21 謝罪と決着
結局、ヘンリックのパーティーもギルドの監視員も全員無事だった。
ヘンリック達は大慌てで逃げ出した様だ。足の速い奴等だ。
俺達がギルドの監視員を連れて冒険者ギルドに戻る――どうやら監視員は遠くから俺がドラゴンと戦っているところも見ていたらしく、すっかり恐縮していた――と、そこにはヘンリック達が揃っていて、ギルドの受付嬢に事情を説明している様だった。
帰ってきた俺達を見て、ヘンリック達が驚いている。
「……ドラゴンに襲われてよく無事だったな」
「……すいません、依頼なんですが、失敗してしまいました」
ヘンリックの声を無視して、先ずは依頼の失敗を受付嬢に伝える。
今回の依頼は『オークリーダーの討伐』だった。
オークリーダーはドラゴンに食われてしまったので、結果的には失敗と言える。
「問題ないわよ。事情はそこのパーティーに聞いたわ。ドラゴンに遭遇するなんて、大変だったわね」
「えぇ、まぁ」
ドラゴンから逃げてきたと思っているのだろう。受付嬢にそう労われる。
まさか倒したとは思わんだろうなぁ。信じないだろうし。
……あ、だから驚かれたのか。多分、ドラゴンに襲われて死んだとでも思われたんだろう。
「……お疲れ様フィリノア」
「はい。ユーグさんも。取り敢えず、今日は休みましょうか」
「そうだな。……あー腹が減った」
俺達がそう労い合っていると、
「――待ってくれ」
ヘンリックが、声を掛けてきた。
「……今更何ですか?」
迷惑そうにフィリノアが聞き返すと、
「……すまなかった」
ヘンリックが、そう頭を下げてきた。
おー……謝ったぞ。素直に謝ることが出来る奴だったんだな。
フィリノアを洞窟に置いてけぼりにしたし、今回の件の切っ掛けもそうだし、俺としては印象は最悪なんだが……。
「……俺達に出来る事なら何でもする。……これで許されようとは思わない。何か……俺達に出来ることはないか?」
「――ゴメンなさい」
「すいませんでした!」
「悪かった!」
ヘンリック達が、場所も気にせずそう大きな声で謝ってきた。
俺はフィリノアの反応を黙って待つ。
俺を担ぐフィリノアの手は、震えていた。
「私は……私は――洞窟に置き去りにされた時、とても悲しかったです。皆の事……貴方達の事を仲間だと思ってましたから」
フィリノアは絞り出す様にヘンリック達に向けて言い、そしてフッと肩を落とす。
「でも……貴方達はそう思ってくれてなかった。……それだけです。私はユーグさんという新しい相棒を見つけました。だから――もういいんです」
……だからもう、関わらないで下さい。
フィリノアはそう言って、その場を離れようとした。
「待て」
それを止めたのは――俺だった。
「……ユーグさん?」
フィリノアが、不思議そうに俺の名を呼ぶ。
「フィリノア、一発殴っとけ」
「え?」
「せっかくだ。……一人一発、殴っとけ」
俺の言葉に、ヘンリックではなく女性陣――名前は忘れた――が顔を青くする。
恐らく、フィリノアの怪力を知っているからだろう。……ま、そうだとしても自業自得だ。
「そうですね。……わかりました」
フィリノアがヘンリック達の前に進み出る。
先ずは重戦士の格好をした男からだ。
「――フン!!」
鎧の上からフィリノアが殴る……と、男が地面と平行に飛んでいき、ギルドの壁を破壊して止まった。
どうやら気絶しているらしく、痙攣している……が、男なら大丈夫だろう。それ位我慢してくれ。
続いて、魔術師の格好をした女性の前に立つ。
「――ガーベラ。貴女には色々と教えてもらいました。感謝してます――よ!!」
パァン!!
おぉ、ナイスビンタ。とても気持ちの良い快音である。
女性を流石に殴る様な真似はしないらしい。……俺なら遠慮無くぶん殴ってただろうが、優しいな。
魔術師の格好をした女性は、呆然といった様子でペタリと座り込む。
「……しっかり気を持ってくださいね。――はぁっ!」
パァン!!
続いて、隣でビクビク震えていた少女の頬を叩く。これまた良い音がした。
そして、最後にフィリノアはヘンリックの前に立った。
「……フィリノア」
フィリノアは、ヘンリックに向けて頭を下げ、
「……ヘンリック。駆け出しだった私を拾ってくれて、有り難う御座いまし――たっ!!」
ドゴォン!
フィリノアに殴られたヘンリックは、先程の重戦士の男同様、地面と平行――どころか、山なりになって飛んでいき、ギルドの天井に突き刺さった。
あー……あれは確実に骨一・二本位確実に折れたな。
まぁ俺を振り回せる位の腕力があるのだ。
そんな人間にぶん殴られたら、そりゃ吹っ飛ぶだろう。……というか、生きてるのか?
「これで手切れです。……二度と貴方達とはパーティーを組みませんし、話す事も無いと思います」
パンパンと手を払い、フィリノアはそう言った。
……聞こえていないであろう奴が約二名いるが……まぁいいか。
取り敢えず、これで一件落着だ。
―――――――――――――――――
数日後、前日の小鬼王の討伐、そして今回のオークリーダーの件の監視員からの証言で、特例としてフィリノアはCランクに上がることが許された。
フィリノアの首には今、渡されたばかりで真新しいCの文字が刻印された銀で出来た確認証が光っている。
ソロのCランク冒険者の誕生だ。……どれだけ凄いのかは知らんが。
「……ユーグさん」
「なんだ?」
俺が尋ねると、フィリノアは目を輝かせて、
「……私、ユーグさんみたいになりたいです! ドラゴンを倒したあの時、格好よかったです!」
おぉ、嬉しい事を言ってくれるじゃないか。
そう言ってくれるなら、俺もあの時ティノに祈っただけの甲斐があったというものだ。
「それに……ユーグさんの枷をどうにかしたいです!!」
うんうん。俺も是非とも何とかしたい。
それにしても随分と持ち上げてくれるな。……照れるぞ。
「私、強くなりたいです。……でも、ここにいるだけじゃ、ダメだと思うんです。……ドラゴンを倒した後思ったんです。私がCランクに上がったら神様の言った通り、ユーグさんと世界を回ろうって。……思ったより早くなれましたけど……色んな場所で、色んな事を経験したいです」
確かに、俺も世界を見て回るのには賛成だ。
世界は広い。俺の枷を外す方法が、世界のどこかにあるかもしれない。
「……ユーグさん、私と一緒に――世界を見て回りませんか?」
だから俺は、フィリノアの問いに、直ぐに頷いた。
「おう、何処へでも連れてってくれ。……俺は君の”武器”だからな」
「――はい!!」
新しい日々が、始まろうとしていた。
取り敢えず一章終わり、です。
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