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7 時間の流れは速い

 俺のレベルに驚いていたフィリノアちゃん曰く、レベル100なんて今まで聞いた事ないのだそうだ。


「噂には伝説の――世界を救った”勇者”レイヴや”聖女”ゼルビア等六百年前の魔王を討伐した方々のレベルがそれ位なのではないか、と言われてます」


 そうなのか。

 ……それにしてもレイヴにゼルビアか。懐かしい名前だ。


 当時”勇者”と言われていた”レイヴ”も強かったが、レイヴ以外にも強い奴等は沢山いた。

 そういう時代だった、と言ってしまえばそれまでであるが、それ程までにあの頃の魔物は強かったのだろう。今はそれ程でもないのだろうか?

 俺等の時代はそれ程の力を手に入れなければ、魔王や魔王が率いた魔物達には勝てなかった。

 それが六百年前か……六百年前?


「フィリノアちゃん。……待ってくれ、”勇者”が魔王を倒したのがいつだって?」


 俺が震える様にそう尋ねると、フィリノアちゃんは不思議そうに首を傾げ、


「えっと……六百年前、ですけど」


 そう言った。

 六……百……年……前、だと?

 俺、六百年も封印されていたのか?

 体感的に勝手に数百年程度と思っていたが、既に六百年も経っていたとは。

 あの女神は言っていた。


『……そうだね。千年経ったら、解放してあげるよ。大丈夫、千年なんてほんのちょっとさ。……神様にとってはね』


 と。

 ゾッとする話だ。

 百年どころか千年である。


「……あのクソ女神ぃいいいいい!!」


 ふと、急に怒りが徐々にぶり返してきて、思わず俺は天に向かって叫ぶ。


「神様にとっちゃ千年なんてほんのちょっとなんだろうが、俺にとっては大切な時間であった筈だ! 魔王を倒した英雄の一人として持ち上げられて、女の子に囲まれてチヤホヤされて、可愛い奥さん貰って――って、なってたかもしれないじゃないか! それをあの女神!! 許せん! 許せるものか!!」


 俺のこの六百年の生活を返せ!!

 俺は磔にされた儘の身体で吠える。


「もう一度挑んでやる! 今度はこそ全部見通した様なあの顔をぶん殴ってやる! 外見が美少女だろうがなんだろうが、俺はやってやるぞ! やって見せるぞ!」

「は、はぁ……」


 はて、何故フィリノアちゃんは少し引いたような顔をしているのだろうか?


「……で、フィリノアちゃんは何か目標はないのかい?」


 俺は興奮冷めやらぬ儘、フィリノアちゃんに尋ねる。

 フィリノアちゃんは「目標ですか?」と聞き返して来た。


「冒険者なんだろう? 『金が浴びる程欲しい』とか『とんでもない魔物を倒して有名になりたい』とか色々あるんじゃないのかい?」


 千年前――俺の時代の冒険者達の中にも、そういった理由で冒険者となる人間は少なからずいた。

 圧倒的にそうじゃない荒くれ者出身の連中が多かったが。


「……そうですね」


 フィリノアちゃんは考え出す。

 すると、一瞬悲しそうな表情を浮かべたが、直ぐに頭を振る。

 何か嫌な事でも思い出したのだろうか?


「……何か嫌な事でも思い出したのか?」


 俺はあえて直球に聞いた。


「え?」

「凄く悲しそうな眼をしてた。俺で良かったら聞いてあげるが……まぁこの身体では文字通り聞くだけしか出来ないんだが」

「……フフッ、そうですね」


 俺の言葉に、思わずフィリノアちゃんが吹き出す。


「……あの、私の話、聞いてくれますか?」


 フィリノアちゃんのその問いに、俺は「勿論」と頷いた。





「私、あの洞窟で仲間に置き去りにされたんです」


 フィリノアちゃんは俺に話し出してくれた。

 冒険者となり、仲間を得、そしてソイツ等に置いて行かれた事。


「……酷い仲間だな」


 フィリノアちゃんの話を聞いた俺は、思わずそう呟いていた。

 俺と出会った時、彼女は仲間に見捨てられた後だったのだろう。

 泣きたかったかもしれない。叫びたかったかもしれない。

 そんな状況であっても、俺には一切泣き言を言わず、俺が外に出るのを手伝ってくれたのだ。

 一切動けない俺を、助けてくれたのだ。

 ……なんて優しい子なんだ。


「そう、ですかね。……怪力だけが取柄のお荷物でしたから、仕方ないのかなって」


 頬を掻きながら、フィリノアちゃんはエヘヘと誤魔化す様に笑う。


「そうさ。……本当に仲間だっていうなら、ソイツがいくらお荷物だろうと、別れ方もちゃんとするもんだ」


 俺達が魔王討伐を目標に各地を旅していた頃も、人数が多い事もあって、各自の事情も様々で、旅の中で隊を離れてった奴は何人もいた。


 俺達の方も、隊を離れたいと言う連中とちゃんと話し合って、円満に解決する様に努力したが、中にはそれも出来ず、「自分の腕ではこれ以上ついていけない」と一方的に言って討伐隊を離れていった奴もいた。

 だが、それでも俺達はそいつを攻めたりしなかった。

 まぁそんな事している余裕もない程に忙しかったのが事実であるが。


「普通の奴なら、顔見知りを一人で洞窟に置き去りにするもんじゃない。それに――」


 俺は咄嗟に口を開いていた。


「いいかいフィリノアちゃん。君は見ず知らずの俺を助けてくれた。あの牢獄から、地獄から助けてくれた。俺にとっては命の恩人なんだ。君は決して怪力だけが取柄じゃないさ」

「……ユーグさん」


 フィリノアちゃんが涙を浮かべて俺を見る。


「……ま、今は君の武器だ。武器の言葉くらい、信用して欲しいな」


 なんだか恥ずかしい事を言った気がして、俺はそう茶化す様に言う。


「フフフ……はい!!」


 彼女は涙を拭うと、俺にそういって元気良く頷いてくれたのだった。

 ……ここはチョロいなんて言わない方が良いだろうな。

 うん、自重しよう。



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