10 依頼を受けよう
冒険者が依頼を受ける為に、俺達は冒険者ギルドに向かった。
ギィと扉を開けてフィリノアちゃんが冒険者ギルドの中へと入る。
「……なんだありゃ」
「磔?」
「なにをしたらああなるのかしら」
「……羨ましいなぁ。俺もされてみたい」
相も変わらず、ひそひそと俺達を見てはすわ何事かと噂する……が、一人変な奴いなかったか?
羨ましいとか聞こえてきた気が……いや、気のせいか。
そんな変態がいる訳がない。
「ここが冒険者ギルドなのか」
俺はギルド内を見回す。
石と木で建てられた頑丈そうな建物の中には、様々な装いの冒険者や依頼人で溢れており、実に賑やかだ。
俺が「へーほー」と興味深そうにギルドの内部を見ていると、
「……ユーグさんって冒険者ギルドって初めてなんですか?」
と尋ねてくる。
「いや、そうでもない……が……」
確か六百年前にもギルドには寄った事があった覚えが辛うじてあるが、これ程整備されていたかといえば、答えは”ノー”だ。
そもそも六百年前は冒険者達をちゃんと雇おうという事で、ギルドが設立されたばかりの頃だったので、ここまでちゃんとしていたかと聞かれれば、違うだろう。
「掲示板はあそこ……ですね」
フィリノアはスタスタと慣れた様子で沢山の紙が貼られた掲示板を見つけると、俺を担いでそこに近付いていった。
そして俺を横にドスンと置き、
「えっと……Dランク相当の依頼は……これとこれと……これですね」
そういって幾つかの紙を指さす。
「何の依頼なんだ?」
「えっと……今貼られている依頼で私達が出来るのは『洞窟にあるゴブリンの群れの討伐』、『高原に現れたオーク二体の討伐』、それと『ワイルドボアの狩猟』ですね」
ゴブリンの群れ……か。単体では弱いが、群れともなればソロである俺達にとっては厄介だ。
オークは豚頭の人型の魔物で、知性は低いが高いパワーを持つ。
ワイルドボアってのは、人程の大きさもあるイノシシの事らしい。……昔はイノシシなんて人の半分くらいの大きさの個体しかいなかったのだが……年月を経てデカくなったのか?
「どれを受けるんだ?」
「そうですね……。どれもソロでやるのには大変そうですし……狩猟といっても、内容を見ると狩った獲物を解体しなければいけませんし、その手の事を私は余り得意じゃないです。ユーグさんは……無理ですもんね」
フィリノアちゃんが俺を振り返り、俺の手と足に嵌められた枷を見てうんうん、と頷く。
出来るよ! 俺なら動物の解体だってお手のモノさ!
今は磔にされているから無理だけど。
……はい、つまりは無理です。どうやったって無理です。
「ならゴブリンかオークです。ゴブリンは群れです。ソロで戦うのにはキツいですし……ここはオークにしましょう」
フィリノアは俺を持ち上げ、オークの依頼が書かれた張り紙を掲示板から剥がすと、それを受付の手に受付の方へと向かっていった。
「すいません。これ受けます」
そう言って受付嬢に依頼の書かれた紙を提出する。
「はい、確認させていただきます。……依頼は『オークの討伐』。場所は近くの高原。人数は」
受付嬢はフィリノアだけではなく、彼女に担がれている俺を見て、
「……二人、で宜しいですか?」
そう聞いてきた。
「いえ、ソロです」
フィリノアが訂正すると、
「え?」
「……ですよ?」
不思議そうな受付嬢に、フィリノアは頷き返す。
「…………えぇ?」
それを見た受付嬢が、困惑する様に首を傾げた。
そりゃ、困惑するよな。
――――――――――――――――
俺はフィリノアの装備である、という事を説明するために、ステータスを見せる事になった。
ステータスを見せ、装備の覧が【ユーグ】となっているのを受付嬢に見せる。
「……本当だ。装備ですね。……えぇ、何で?」
それでも困惑しているのだろう。受付嬢の口から素直に困惑の声が漏れる。
が、確認が取れたからか、受付嬢は咳払いをして話を進める。
「……コホン、畏まりました。ランクを確認させて頂きます。ギルドから配布された認識票を提示頂けますか?」
「はい」
フィリノアは首からぶら下げていた小さな木の板を受付嬢に提示する。
その木の板にはDと彫られており、どうやらそれでランクの確認をするようだ。
「はい。Dランクですね。……問題ありません。では依頼させていただきます」
「はい!」
良かった。どうにか依頼は受けれた。
俺がいるから依頼が受けられない、なんてことにならなくて良かったな。
「じゃ行きましょう! ユーグさん!」
「おう!」
俺達は意気揚々と、冒険者ギルドの外に向けて歩き出す。
「……変な二人組だなぁ。依頼受けさせちゃったけど、大丈夫だよね?」
という受付嬢の声は聞こえなかった。
というか、聞こえないフリをした。
フィリノアに聞こえなくて良かったな。




