表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/26

6

「さて、フィリノアちゃん」


 俺は考えていた事を話し出す。


「動けない俺が言うのもなんだけれど、これからどうするんだい?」

「少し離れてますけど、私が依頼を受けたガンドノーラという街があります。……そこまで戻ってみようかと」


 ほう、街があるのか。


「俺もそこに連れてってくれないか?」


 俺がそう尋ねると、フィリノアちゃんは何の躊躇も無く「はい!」と頷いてくれた。……なんて純粋で優しい子なんだ。


「……ユーグさんは街についてからどうするつもりですか?」


 俺か? そうだな。……取りあえず俺を(この)状態にしてくれた女神(アイツ)の事はぶん殴りたい。

 とはいえ、この状態では何も出来ないのは確かだ。

 手と足が繋がれて移動出来ない以上、誰かに持ってもらわなければならない。

 ……ならば俺がフィリノアちゃんに言える事は一つだ。


「……フィリノアちゃん」

「はい」

「……俺を武器にしてみないか」

「……えっと、武器、ですか?」


 何言ってんだコイツ、みたいな顔をしないでくれ。


「そうだ」


 フィリノアちゃんが、俺を()()として扱い、移動する。

 これだ。

 現状、街に付くまでの移動手段及び敵への対処をするにはこれしかない。


「……人を武器とするのは……ちょっと」


 そうフィリノアちゃんが断ろうとする。

 だが、俺もそれで「はいそうですか」とは言えない。


「いや、君さっき俺を使ってゴブリンを殺してたじゃないか」


 しかも思いっきり脳天直撃のクリティカルヒットで。

 俺が反論すると、ピクリとフィリノアちゃんの肩が弾む。


「それに俺は特に目的が……あるっちゃあるが、この状態では一人で動けないし、この有様じゃどうしようもない。そして君も、手元には武器がない。武器がなければ道中の敵をどう対処するんだ?」

「――!! 確かにそうですね」

「という訳で、今日から俺は君の武器だ!」

「はい!!」


 という訳でこの瞬間、俺は彼女の武器とあいなったのである。

 ……バカとは思わないでくれ。

 この時の俺達は、実に真面目にそれこそが解決法だと思っていたのだから。







 とはいえ、その街に到着するまでの道筋は長くて遠い。

 巨大鼠(ジャイアントラット)に会えば、


「――今だ! 俺を振れ!」

「はい!」


 と俺を回して殴り、ウルフに襲われそうになった時も、


「思いっきりぶん回せ!!」

「はい!!」


 戦っていたゴブリンが逃げ出そうとすれば、


「――フィリノアちゃん! アイツが逃げるぞ! 俺をブーメランの様に放り投げろ!!」

「はい! ――そりゃ!!」


 なんてことを魔物と出会う度に俺を振り回していれば、






「おぼろろろろろろろろろろぉぉぉぉぉぉぉっ」


 こういう事に陥る羽目になるのである。

 そりゃこうなるよなぁ。

 あー、食ったモノ全部持ってかれそう。


「うげええええええぇぁぁぁぁぁああああ」


 ……うえ、気持ち悪っ。

 頭がクラクラする。


「だ、大丈夫ですか?」


 フィリノアちゃんが、心配そうに、俺の背中を(さす)ってくれる。

 どうして磔にされてるのに背中を摩れるのかって?

 人の手が入る程度には俺と十字の間にはちょっとだけだが隙間があるのだ。


「だ、大丈夫。OKOK。問題無し」

「……全然大丈夫に見えないんですけど、本当に大丈夫ですか?」

「おう、だいじょ――オロロロロロロロロ!!」


 フィリノアちゃんには大丈夫と答えたが、何分久しぶりに身体を動かした――動かされた――し、物を食べた後のこれである。

 吐くのも仕方ないのではないだろうか。


「……ふぅ」


 良し、漸く全部吐いたぞ。

 あースッキリした。


「いや、ゴメンな突然吐いたりして」


 あぁ、久しぶりの食事が。

 とはいえこれは仕方のない事だ。

 彼女が俺を振り回す以上、避けては通れない事である。


「いえ。……本当に大丈夫ですか?」

「あぁ、もう大丈夫だ。引き続き、思う存分俺を振り回してくれ」

「……さ、流石にもう少し休憩しましょう?」

「そうかい? まぁ君が言うなら……」


 フィリノアちゃんは俺の近くに腰を下ろすと、「ステータス」と呟く。

 すると、フィリノアちゃんの目の前に何かが現れた。

 ――え、何それ?


「何だいそれは?」


 俺が尋ねると、フィリノアちゃんは不思議そうに首を傾げた。


「何って……ステータスです。誰もが自分の能力を数値で確認出来るんですよ。……その分自分に能力が無いことも分かってしまうんですけど」


 そういってフィリノアちゃんは近寄って来て、俺にステータスを見せてくれる。



 ―――――――――――――――



 フィリノア【クラス:戦士】

 レベル 17

 魔力  20

 攻撃力 100(装備補正+500)

 防御力 21 (装備補正+500)

 速度  26 (装備補正+100)

【装備:ユーグ】



 ――――――――――――――――


「本当だ。ユーグさん、私の装備って事になってますね」


 俺の時代、ステータスなんてのはなかったのだが、今は誰でも簡単に自分の能力を見れるようになっているらしい。便利な世の中になったものだ……と思ったのだが、装備補正?


「……とてつもなく各ステータスに補正ついてますね」


 俺は一つ気になった事があった。


「なぁフィリノアちゃん。俺のステータスってのも見れるのかな?」


 俺がそう尋ねると、フィリノアちゃんは、


「他の人にステータスを使う事はギルドでは御法度って言われてるんですけど……仲間なら」

「まぁ俺は君の武器だ。なら、大丈夫だろ」

「わ、わかりました。やってみますね。……ステータス!!」


 フィリノアちゃんは俺に向けて手を翳す。


 ――――――――――――――――


 ユーグ【クラス:英雄】

 レベル 100

 魔力  729(封印中)

 攻撃力 1000(封印中)

 防御力 1000

 速度  0 (動けない)

【所有者:フィリノア】


 ――――――――――――――――


 ……なんじゃこりゃ。


「嘘。……レベル100!?」


 ……え、だから何さ?

 なんで驚いてるのかわからないから俺に教えてよ。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ