11.
「おーい、お前ら。準備出来たか?」
「「「はい!主!」」」
今日は、明日の仕事のために、梓に整備してもらう日だ。昼過ぎになってやっと梓から「事務所で待ってるよーん♡」とメールが来たため、悠たちは家を出るところだった。
「あああああ行きたくない!!!」
「清涙ちゃんは黙って!さぁ主!はやく行きまょう!」
「清涙はあれだがティーはやけに乗り気じゃねえか。どうした?」
「今日は新しい髪型をあのくそハレンチ野郎に教えてもらう約束をしてるんです!」
「教えてもらうんだったらくそハレンチじゃなくて梓って呼んでやれよ…」
そんな話をしながら、悠たちはを出た。
「いらっしゃああああい♡♡♡♡♡♡凛華ちゃんにティーちゃんに清涙ちゃん♡♡♡♡♡♡」
「よぉ梓。連絡遅かったな。整備、よろしくな」
「あ、悠もいたの?やっほー。さぁ凛華ちゃんから!おいで!!!」
「私が最初ですか…まぁわかってましたが…」
梓は相変わらず、悠相手には全く興味が無い。長い付き合いの悠に対しても、それは同じだった。凛華は文句を吐きながらも、大人しく梓について行った。
「なぁティー。毎回思うんだけどよ、整備って何してるんだ?」
「私たちも分からないですよ。整備する間は意識なくて。起きた時、気持ち悪いほど調子良くなってるので、変なことしてるんじゃないかとか思っちゃって心配なんですよ」
「変なことはしてないと思うが…いや、分からないな。でも梓は腕の利く整備士だから心配はしなくていいと思うぞ。」
梓が整備している時は、30分は部屋から出てこないし、たまに「フフフッ…」とかいう変な笑い声が聞こえるため、悠は疑問に思っていた。
しばらく時間が経ち、凛華と梓が出てきた。
「悠、結構雑に凛華ちゃんに呪力流したでしょ?あちこちガッタガタだったからちょちょいって直しといた!あとついでに髪の毛も梳かしておいたぁ♡」
「ありがと梓。次はもちっと丁寧に使うわ…」
「うん。じゃあ次は清涙ちゃんねぇ♡」
「うおぇああああああやだあああああ」
「清涙…健闘を祈る…」
梓はどこをどう整備しているのか、詳しくは教えてくれない。悠も何度も聞いているが、一向に教えてくれる気配がない為、諦めた。
「凛華、調子はどうだ?」
「相変わらず気持ち悪いほど調子良いですよ。何やってるんだか。」
「そうか。前と違うところは?」
「左足の付け根辺りが、前は少し動きずらかったんですけど、それがすっかり直りました。あと髪の毛がサラサラになりました。」
「髪の毛、良かったな。足の付け根はどうなってたんだ?サビか?」
ドールが梓の整備から帰ってきた時、悠はいつも調子の善し悪しや前と違うところ、気分など様々なことを聞くようにしている。梓が教えてくれない分、少しでも次回の戦いで気を付けなければならない所を把握していないといけない。
「あと主、皮膚を感電しにくい素材に変えたらしいので、お風呂も普通に入れるそうです。」
「そうか。それは良かったな。じゃあ今日からは3人で仲良く入れ。」
「はい、主」
凛華に体の調子を聞いていると時間があっという間に過ぎ、程なくして清涙が戻ってきた。
「清涙ちゃんは中が結構ダメになってたから丸ごと交換した!後でちゃんと呪力流せるか試しといてー。もう、清涙ちゃん食べ過ぎは良くないって言ってるのに沢山食べちゃうんだから。そういう所も可愛いけど♡♡」
「食べたい時に食べる!これ大事!」
「了解。清涙はなんの為に動作制限しているかよく考えろ。」
「主が1人で食べるのは寂しいって言ってたからじゃん(´・ω・`)」
「うるさい」
ティーの整備が終わった頃には、もう夕焼けが見えた。ティーは、梓に教えて貰った新しい髪型を早速試していて、毛先だけを器用に巻き、ハーフアップにした髪は、ティーによく似合っていた。
「そろそろ帰るか。清涙は後で訓練場で呪力流れるか試すからな」
「はーい!」
「ティーちゃん!よく似合ってるよ、その髪型!次の整備も新しいの教えてあげるね♡♡」
「ありがとうございます、梓さん。次回もよろしくお願いします。」
珍しくティーは梓に笑顔を見せた。それを見た梓は、驚いたように目を見開き、一瞬とても嬉しそうな顔で笑ったが、すぐにいつものデレっとしただらしない表情に戻っていた。
「主、帰りにスーパー寄っていいですか?夜ご飯の食材が…」
「あ?いいよ、んなもん。今日は4人でカップラーメンな。」
凛華は少し不満そうな顔をしたが、まぁたまにはいいか、と困ったように笑った。
「よぅしお前ら!家まで競走な!負けた人風呂当番ー!」
言うが早いか悠は走り出した。
「えっ!主ずるい!」
「負けませんよ!」
「アパート近いのに競走って…ちょ、待ってください!私、属性雷ですよ!?お風呂当番無理ですよ!?」
「皮膚変えてもらったんだろー?じゃあ問題なしだ!!」
久しぶりにした全力疾走は、とても気持ち良かった。夕日を全身に浴びながら、ふと「あの時みたいだ」と今では笑ってしまうような思い出を思い出し、悠は楽しそうに笑った。
今回は挿絵無しです。楽しみにしていらっしゃった方すみません。読んでいる方は少ないですが。もし読んでくれた方は感想など残していただけると嬉しいです。
梓くんですが、ドールのことを全く知らなかった時は、美容師になろうとしてお勉強していたので髪の毛に関してはプロ級です。
次回番外編悠のお話③です。