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4 問題

 動けない。

 俺にとってもフィリノアちゃんにとっても、これ以上ない問題である。


「……えっと、どういう事ですか?」


 フィリノアちゃんが尋ねてきたので、俺は素直に実演する。

 はい、磔~……に元々なっているけど、足までピンと伸ばして見せ、


「見てくれ。足が地面に届かないんだ」


 そう説明する。


「な、成程。……確かにこれだと十字の下の部分が邪魔で動けませんね。……引き摺って歩くのにも無理がありますし……」


 どうやら説明が伝わった様だ。

 良かった良かった。


 この十字、あの女神(おんな)の意地の悪さが出てるのか、丁度俺が歩けない様な長さになっているのだ。

 全く以て性格の悪い。


「……コイツをどうにかしないと、俺は動けないんだ」

「うーん。……十字を壊せれば良いんですけど」


 そう言いながら、フィリアちゃんは十字を叩くと、カツン、カツン、と甲高い音が鳴る。


「固いですね。……ちょっと私では壊せないと思います」


 ガッカリ肩を落として申し訳なさそうにする。

 だろうな。

 俺でも壊せなかったんだから。


「それに全然錆がないですね。何の金属なんでしょう?」


 興味深そうに、フィリノアちゃんが十字を見る。


「わからん」


 俺にもわからない事は答えられない。


「どれ位繋がれてるんですか?」

「それもわからん。……数年数十年どころではない、と思うんだが……」


 どれ程繋がれているのかは俺にもさっぱりである。


「……」


 そこ、絶句するな。俺だって絶句したいわ。


「……と、兎に角、どうにかしないと!!」


 ……誤魔化したな。まぁ良いけど。


「……そこでだ。ちょっと提案がある。聞いてくれるか?」

「……はい。何でしょう?」


 俺は思いついた考えをフィリノアちゃんに伝える。

 君が出来るかどうかは別だけどね。






 ―――――――――――――――――――



「これで良いですか?」

「驚いた。……フィリノアちゃんは力持ちなんだな」

「馬鹿力って言っていいですよ?」


 俺がした提案は簡単だ。

 地面から十字を引き抜いて、そこをフィリノアちゃんが大剣の様にして肩に担いで持つ。

 無理だろうと思って提案した事だったが、俺が思った以上にフィリノアちゃんは力持ちだった様だ。

 以外に軽々と持っている。

 オジサンびっくり。


「これなら確かに移動できますね!」


 フィリノアちゃんが元気良く言う。

 うんうん、元気なのは良い事だ。


「そうだな。……ただ次の問題がある」

「はい、次はなんですか?」


 俺は周囲を見回す。

 そこには俺を担いだらギリギリの天井と、フィリノアちゃんが辛うじて通れる程の小さな穴が広がっているだけの、大して広くもない空間が広がっている。


「……ここをどうやって出るか、だ」

「……あ」


 そうだよね。

 そこ普通考えないよね。







 ―――――――――――――――――――



「――はぁああああああっ!!」


 ドゴオオォォン!!


 結局、


「――たぁああああっ!!」


 ドゴオオォォン!!


 俺を担いだフィリノアちゃんが通れる程まで、メイスで叩いて穴を大きくすることにした。

 ……俺働けなくてゴメンよ。磔にされてるから動けないんだよね。

 それにしても怪力だなぁ。


「悪いな。仕事させちゃって」

「いえいえ、全然問題ないです!!」


 寧ろ楽しそうだった。

 フィリノアちゃんのパワーのお陰で、人二人分くらいであれば余裕で通れる程に穴が広がった。


「――良し、これで通れますね!」


 パンパン、とフィリノアちゃんが満足そうに言う。


「そうだな。……フィリノアちゃん。宜しく頼む」

「はい!」


 そう言うとフィリノアちゃんは俺を持ち上げ、肩に担いだ。


「揺れますけど、我慢してくださいね?」

「あぁ」


 フィリノアちゃんは俺がなるべく揺れない様に気を使ってくれながら、穴を抜けて洞窟に出た。







 洞窟は暗かった。

 それはそうだ。

 フィリノアちゃんが持っていた松明も、荷物も、腰につけられる物以外は全て、俺が封じられていた場所に置いて来てしまったからだ。

 メイスも動きの邪魔になるからと、置いて来てしまった。

 ……ゴメン、本当にゴメンよ。


「手探りで行くしかないですね。……あの、一つ謝る事があります」


 フィリノアちゃんが口を開く。


「私……ここの敵と出会ったら、多分死んじゃいます」

「……そっかぁ~」


 それは……マズいなぁ。

 俺は……まぁどうにかなるだろう。

 そんじょそこらの敵に負ける程、軟なつもりはない。……動けないけど。


「で、でも大丈夫です! ユーグさんはちゃんと送り届けてみせますから!」


 だが、今は俺を連れ出そうとしてくれている命の恩人、フィリノアちゃんがいる。

 フィリノアちゃんを死なせたくはない。

 とはいえ、である。俺はこうして磔にされている為、何もする事が出来ない。

 俺は考えに考え、


「……兎に角慎重に進もう」


 そう言う事しか、俺には出来なかった。


「……はい」


 ……うん、なんか。ゴメンね。勢い削いじゃって。








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