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『彼』が転生したその先には..!?


「ねぇ勇者, 本当に私の力がこの右腕だけだと思っているの?」

「断言しよう。勇者, あなたの力では私には勝てないよ。」


宣言した彼の腕は赤く滴る, 人肌程度の温度を保った液体で染まっていた。その液体の出元は, 彼の前に立つ男のうちの一人である。その男は腕と胴体との接合部を失ったものの幸い, 男の味方の治療により止血されている。


「なっ...。まだ力を隠し持っているのか..!?」


そう驚愕する男の右手に収まっている剣や身にまとっている鎧からは, 光のようなものを漂わせる。盾には人族最大王国の国章が彫られ, 半歩後ろに並ぶ仲間達の防具にも同じものがみられる。これを傍から見れば, 勇者一行テンプレートな恰好そのものだ。


「いやいや, 隠し持つも何も, 『あなたでは勝てない』と言っているの。隠す隠さないの問題じゃないよ?」


「それだとしても, 俺は勇者だ。戦わずして去るなんて, 人々の希望に逆らうことになる。この身を挺してでも戦い抜くぞ!!」


「はぁ...。これだから人族は..。君にかけられた期待とは, 敵を倒すことであって, 戦う事じゃないの。希望にこたえたいなら, 確実に勝てる相手をたくさん倒しとけばいいんじゃないの?」

「確かに人間は協調性を得たけど, それは全て利己心に基づくものなの。自分では努力しないくせに他人の努力に過剰に依存して。けれども, その期待すら自分の利益になるからであって, 自分の利益にならない存在に人間は情けも何もかけないでしょ?」


「そんなことは無い。これ以上は問答無用だ, 覚悟しろ!!」


タッ バギッ ドガッ ぐわぁぁぁ ファァー

勇者が土を踏みこみ反作用で前に飛ぶ音 『彼』が勇者の剣を中ほどからへし折る音 右腕を失った勇者の仲間の右大腿骨が半分の長さになる音 コンパクトになった足を抑える音 それを治療する魔導士の治療魔法の音


「このやろう! 俺の仲間になんてことをする!! 切るなら俺を切れ!!」


「へぇ...。良い意気込みだね。だけどね, 君らは私の大切な部下を一体どれだけ斬ってきたんだい?」


「そんなのも覚えているか!!」


「そうかそうか。じゃあ教えてあげるね, 最低3000万。どうだい?」

「君たちが仕掛けてきた戦いで, 私たちはこれだけの尊い仲間を失ってるの。私が君の仲間1人を傷つけるなんて, 正当防衛も過小防衛じゃないかな。」


「だからなんだというんだ。我々は精霊神様の加護を受ける勇者団なのだ。悪を成敗したまでだ。」


「これだから人間は..。客観的に考えてみようよ, 他所の領土に侵略してきたのは君たちだよね? 私達と人族とは相容れないかもしれないけど, 少なくとも今回の場合, 悪はそっちだよ。」

「それとね, 精霊神の加護位でなに正義気取ってるの? その加護とやらがかかった剣も簡単にへし折れたよ? 」


一連の会話の中で, 勇者と名乗る者は眉間に血管を浮き上がらせたり, 叫んだりと色々テンポの速い百面相を披露していった。と同じテンポで, 仲間の一人の四肢が少しずつ縮んていった。

『彼』の表情には, 冷静な, しかしながら確実な怒りを含んだものが見られる。


「勇者君, 君は引く気も謝る気もないんだね?」


「当たり前だ!!」


「そうか残念だよ。じゃあ最後に1つ, 君にとって絶望の事実を教えてあげようか。」

「私はね, どこぞの治療しかできない精霊神の加護とは違って, 死者復活の力があるの。つまりはね, これまで君たちが倒してきた3000万以上の, 私の可愛い部下はこの瞬間に復活を遂げているはずだよ。」


「なっ, それでは..!!!」


「ご名答。つまりはね......


-----


真っ直ぐに伸びた石畳の道を, 群青の空が包み, 爽やかな東風が植物の香りを運んでくる。

辺りには鳥獣の鳴き声が響き, 近くの町の声がかすかに届く小さな丘に, 彼は居た。

風に腰掛け, ふわふわと揺れ, 陽の光に温まる様は, まさに妖精のような神秘さを漂わせる。


優雅に進んでいる時間のある時, 彼の落とす影から一筋のつむじ風が巻き起こり, ゆっくりと しかしながら行く手を阻むように囲い込んでいった。

風は背丈をわずかに超えた辺りで上がるのをやめ, 完全に包み込んだ。

一筋の隙間をも塞いだと同時に, それは自らが作った大きな影の中に沈み込む。


それはゆっくりとではあったが, 確実に1人をその場から消し去っていき, 跡には幻想的な空間が広がっていた。


ドンッ

彼の腰と石レンガの床がそこそこの強さでぶつかった。ふたつをひきつけたのは重力だった。


「痛っ」


彼は腰を摩りながら体を起こした。先程まで浮いていた体は重力によって地に降ろされ, 今はその2本足で立っている。


「えぇっと...ここはどこだ。とりあえず座標と地図を取得して, それから」


『人よ。』


「っわぉ..。」


そこには樫と石で造られた大きな玉座に座る一つの影があった。玉座に座るそれは, 威厳と知性とを強く感じさせる。しかし, 彼を驚かせるのはそれだけでない。

玉座の前の空間には空円状の机が置かれ, 左右に3つの椅子が並び, それぞれに これまた強さを感じさせる面々が並んでいた。ただ一つ, 最右を除いては。それらは種々様々な容姿をしており, 高い知性を感じさせるものから, 屈強なパワーを感じさせるものもある。


『人よ。』


玉座のそれが冷静に, しかし確実な重みをもって声を発した。


「はい?」


彼もそれに応える。彼の声に緊張類は見受けられない。


『ここは我ら魔軍の本城である。お主に我の魔神の力の一部を分け与えよう。そして魔軍六王の一柱となってもらう。』


「え, なんで?」


「おい, 人よ。先程からなんだ, その口の利き方は。我らが魔神様を知らぬわけじゃあるまいに。」


左から3つ目に座る獣のようなリザードマンのような1人が眉間にしわを寄せながら威嚇している。


『まぁ良い。寧ろそういう芯の強い奴の方が頼りになる』


「魔神ね, 知ってるよ?人族を対を成す様に進化した最大種族で様々な小種族を配下にしているあれでしょ?」


「貴様, 本当になんのつもりだ?魔神様の御心が広いから許されるものの, 言葉遣いには気をつけろ。」


『はいはい。人よ, すまんな。こう見えて忠義に厚いだけなのだ。』

『人よ。我の事を知っているのなら話は早い。マドロフ, 説明してやってくれ。』


「わかりました。」


マドロフと呼ばれは男は, 唯一スーツのような整った格好で身だしなみにも十分丁寧さがみられる。髪をオールバックにし, 冷静かつ威厳を持った振る舞いからは, 強さと知性を漂わせる。彼は, 右から2番目の席から立ち上がり,


「ご存知の通り, 魔軍は多くの種族を配下に持つ組織です。その首幹部はその多様な様を反映し, 魔神様と主要配下5種族の代表者に加えて転生召喚した人族の7名で構成されます。そのうち, 魔神様を除く6名を六王と呼び, 魔神様を支える第一組織として機能します。」


「ほぇ..。魔族が多様な種族とは知っていたけれど, ここまでとは。しかしまた何故に人族を? そしてなぜ私を?」


「それは, 我が魔軍は多様である前に実力主義で成立していることに関連します。ここにいる六王の面々もその努力と強さに基づいて選ばれ, ここの椅子に座っているのです。その点において, 人族は実力の前に個体の持つステータスや上下関係を重視し, "協調性" や "力に頼らない秩序" を持つ存在故に, 魔族においては貴重な存在となりうるのです。ですが, ただ協調性だけあれば良いわけでもなく, 当然, 実力を兼ねてもらう必要があります。その結果, 人族で最も強い力を有しながらも人族中枢部に関与しない, あなたは適材であったのです。」


「成程ねぇ..。よく私を見つけられたね。」

「事情は分かった。でも魔王さま, 私にとって六王の一柱になるメッリトはあるんです? 流石に無理やりにやらせて良い立場でもないでしょう?」


先刻, 彼に起きた一連の事は, 全て魔軍による転生行為だったのだ。魔軍の技術力は随一の高さを誇り, その高さは人族を遥かに凌駕する程である。その証拠が, 彼が転生対象に選ばれた事実なのだ。彼は, 厳密には人族ではないが, 一時人族に類似した存在として休んでいたために, 人族として転生してしまった。が, 本来であれば彼を探知することすら, 目視以外でそのその存在を遠距離から確認することは出来ない。つまりは, 魔族の技術はこれまで至れなかった領域に干渉することを可能にしてきているという事だ。


『あぁ, 当然だ。我らが魔軍の門をくぐれば, その報酬として

本作品では, 前作(連載中)とは少し違ったテイストで書いてみますね。

魔軍から始まる異世界じゃない転生物語です♪

是非, 一作目と合わせてお楽しみください。

https://ncode.syosetu.com/n1646fj/

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