【番外編】~悠のお話①~
その日、悠は走っていた。走って、走って、そして泣いた。どうして泣いているのか、自分でも分からなかった。泣いているのを見られたくなくて、また走った。
いつの間にか、知らない場所にいて、「帰れない」と頭に浮かんだ。それでも別にいいか、と思った。どうせ帰っても親はいないのだ。
悠の両親はどうしようもない人だった。父親は酒と女に明け暮れ、ほとんど家に帰ってこなかった。帰ってきた時には妻と息子に暴力。母親はそんな父親を見兼ねて悠が9歳の時離婚した。悠にごめんね、とだけ伝え家を出ていってしまった。悠はなぜこんな両親の元に生まれてしまったのか、不思議でならなかった。両親が離婚して8年。17歳になった悠は、高校には金がないと行かせてもらえず、いつか出ていってやると大学の勉強に勤しんでいた。しかし、1日1食しか食べる余裕はなく、たまに帰ってくる父親には暴力を振るわれる日々。ついに限界というものに達した。家を飛び出し、誰もいない、遠くへ逃げてしまいたいとわけもわからず走った。
全く知らない場所を1人で歩く。それはとても怖いもののように思えたが、不思議と悠には淡い期待が胸にあった。恐ろしい父親はいない。自由を手にした気で、歩いていた。そんな素晴らしい時間もつかの間。だんだんとあたりは暗くなり、人通りも少なくなっていく。心細くなり、近くのベンチに座った。もう自分は本当に誰とも関わりがなくなってしまった。少しでも味方と思える人が誰もいなくなった。それは昔もそうだ。父親は明らかに味方ではなかったよな。そんなことを考えながら俯いて震えていた。
「あー、君。どうしたの?迷子?」
突然耳の中に響いてきたその声に悠はビクリと肩を震わせた。ゆっくりと顔を上げると人の良さそうな顔に困ったような笑顔が張り付いている、若い男がいた。知らない人に話しかけられる、なんてこと、今まで1度もなかった悠はどうしたらいいか分からず、ただ魚のように口をパクパクさせていた。
「もしかして、家出とかしてきた?行くとこ、ないの?」
「あ、えっと。行くとこは、ないです」
しどろもどろに答える。家出してきた、とはどうしてか言いたくなかった。
「ほんと?じゃあうち、来る?」
「えっ…?」
てっきり早く家へ帰れなんて説教じみたことを言われるのかと思っていた。全く違うことを告げられた悠は驚き、変な声が出てしまった。うち、来る?だと?知らない人の家に行くのか?
「とりあえずうちにおいでよ。そこにいたんじゃ風邪ひくよ?」
腕を捕まれ引っ張られる。どこへ連れていかれてしまうのか。混乱と不安と少しの期待。悠はされるがままに引っ張られていった。
こんにちは、はなちゃんです。
悠の過去のお話です。②もあります。
悠は昔、名前が違いました。でも、父親がつけた名前がどうしても嫌で、真司さんに付けてもらったようです。ちなみに、昔は荒木悠でした。読み仮名変えるだけって。真司さんセンスないですね。すみません。




