10.
「凛華!!大丈夫か?!」
勢いよくキッチンに飛び込んだ悠は凛華の姿を探す。
「あれ、凛華?どこだ?」
「主!!危ない!!」
「え?!うわぁっ!!」
凛華の声がしたと思えば突然こんにゃくが飛んできた。こんにゃくが頭に勢いよくぶつかった悠は、その場にげんなりと座り込む。
「なんでこんにゃくが飛んでくるんだよ…何してんだよ…」
「すみません!主!!怪我はないですか?!主コード使いました?一瞬右腕が動かなくなりまして、焦ってこんにゃくすっ飛ばしちゃいました」
悠は3人のドールを所有している。そうすると、ドール1体につき、プロトタクトは1個なので、必然的に3つのプロトタクトが必要になる。ティーを動かす指輪は左手の中指だが、清涙と凛華は右手についているため、清涙のプロトタクトを起動したと思ったら凛華のものまで起動してしまっていたようだ。
「そうだったのか…時差…いや、すまない。気をつけるよ。そういえば洗い物は?水は大丈夫か?」
「大丈夫ですよぉ^^」
「いや、それは大丈夫では無い。明らかに髪の毛で静電気起きてるし、指からバチバチしてるのはそれ電気じゃねえか!」
凛華の指からは時折バチッとした危ない音を立てながら電気が走る。それをニコニコしながら平然と言ってしまうのは凛華が電気を怖がっていないからだろう。
「これは梓に見せないといけないなぁ」
「え、あのハレンチ野郎のところに行くんですか?」
「呼んだかな!!凛華ちゃん!」
「変なのが来た…」
話をすれば、とは本当にあるものなのかと悠は感心した。颯爽と現れた梓はドヤ顔を浮かべながら手に持ったフリフリのドレスを凛華に差し出す。
「凛華ちゃん!これ!凛華の為だけに3ヶ月もかけて作ったんだよ!着る!?」
「誰が着るかぶっ飛ばしますよ」
「お前即フラれてんじゃねーか!どうすんだよそれ!あははははは」
「自分で着ればいいんじゃないですか?」
「強気の凛華ちゃんもステキ…!」
後ろで爆笑している悠も見えていないのか、凛華をうっとりと見つめる梓は、凛華の冷ややかな視線にも全く屈さずちょっとだけでも…!と食い下がっている。
「しょうがない、これはしゃちょーのドールちゃんにあげるか…」
「社長だったら喜んで着せるだろうな。社長のドール溺愛は正気じゃない。」
「呼んだかーい?悠、いるー?」
「話をすれば、パート2。」
真司が部屋に顔を出す。梓の持っているドレスを見るとぱぁ、と顔を輝かせた。
「なんで事務所メンバー揃ってんだよ。」
「わぁ、可愛いお洋服!しーちゃんによく似合いそう!それどうするの?」
「でた~。しゃちょーのドール自慢~。これ、しゃちょーにあげるよ。僕持っててもしょうがないし~!次こそ凛華ちゃんが着てくれそうな可愛いお洋服作るからねぇ」
「くたばれ」
「あぁんするどぉい♡」
「無視するなよ。」
しーちゃんとは真司のドールである。名前はしおん。真司は御歳35歳だが、未婚独身。ドールを本当の娘のように可愛がっている。梓のドレスを抱きしめた真司は、思い出したように悠の方へ振り返る。
「そういえば悠。明後日に依頼、入ったよ。」
「了解っす。梓、整備頼むぞ。」
「はいよ~。」
今度こそ真司はるんるんとスキップをしながら悠の家を出ていった。
はなちゃんです。
今回も絵師から挿絵が届いたらまた入れますので、よろしくお願いします。
次回は梓の整備についてです。
その次は恐らく番外編です。
今回の挿絵で梓くんのキャラデザが分かるので、お楽しみに。次回もぜひ読んでいただけると幸いです。