14 ゴブリン・キング
「たああぁぁぁぁぁっ!!」
「おぼろろろろろろろ!!」
あぁ、勿体ない。俺の朝食が……。
「てあぁぁぁぁっ!!」
「うえぇぇぇぇぇっ!!」
なんかもう口の中が酸っぱい。
「はあああぁぁぁっ!!」
「もう……ダメ……」
……全部出た。うっぷす。
依頼自体は順調だった。
俺が思った以上に、フィリノアは戦闘の才能があるらしく、閉所でも器用に戦っていた。
一方の俺は、我慢することが出来ず、堪らず吐いていた。
なんかもうフィリノアの服やら俺の服やらに吐しゃ物がついてしまっているどころか、敵であるゴブリンにまで吐しゃ物が掛かってしまっている。
む、後ろからまた一匹――
「――ァ?」
……あ、一体俺の吐しゃ物で足を滑らせたぞ。
「はぁっ!!」
「ゴギャア!!」
足を滑らせたゴブリンは、哀れ其の儘一つの死体となった。可哀そうに。
死因がゲロで足を滑らせた、とか可哀そうにも程がある。
いや、直接的な死因はぶん殴られたからなんだけどさ。
「……ふぅ」
周囲にいたゴブリン達は全滅し、フィリノアは一息吐く。
「君は中々に才能があるな」
口から涎が垂れたままの俺が誉めると、
「あ、ありがとうございま――あ、涎が。……今拭きますね」
照れたフィリノアちゃんが慌てて俺の顔を拭いてくれる。
「――ぷぁ。だがまだまだこれからだ。さぁ、どんどん強くなるためにガンガン敵を倒そう」
「はい!」
兎に角俺が伝えられることは一つ。
レベルを上げて物理で殴れ。これだ。
魔術? ……んなもん考えなくて宜しい。あれは魔力のある、なしよりも適正がモノを言うからな。
それに、かく言う俺も、物理で殴るタイプだし。
――――――――――――――――
ゴブリンを――そして途中で現れた魔物を――倒しながら進んでいると、大きな空間に出た。
「……ここが」
「一番奥みたいだな。……広い空間だ」
思わず天井を見上げる。随分広い空間だ。俺が囚われていた洞窟に、まさかこんな空間があるとは思わなかった。
そこには先客がいた。
「……ゴァ、ガ」
巨大な通常種よりは大きな体躯のゴブリン。
あれは――
「――”小鬼王”!」
フィリノアがまさか、といった様子で驚く。
「……ギィ、ガァ!!」
ゴブリンの言葉はわからん。
何て?
「フィリノア、何て喋ってるのかわかるか?」
「いえ、さっぱり。――でも」
ドガアァァン
「ガアァァァァァッ!!」
小鬼王の巨大な体躯から繰り出された一撃が、地面を揺らす。
「怒ってるみたいだな」
「怒ってますね」
どうして怒ってるんだコイツ?
俺達コイツに怒られるような事……してるわ。
コイツの部下……なのか家族なのか知らんが、ゴブリンならここに来るまでに大量に倒している。
うん、いい経験になったぞ。フィリノアの。
「……ッ!! ガアアアアアアッ!!」
と、突然小鬼王が殴りかかってきた。
「――っ!!」
フィリノアが大きく跳躍して避ける。
「……フィリノア! 小鬼王のランクは!?」
「――Cです!!」
今のフィリノアの冒険者ランクでは不相応なランクだ。
だが、俺がいる。
俺を装備したフィリノアならば――いける筈だ。
「――戦え! 俺が指示する!」
ここで退けばそれまでだ。フィリノアを成長させるのならば、この戦いは大きな自信になるだろう。
「は、はい!」
フィリノアが俺を構える。
「相手は大きかろうがゴブリンだ! 動きをよく見ろ!!」
「はい!」
フィリノアが駆け出す。
「ガアアアアアアァァァァッ!!」
小鬼王が大きな腕を振り被って、殴りかかってくる。
ドゴン!!
フィリノアが余裕を持って避けると、そこには巨大なクレーターが出来た。
……確かに凄いパワーだな。だが、パワーならフィリノアも負けていない。
「てえええぇぇぇぇぇやあっ!!」
フィリノアが小鬼王の腕を掻い潜って接近、下から大きく俺を振り上げた。
「――ゴ、フッ!!」
余りの衝撃だったからだろう、小鬼王の口から血が吐き出される。
だが、頑丈なのは向こうも同じな様で、
「ゴ、アアアアアアアァァァァァッ!!」
大して効いた様子もなく、直ぐに態勢を整えて殴りかかってきた。
それに、フィリノアは対抗した。
「たあああああああああっ!!」
小鬼王の振り下ろした拳に合わせるようにして俺を振り上げ、
ガガガガガガ!!
俺と小鬼王が鍔迫り合う。
俺の自慢の肉体の防御力はステータス曰く1000。
恐らく、ミスリルやアダマンタイトにも匹敵するだろう自信がある。
じゃなかったら神に挑んだりしない。
そして俺を持ったフィリノアの攻撃力なら、小鬼王にも勝てる……筈!!
結果的に、鍔迫り合いに勝ったのは――
「たあああああああああっ!!」
フィリノアだった。




