02.
「主ー!いますかぁ?」
鈴がなるような、美しい少女の声が殺風景なコンクリートの廊下に響く。肩ほどに伸ばしたサラサラな髪の毛を揺らしながら少女はパタパタと走っていく。
「主!いるんなら返事してくださいよ!」
木でできたシンプルな扉の前で、軽くノックをしながら不満をぶつける。
「清涙か?主は今寝ているから部屋で待っていろ。」
面倒くさそうに部屋の中から男の声が聞こえてくる。清涙、と呼ばれた少女はバツ印の模様の目をぎゅっと歪めながらお願いされた伝言を伝える。
「声が聞こえるってことは起きてるじゃないですか!凛華がご飯できたって言ってますよ!主が居ないとご飯食べれないんですから早く出てきてください!お昼寝はその後でいいじゃないですか!」
ノックの音を強めながら必死に呼びかける。何しろこの少女、罰栗清涙はお腹がすいているのだ。
清涙はカースドール。
また、この世界でたった3人しかいない「意志を持つカースドール」である。
しかし、いくら意志を持っていても、戦闘中は意識を保てない。主が呪文を唱えると、ドールは意識を失い、本物の人形のようになる。
そして、カースドールは主となる呪術者に命令されたことしかできない。つまり、命令されないと歩けない、寝られない、ご飯も食べられない。
しかし、清涙の主からはある程度の自由は命令されているので歩けるし寝られる。
だが、食べることだけは命令されていない。その理由は、主が一人で食べるのは寂しいから、である。
「主!こうなったら強制的に扉を開けちゃいますよ!」
ついに清涙はドアノブをガチャガチャと回した。鍵がかかっているようで、開かない。
「あーあーわかった!行く!行くから扉は壊すな。32回も壊されたのはさすがに想定外だった。」
慌てたような男の声。そしてゆっくりと扉が空いた。
出てきたのは、ぼさぼさな黒髪に澄んだ金色と緑色のオッドアイ。左手の中指と右手の薬指と人差し指に大きな指輪をした30~35歳に見える男だった。
「やっと出てきましたね!」
清涙は男の腕をがっしりと掴むと、走ってきた方向に向かってぐいぐいと引っ張り出した。
「痛い痛い。」
苦笑しながら引っ張られていく。
そして明るく、いい匂いの漂ってくる部屋に着いた。
「凛華!主連れてきた!ご飯食べよ!」
その部屋には、テーブルひとつに椅子が4つ向かい合わせで置かれているだけの静かな部屋だった。
また、清涙の他に2人の少女がいて、椅子に座っていた。
凛華、と呼ばれた少女は胸下まで伸びている紫色の髪を小さな花が着いたヘアゴムでひとつにまとめている。目の中には5枚弁の花の模様。
エプロンを付けているため、テーブルに並んでいる美味しそうな料理は彼女が作ったものだとひと目でわかる。フルネームは花城凛華である。
もう一人の少女は、高音日ティー。
金髪のぱっつん前髪にツインテールの容姿は小学生程度に幼く見える。彼女の目にはT字の模様が描かれている。
「あぁ!やっと主来た!遅いですよう」
ティーがぷくっと頬をふくらませながら咎める。
「さぁ!食べましょうか!主?お願いしますね?」
可愛らしく首を傾げた凛華に少し微笑みながら、主と呼ばれた青年は答える。
「あぁ…
『コードil、ff,teaに主が命ず。ものを食すことを命令する。』」
主、荒木悠は呪文を唱えた。この呪文はカースドールの動きを制限する呪文であり、戦闘用ではないのでドール達が意識を失うことは無い。
「ふぅ。やっと食べられる~♡」
目の奥にハートを滲ませた清涙は、夢中になって食べ始めた。
「ほんとにイルちゃんはよく食べますねぇ。作った身としてとても嬉しいです♡」
凛華のおっとりとした声と愛想のいい話し方は聞く人に好感を与えるものだった。
「うぅん、おいしい!ティーも凛華ちゃんの作るご飯、大好きだよ!」
にっこりと笑いながら料理の感想を伝えるのはティー。彼女は、1番歳が若く見えるが、こう見えても悠の元へ来た第1号のカースドールである。
「主はどうですかぁ?美味しくできてます?」
「あぁ、いつも通り美味しいよ。凛華は料理の才能があるんだね。」
「本当ですか?!嬉しいです~!じゃあそこに残してある付け合せの人参も残さず食べてくれますよね!」
少し黒い笑顔を見せた凛華に、人参の苦手な悠は青くなる。料理を褒めて人参を残す許可を貰う作戦が見事に失敗した。
悠はこう見えても29歳の立派な大人である。しかし、子供の時から苦手な人参は苦手なままだし、少しカッコつけて吸ってみた煙草も、むせていまいダメ。極めつけはコーヒーも飲めない、という中身は立派に育っていない残念な大人なのである。
2話、書きました。普段の悠たちの暮らしはこんな感じのようです。
まだまだどしどし書いていくのでよろしくお願いします!まだまだ新人ですが読んでいただけるとありがたいです。




