスに土の壁を作った魔法について根掘り葉掘り聞かれた。
実際に俺が壁を作ってみて触らせてみたのだが、スピードはともかく三人ともすぐに何もない地面から土壁を作れるようになったのだった。
「ユキ先生おはよう」
「おはようございます先生」
「ユキ先生おはようございます」
「アイリス……ハンナもヘレスもいつも通り呼んでよ……」
いつもはアイリスの授業中は俺が先生と呼んでいたのに、昨夜からは俺が先生と呼ばれてしまうようになった。
ハンナもヘレスも面白がってなのか、俺のことを先生呼ばわりしてくるのだ。
「もう、ユキったら照れちゃって」
「でもほんと、ユキってばすごいよね、私あの水の魔法が一番感動しちゃったわ」
ヘレスが言う『水の魔法』とはよくあるアレである。
水は高速で噴射すると鉄すら切ることが可能だという『ウォーターカッター』だ。
某ドキュメンタリー番組で見たことがあったので、手短にあったでかい岩に使ってみたところ、面白いように切れた。
それで気を良くした俺は思いつく限り魔法で色々とやって見せたのだが、三人とも何度か原理を説明するだけですぐに使えるようになってしまったのだった。
(そのせいで先生って呼ばれるようになっちゃったんだけど……調子乗りすぎた)
「私はあの火の魔法が一番感動したわ! やっぱり魔法ってのは派手じゃないとね!」
「それでアイリスはパン食べながら何やってるの?」
「ん……んぐっ……ん、っと、論文を書いているのよ」
「論文……」
確か以前もそんなことを言っていたが、この魔法が広まってしまうと戦争の形態が変わってしまう。
果たして世に発表して良いのだろうか……。
「ふふっ、大丈夫よ。文章で書いたところで誰も信じないし実現できるとは思わないわ」
アイリス曰く実際に目の前で見たところで、どう言う仕組みで、どう考えて魔法を行使しなければならないかと言うのが理解できなけば問題は無いらしい。
それに論文は知り合いの博士に見せるだけだから大丈夫だそうだ。
(まぁ……俺がやらなくてもそのうち、魔法といえば攻撃魔法って感じになるんだろうな)
だが今回初めて魔法で敵を攻撃してみたのだが、威力はあるが時間がかかる。
当人たちはどうかわからないが、クルジュナの『影の旋風』などの魔技は頭で思い描けば直ぐに発動する。
だが、それに比べ魔法は発動場所や使う魔力の量、どういう属性のものにするか、そして発動したときの効果までを頭で想像しながら発動させなければならない。
(確かに魔技のほうが優秀だよなぁ……)
だが、魔技を使えない人、魔技でも攻撃系のものを持っていない人にとっては攻撃手段の一種になることは間違いない。
そして防御にも使えるとなれば、やはりこの一座のメンバーには自分のみを守るための術として使えるようになってほしいと思う。
「ユキーご飯たべなよー」
「アイナ、ありがとう……って、これなんの肉?」
「昨日ユキが仕留めた牛だよ!」
朝から焚き火で焼かれていた、数人前はありそうな肉の塊。
こう言う肉は保存が効かないのでみんなで頑張って早い目に食べ切るのが普通だと以前座長に説明してもらった。
(確か前も、でっかい鳥の魔獣を倒したからずっと鶏肉が続いたんだよな)
それにしても朝食にするにはかなりボリューミーなメニューだ。
「十日分ぐらいあるから、しばらくはお肉続きだね。サイラスなんて喜んじゃって」
いくつかは燻製にするそうだが、折角だし保存容器を作って持ち運べるようにならないだろうか。
俺はそんなことを考えつつ、目の前に置かれた巨大なステーキにかぶりついたのだった。
次回「040話-仕込みと練習」は明日8時頃の更新です!
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