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3 ムードの無い「あーん」

最初に書きたかったシーンその1です。

「……誰、だ?」


 俺は擦れた声で少女に声を掛ける。


「え、えっと! ……大丈夫ですか?」


 俺の問いを無視して、少女が声を掛けてくる。

 ……まぁ大丈夫か大丈夫でないかと問われれば、大丈夫じゃない。

 もう精神的にはクタクタだ。


「誰だ……と聞いている」


 俺が語気を強めてもう一度そう訊ねると、


「あ、C……Dランク冒険者のフィリノアと言います!!」


 そう自己紹介してきた。

 冒険者か。俺等の時代にもいたっちゃいるが、傭兵の様な立ち位置で、気性の荒い男連中がなる様な……こういっちゃなんだが、バカのなる職業だったが、今は違うらしい。


「……あの、今助けますね!!」


 少女が俺の枷を外そうと近付いてくる。


「火を……火を遠ざけてくれ。……眩しい」


 洞窟内で真っ暗な軟禁生活――飯もなにもでないが――を長年送って来た俺にとって、火の明かりは眩し過ぎた。

 擦れた声で伝えると、少女は「す、すいません!」と謝った後、穴の近くに火のついた松明を置いた。

 そして、


「今それを外しますね!」


 そう言って近付いて来た少女には申し訳ないが、恐らく外せないだろう。

 何せ神様謹製の”魔封じの枷”である。

 人間の力では外せないだろう。


「ふぐぐぐぐぐぐ!!」


 俺の思った通り、幾ら少女が引っ張ろうとも、壊そうとしても、枷は壊れなかった。


「……え、どうして?」


 少女が驚いた様に呟く。

 そりゃ、俺でも外せないであろう神様の枷である。

 人間の少女程度の腕力では外せないだろう。


「……ごめんなさい。私には外せないみたいです。――でも、街に帰れたらきっと外せます!!」


 少女は直ぐに謝ってくる。

 ……壊せるとは思えないんだよなぁ。


「構わないさ。……どうせ壊れない」

「……え?」


 少女の疑問には答えない。

 それよりも、大事な事がある。


「……腹が減った」


 ぎゅるるるるるるる!!


 ……安心したら腹が減って来たぞ。

 不老不死でも腹は空くんだな。

 勉強になった。






 ―――――――――――――――――――



「……はい、どうぞ。あーん」


 枷は外せず、手でも足でも物を口に運ぶ事が出来ない俺が物を食べる方法はこれしかない。

 つまり、誰かに食べさせてもらう事である。

 結局あの後どうやっても枷が外せなかった為、少女に頼んだら「良いですよ」と言ってくれた。お前は天の御使いか。……いや、あの神の御使いなんてゴメン被るが。


「あーむっ。……むぐむぐ」


 少女の手に摘ままれた小さな粘土の様な代物を、俺はゆっくりと咀嚼(そしゃく)し、飲み込む。

 磔にされたほぼ裸の男にあーんをする少女。こういった状況でなければ眼に出来ない光景だろう。

 羨ましいだろうが、こちとら久しぶりの食事である。そんな事を気にする余裕はない。


「はい、あーん」

「あーん。……むぐむぐ」


 少女が持っていたのは携帯食料だった。

 俺のいた時代から何年経っているのかは知らないが、携帯食料も随分美味くなってるな。

 俺の頃なんて「食べられないよりはマシ」なんて言われていた事もあるんだが。

 まぁ所詮は食事がとれない時の為の糧食である。味なんて二の次なのだろうが。


「……美味いな」

「そ、そうですか? 余り美味しいとは思わないですし、冒険者からも不人気なんですけど……」


 ……え、マジで? これで美味くないとか贅沢な時代の様だ。

 このもっちゃり感が何とも言い難い良い食感だ。

 それにしても何の味なのだろうか。兎にも角にも美味である。


「もっとくれ」


 俺がそう頼み込むと、少女は「わかりました」と言って、再び、


「はい、あーん」

「あー……ん。うむ、美味い」


 と口を開ける様に要求してきたので、俺も口を開けてそれを食べる。


「……悪いな。俺ばっかり。君も食べたらどうだ?」

「い、いえ。……美味しそうに食べてますし、私は後で良いですから」

「そうか? じゃあ遠慮なく」


 その後、俺は携帯食料が無くなる迄、食べ続けたのだった。

 ……ついつい食べきってしまった。

 少女に悪い事をしたかな?






 ―――――――――――――――――――




 うーむ。

 食べたら色々考えれる様になってきたぞ。

 眼の前の少女を改めて見ると、可愛らしい少女だった。

 戦士か何かの様で、所々に程良く筋肉がついている様だ。

 こんな可愛い子が冒険者なのか。もう一度言うが、随分時代が変わったみたいだなぁ……。


 ……ところで、時代といえば、俺が封印されてから何年経っているのだろうか。

 気にはなるが、ともあれ先ずは礼が先である。


「……携帯食料美味かった。有難う」

「い、いえ、美味しく食べて頂けて良かったです」


 ふむ、緊張している様だ。

 そりゃほぼ裸の、髭やら髪の毛やらが伸び放題で毛むくじゃらの男を眼の前にしたら緊張もするか。

 ……改めて考えてみると俺変態じゃないか。もしかして臭かったりするだろうか?


「兎も角礼を言うフィリノアちゃん。……俺の名はユーグだ。改めて飯の礼を言わせて貰うよ。有難う」

「は、はい。おそまつ様でした。……ユーグさん、で良いですか?」

「あぁ、構わない」


 俺が頷くと、少女は姿勢を正して、


「……あの、気分を害されたら悪いんですが、どうしてこんな所に捕まってらっしゃったんですか? 見た所拷問された様子もありませんし……」


 そう尋ねてきた。

 ……ふむ。拷問か。

 まぁ拷問に近い所業ではあると思うんだが、それ以外には特段何もされてないんだよなぁ……。

 取り敢えずどう説明しようか?


「神に挑んでな。……それで負けてここにいる」


 うん、これが一番適当な言い方だろう。


「神に? ユーグという名前……それって伝説の――」

「ん? 伝説がどうかしたか?」


 最後小さい声で全然聞こえなかったんだが? 何て言ったんだ?


「い、いえ。何も! ……取り敢えず、此処を出ましょう!」


 少女は誤魔化す様に慌てて立ち上がる。うむ、元気な様で何よりだ。


「おう! ……と、言いたいんだがな」

「はい? どうしました?」

「動きたくても動けないんだ」

「……はい?」


 ……そりゃ、そういう反応をするよな。


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