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19 ドラゴン・ハント

 この感覚は久しぶりだ。

 手が、足が、自由に動く。これが、これが本当の自由。

 全身が軽いし、力が漲ってくる。

 どうやら封じられていた魔力も開放されているようだ。……まぁ使わないけどな。

 ドラゴン程度、スキルも魔術も必要ない。

 俺は思わず楽しくなって、笑みを浮かべながらドラゴンを見る。


「――行くぞクソ蜥蜴野郎」


 俺は、六百年という長い間俺と共にある十字を肩に担ぎ直す。

 俺とドラゴンが睨み合い、さぁいよいよ開始といったところで、


「……ユーグさん、枷は?」


 フィリノアが、戸惑いを隠さず聞いてくる。

 ……え、今それ聞くことか?

 俺これからコイツと戦うんだけど……ま、良いや。


「外れた」

「外れたって……」

「ま、いいじゃないか細かい事は。……それよりも、そこで見てたら危な――っと!!」


 ドラゴンが俺達に向けて再度ブレスを放ってきたので、フィリノアを小脇に抱えて退避し、フィリノアを安全な位置に下ろす。


「――ユーグさん、ドラゴンです! 逃げましょう!」


 フィリノアが慌ててそう言ってくるが、


「……まぁまぁ、ちょっと見てろって。――お前の武器の戦いっぷり、見せてやる」


 相手はドラゴン。久しぶりの、六百年ぶりの実戦には申し分ない相手だろう。


「行くぜおらぁ!!」


 俺は十字を構え、一瞬でドラゴンの懐に入り込む。


「――せあああああっ!!」


 そして思いっきり、十字を振り上げる。


 ドスン!!


「ガ、アアアアッ!!」


 ドラゴンの硬い皮膚に十字を叩き込むと、鈍い音が鳴り、そこが凹む。

 その勢いの儘、俺は跳躍し、今度はドラゴンの顔を十字でぶん殴った。


「ギャォオオオオオオッ!!」


 ドラゴンが大きく仰け反って体勢を崩す。


「――よっと!!」


 俺は軽々と着地すると同時に、もう一度ドラゴンに接近しようとするが、


「ガアアアアアアッ!!」


 ゴオオオオオオオッ!!


 ドラゴンが仰け反った態勢から、ブレスを吐いてきた。


「効かねぇよ!!」


 俺は一応の為、十字でガードする。

 神様(ティノ)謹製の謎金属で造られた十字に、ドラゴンのブレス程度が効く筈もなく、防いだ十字には傷一つない。

 ま、多分この程度じゃ俺が受けても大丈夫だっただろうが……。


 効かないと見るや、ドラゴンは接近攻撃に切り替えたらしく、今度は強靭な爪を振り下ろしてきた。


「――っと!!」


 それを俺は紙一重で躱し、


「これで――どうだ!!」


 其の儘隙だらけのドラゴンの腹に、もう一度十字を叩きつける。


「――ゴアアァァッ!?」


 たまらずドラゴンが逃げようと翼を動かすが、


「――逃さねぇよ!!」


 俺は逃げようとするドラゴンの尻尾を掴み、


「――おおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉらああああああっ!!」


 思いっきり地面に叩きつけた。



 ――――――――――――――――



 ありえない光景だった。

 目の前で繰り広げられている光景は、まるで御伽噺の様な――本当に、六百年前の魔王軍との攻防とはこういうものだったのだと思わせるような、そんな光景だった。


(――これが、”英雄”の戦い! ――凄い!!)


 フィリノアはドラゴンとユーグの戦いを見て、そう思った。


 ユーグが六百年前に活躍したあの”神に挑んだ英雄”であると、本人から教えられていた。

 だが、教えられたとしてもそれを信じ切っていた訳ではなかった。

 ――自分は六百年前に活躍した英雄である。

 そんな事、信じれる筈がない。

 しかし、目の前で行われている光景は、夢幻の類ではない。


 枷を外されたユーグは、強かった。

 本当に、”英雄”の名に恥じない強さだ。

 たった一人で、ドラゴンを相手取り、しかも圧倒している。


「……ユーグ、さん」


 その光景は、フィリノアにとっての憧れる冒険者の姿だ。

 自分もこうなりたい。

 ユーグの姿を見て、フィリノアはそう感じていた。


「……私もなれるかな」


 あの様な”英雄”に。――ユーグの様に、いつか。


 フィリノアはただユーグの姿をジッと見続ける。

 眼に、脳に、その姿を刻みつける様に。


 フィリノアは見続ける。

 自分の武器(あいぼう)の戦う姿を。






 ―――――――――――――――――



「ガァ!!?」


 尻尾を掴まれ、地面に叩きつけられた痛みからか、倒れた儘ドラゴンが暴れだす。


「チッ! ……暴れんなよ――なぁ!!」


 渾身の力を込めて、俺はドラゴンの頭を十字で殴りつける。


「――ガ、アアァッ!!」


 と、ドラゴンは最後の力を振り絞って、まるで丸太の様な太さの腕を繰り出してくる。


「力比べか? ――いいぜ。受けて立ってやる」


 俺はドラゴンの攻撃に合わせる様に、十字を振り上げる。


 ガガガガガガガガガ!!


 俺の十字と、ドラゴンの爪がぶつかり合って火花を散らす。


「――ガアアアアアア!!」

「らあぁぁぁぁぁぁぁああっ!!」


 俺もドラゴンも全力だ。

 六百年経っても、ドラゴンの強さは変わらない。

 それがたまらなく嬉しくなる。

 魔王がおらずとも、魔王軍という強大な相手がおらずとも、まだまだこの世界にはこれ程の相手が残っているのだ。

 もしかしたら、俺ももっと強くなれるかもしれない。

 それに――


「……それに、フィリノア(あいつ)をお前に殺させる訳にはいかないんでね!!」


 俺の大事な相棒なんだ。


「おらああああああぁぁぁぁぁっ!!」


 俺は全力でドラゴンの爪を弾く。

 ドラゴンとの力比べは俺の勝ちだ。


「――ガアアアァァァ!?」


 ドラゴンが態勢を崩す。


「俺の――勝ちだ!!」


 俺は十字で、態勢が崩れたドラゴンの頭を思いっきりぶん殴った。





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