16 オーク・リーダー討伐へ
「――ユーグさんをお荷物って言ったこと、訂正して下さい!!」
フィリノアの声は、酒場全体に響き渡った。
……フィリノア。
俺は感動しているぞ。俺の事をお荷物じゃないと怒ってくれるなんて!
君は何て優しい子なんだ!
「ユーグさんは動けないです。確かにそうです! ――でも、私にとっては――さいっこうの、武器なんです!!」
……。
…………。
「「「「……は?」」」」
俺以外の全員が、聞き返す。君達随分と息が合ってるな。
……もしかして最初から打ち合わせとかしてる?
「だから――ユーグさんは私にとって最高の武器なんです!!」
シーン。
「……あれ、今私変な事言いました?」
頭に血が上っていたフィリノアも、この空気に流石に冷静になったようだ。
……いや、変な事は言ってないぞ?
「武器ですよね?」
フィリノアが俺に向けて首を傾げる。
そうだな、と俺も頷き返す。
……でも周囲がそれを”正しい”と認識するかっていうのとは別問題だと思うんだ。
「――と、兎に角、Dランクのコイツが小鬼王を倒せる訳ないだろ!?」
余りの急の一言だったのか、それまで呆然としていたヘンリックが、改めて周囲に訴える。
「む、じゃあどうやって証明すれば良いんです?」
フィリノアがヘンリックに聞く。
「俺達と決闘し――」
「いや、それでも証明にならないだろ」
なんで小鬼王を倒した事とお前等を決闘することがイコールになるんだよ。
コイツ頭おかしいんじゃないのか?
バカか? バカなのか? バカなんだろうな。
「……ならどうすれば良いんだよ」
ヘンリックが逆に聞いてくる。
俺はフン、と鼻で笑って見せる。
「……いいか、よく聞け」
その場にいた全員が、俺の言葉を聞こうと息を呑んで待っている。
「……どうすれば良いかな?」
ズコッ
俺の言葉を待っていた全員がこける。
スマン、まったく思いつかなかった。
なので、俺は隣にいる受付嬢に聞く。困った時はギルドの人間だ。
「……そうね。なら、一緒の依頼を受けるっていうのはどう? それなら相手の力量も分かるでしょ」
その受付嬢の提案に、ヘンリックは「構わない」と承諾した。
だが、
「えー……」
今度はフィリノアが渋っている。そりゃそうだろうよ。
自分を置いて行った仲間――失礼、元仲間と組め、なんて認められる訳がない。
俺も嫌だ……が、
「……フィリノア」
そんなフィリノアに、俺は仕方なく声を掛けた。
「何ですか?」
「……君の元仲間達を見返す良いチャンスだ。受けなさい」
「……ユーグさんがそう言うなら」
という訳で、若干面倒くさい事に巻き込まれたのだった。
……ホント面倒だな。俺が何かする訳ではないけどさ。
これが終わったら二度と奴等に近づかない事をお勧めするよ。
ま、これが終わったらフィリノアも二度と彼等に近付く事はないだろうけどさ。
―――――――――――――――――
ギルド側が提示してきたのは、『オークリーダーの討伐』だった。
Cランクパーティー相当と言われており、昨日俺達が相手にした豚頭の魔物オーク、そのオークの群れの長個体がそう呼ばれる。
まぁ難易度的には小鬼王と似たり寄ったりではあるだろうが……。
「……フン、いいか。俺達の邪魔をするなよ」
そういうと、彼はパーティーを引き連れて少し離れて歩き出した。
「……君、よくあんなのと一緒にパーティー組んでたな」
なんかもう色々と面倒そうな奴である。
あ、その後ろにいるヘンリックの仲間達も同罪だ。
正直、俺ならパーティーを組むのを断ってるだろうし、途中でやめるだろう。
「……言わないで下さい」
フィリノアにとっては黒歴史らしく、恥ずかしそうに顔を隠して、たった一言そう答えた。
……うん、まぁそういう反応になっちゃうよな。
「……ユーグさん。でもどうするんですか?」
「……ん?」
「相手は性格はあれですけど、Cランクのパーティーです。私達の出番ないかも……」
「それならそれで良いじゃん」
「……え?」
いや、だって別に”一応”と称してちゃんと受付嬢が『ゴブリン討伐』の報酬はくれたし。
それでここで冒険者稼業が続け辛くなってしまうのなら、他の地に行ってしまっても良いだろう。
拠点を別のところに移すなんて、冒険者にはまぁまぁよくある話だろう。
俺がそう伝えると、
「……確かにそうですね」
とフィリノアは納得した。
そんな訳で、何だか張り切っているヘンリック達から少し離れて、俺達は歩き出したのだった。




