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23 新たなる地へ

「え、ここを出てくの!?」


 もうすっかり顔馴染みとなった受付嬢の声が朝の冒険者ギルドに響く。

 フィリノアの冒険者ランクがCに上がった数日後、俺達は出立の準備を終え、冒険者ギルドにいた。


「はい。……世界を見て回りたいと思ってまして……」


 受付嬢はあぁ、とため息を吐く。


「そっかー……勿体ないけど、冒険者は自由な職業。どこへ行こうが冒険者の自由だし仕方ないわよねぇ……。で、何処に行くの?」


 何処に行くか、か。そういえばちゃんと決めてなかったな。


「先ずは近くの大きな街まで行きたいです。護衛の依頼とかってありますかね?」


 フィリノアが受付嬢に尋ねると、


「丁度良かったわ。……ハザティークへの商隊の護衛で空きが出たの。……貴女達さえ良ければ、どうかしら?」


 ハザティーク。聞いた事がない名前だ。

 どうやら千年経った事で、地名なり地形なりが大なり小なり変わっているらしい。

 ガンドノーラなんて名前の街も、千年前には聞いた事がなかったしな。

 一方のフィリノアは理解しているらしく、


「え、いいんですか?」


 フィリノアの反応を見るに、どうやらそれなりに大きな街の様だ。


「えぇ、Dランク以上の冒険者が対象だから、貴女達ならランクも大丈夫だし……やる?」

「はい!!」


 という訳で、ハザティークという場所まで俺達は行くことになったのだった。







 俺達が商隊の護衛の集合場所に行くと、既に全員が集まっていた。

 商人達も準備は整っているらしく、どうやら俺達を待っていた様だ。


「――えっと……貴女がこれなくなった護衛の代わりですか?」


 商隊の隊長が俺達に尋ねてくる。

 その顔には俺達を見て「え、どういう状況?」という戸惑いがありありと浮かんでいる。

 あぁ、この反応は久しぶりだなぁ……。

 ここ数日で街の人も冒険者達も俺達に慣れたのか、全然俺達に奇異の眼を向けなくなっていたのだ。

 寧ろ、声を掛けてくる者が増えた。


 だが、どうやらこの商隊はガンドノーラには到着して間もない移動商隊らしく、俺達を見たことはなかった様だ。


 そんな光景を周囲の冒険者達はニヤニヤしながら見ている。

 いや、見てるくらいなら商人に説明してくれや。俺達を見る眼が完全に不審者を見るそれなんだが。


「はい! Cランク冒険者のフィリノアです。宜しくお願いします!」


 フィリノアが首から下げた認識票を見せると、なんとか納得してくれた様だった。

 だが、此方を――俺を見る眼は変わらない。

 ……まぁ良いや。気にしたら負けだ。


「――では全員揃った様ですし、出立するとしましょうか。どうぞ、冒険者の皆さんは最後尾の馬車にお乗りください。ハザティークまでは数日掛かりますからな」


 どうやら有事があるまでは馬車に乗れる様だ。楽で良いね。

 ……フィリノアに持って貰っている俺には余り関係ないけど。

 見張りを除き、フィリノアを含めた冒険者達が馬車に乗り込もうとして、


 ズン!!


 フィリノアが足を掛けた瞬間、フィリノアの踏んだ床が抜けて、馬車の後方部分が壊れてしまう。

 ……もしかして俺の重さがダメなのか?


「す、すいません!!」


 フィリノアが商人に謝る。

 だが、お人好しで善人なのだろう。


「――おやおや、壊れてしまいましたか。古い物ですから仕方ありませんね。可及的速やかに応急処置をしますので、少々お時間を頂けますかな?」


 商隊を率いる商人は笑顔でそう言ってくれた。

 ……スマンなおっちゃん。


 数十分後、応急処置を施された馬車に、数名の警戒役の冒険者を残して――フィリノアは馬車を壊した後冒険者達に警戒役を申し出たので外だ――冒険者が乗り込んだのを確認して、


「では出発!!」


 商隊の隊長の号令で、荷馬車がゆっくりと動き出した。

 もう一度来るかわからないが、楽しかったし、何より俺が武器となってから初めての街である。

 たった一週間ちょっとという短い期間だったが、思い出がたくさん出来た。

 だが、今日、俺達はここを離れる。

 あばよ――ガンドノーラ!! 楽しかったぜ!!







 隊列になった馬車がガラガラと舗装された道を進む中、俺達は最後尾でゆっくりとついていく。


「悪いなフィリノア。俺のせいで乗れなくて」


 俺が謝ると、フィリノアは首を横に振り、


「気にしないで下さい。晴れた日に歩くと気持ちいいですから!!」


 そう空を見上げてそう言う。

 俺も釣られて、空を仰い――微妙に真上向けないんだが。上斜めしか見えないんだが。

 ……まぁ良いや。

 フィリノアの言う通り、空は雲一つなく晴れ渡っており、程良い風が肌を心地良く撫でていく。

 実に良い天気だった。


「そうだなぁ……」


 こんないい日に、何かある訳ないよな――。


 ピイイイィィィィィィィッ!!


 突如、商隊の前方から、問題が起こった際の合図となる指笛の音が鳴り響いた。


「――ユーグさん!」


 フィリノアが、緊張した面持ちで俺の名を呼ぶ。


「何かあったみたいです! 行きましょう!」

「あぁ、行こう!」


 ……何もないと思ってたんだけどなぁ。






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