誰だって、未来が選べるなら好きなように選ぶよね? 〜ウェスタの乙女序章〜
産声を上げたばかりのこの物語を見つけ出していただき、また、興味をお持ちいただき、本当にありがとう存じます。
このご縁があなたにとって良きものでありますように。
そして、
一時の暇つぶしとなれたら幸いです。
美しいものが好き。
あの美しいアテネの地、歴史、芸術、神話
みんなみんな大好き!
遠くローマの地から、大好きなアテネに想いを寄せている、そんなわたしの目の前には地中海の青い海が広がっている小高い岸壁の一角に設けられたこの東屋で、私はお茶を飲みながら眼下の3人の巫女達の舞と祈りの奉納をを見守っている。
後の世で古代ローマと呼ばれるこの時代に湿度を含まない爽やかな風が陸の方からふわりと吹き、わたしの頭上のオリーブの葉を揺らして、キラキラと日差しも踊っている。
「ふふ、まぶしい。」
木漏れ日が顔に当たって、思わず左手で日差しを避けながら空を見上げた。
雲一つない青空と、青々とした葉を茂らしたオリーブの木。
そして、海も凪いて、キラキラと光を反射している
(なんて平和な1日なんだろう)
本来ならば、私なんぞが一生身につけることなど
なかったはずの最高級シルクで作り上げたイオニア式のこの衣装は、軽くて柔らかくて、肌にサラサラと心地よい。
そんな心地良さの中で、心を無にした。
頭の中をめいっぱい使うために。
例年の天気、空模様、収穫量、風向き、海の色。
ありとあらゆるデータを思い出し、暦年の収穫量をざーーっと比べて今年の気候に当てはめる。
「今年も豊漁ね...」
巫女たちが踊り終わる前に、今年の豊年っぷりが目に浮かんできた。
「さすがは元NO.1巫女ですね」
神殿からお供を引き連れた金髪の青年がこちらに向かいながら声をかけてきた。
豪華絢爛な装飾と、美しく折りたたまれたトーガに身を包まれ、目鼻立ちの整った美しい金髪の青年。
このローマでは、ほとんどの人間が黒髪かせいぜい灰色。そして、短髪。
目立たないわけがない。
「これはこれは弟殿下」
私はスっと椅子から立ち上がり、左手でドレープのたっぷり入ったスカートをふわりと持ち上げ、
ひざまつき、右手を胸元にあて、こうべを垂れた。
「またそのような
他人行儀の挨拶を...」
苦笑いをしながら、私の前に同じようにひざまつき、彼はわたしの右手を手にとった。
「さぁ、おもてをあげてください
わたしの愛しい姫巫女どの」
弟殿下はそう言いながらわたしの顔を覗き込んだ。
耳を覆うほどに伸びた金髪の髪は、今日のような陽気の日には光を浴びて、キラキラと輝く金細工のようで。
私を覗き込むその蒼き瞳は、優しくも憂いを含んで。
(美しいなぁ)
とぼーっと魅入ってしまいそうになる。
あぶないあぶない。
「かしこまりました」
左手を弟殿下に預け、スっと立ち上がる
けれど殿下はまだひざまついたまま。
「殿下?」
殿下はそのまま、わたしの手を口元にもっていきそっと手の甲にキスをした
「殿下!」
ボッと赤くなる私。
どれだけされても慣れることができない。
それなのに、照れるわたしを無視するように、わたしの手をそっとひっくり返し、今度は手のひらに軽くキス。
「...殿下!」
カーーーっと耳まで熱くなるわたしの思いをよそに、殿下はそのままわたしの手のひらをご自分の美しい頬に当てて、じっと私をお見つめになる。
ええ、ええ、よく知ってます。
手の甲のキスは敬愛を。
手のひらにするキスは本気の求愛を。
頭沸騰しそうなほど恥ずかしいのデス。
と思っている私のこの思いを、実は殿下はよーくご理解下さっておいでて。
「殿下など...
他人行儀な呼び方をなさるからです」
と少し怒り気味に私をじっと見つめてくる殿下。
そう。
わたしたちは、立場も身分も生まれた地も違いながら幼い頃からの顔馴染み。
幼馴染みというほど一緒には育っていないのだけれど、各地や要所要所で出会うむしろ腐れ縁の2人なのだ。
というわけで、この構図、プロポーズされてるかのようで恥ずかしすぎるんですけど...
ふと横に目をやれば、目線に困ったような従者たち。
そしてキャーキャー小声で騒ぐ神殿に仕える下級巫女たち。
あぁ、本当にもぅぅ。
恥ずかしいからやめれっ!っと危なく本性が出かっちゃう。
「かしこまりましたわ。
お名前でお呼びすれば
よろしいのでしょう!」
「ええ」
殿下はニコッと微笑んで頬に当てたわたしの手をまたそっと優しくつつみ直しながら微笑まれた
私はすうっと深呼吸して
「...ルキウス殿下。」
「...」
殿下はまたムスッとなさった。
わかりました。
わかりましたよ。
「ルキウス様。」
「はい。」
にこぉっ。と零れ落ちそうな程の満面の笑みを顔いっぱいにひろげ、ルキウス様はすっと立ち上がり、わたしのおデコにキスをしながら
「今日もとてもお美しいですよ
わたしだけの愛しい巫女姫。」
とまた嬉しそうに微笑まれる。
甘いよう。恥ずかしいよう。
でも、
結婚を控えたカップルというのは、誰も彼もこういうものなのでしょうか...。
海辺の漁師の娘に生まれ、この能力1つを味方にあれよあれよと地方の小さな神殿から総本山神殿に引き抜かれウェスタの乙女巫女になるまで、そう時間はかからなかった。
そして今、誰もが羨むこの現皇帝陛下の弟君であらせられる見目麗しくも美しいルキウス様に見初められ、
(本当は出会いはもっと前からで腐れ縁)
『 神のご意向を皇帝陛下の身元に置かれるのも悪くない 』
という理由で結婚を認められた私たち。
なのでルキウスはとてもとてもとてもご機嫌なのだ。
そして、わたしもルキウスを心から愛してる。
こんな幸せなことは無い。
そう思いながら、わたしはまた右手の小瓶をぎゅううっと握りしめた。
物思いにふけるわたしをルキウスはまた心配そうに見つめて
「そこでは日に当たってしまいますよ。
花嫁が式の前に日焼けしてしまっては大変だ。
さぁ、座りましょう?」
「ありがとう存じます」
ルキウス自ら引いてくださった椅子に、腰をおろしルキウスの顔をみた。
ルキウスはまたにこっと笑いかけわたしの横に腰掛けた。
「それで、今日の他人行儀の元となった不機嫌ポイントはなんだったんですか?」
くすくすと笑うように語りかけてくるルキウス。
先程まで見ていた青い海と空と緑のオリーブ。
そこに金色にたなびく陛下の金髪と白い肌に美しい瞳。
あー...。
なんて絵になるのでしょう。
むしろ絵にとどめておきたかった。
「聞こえてますか?」
いけないいけない。
普段の癖でトリップしてた。
「別に、不機嫌なんかではありません」
ぷいっと横を向いた。
「そうでしょうか?」
クスクスも笑いながら殿下はわたしの黒髪をくるくるといじりはじめた。
わたしの髪は一般的な、黒髪。
そして黒い瞳。
殿下の横に寄り添っても、とてもお似合いとは思えません。
それが少し悲しくはあります。
「強いて言うなれば...」
「なれば?」
「ルキウス様のその見目麗しいお姿で今日はどれほどの乙女たちの心を奪ってしまったのか。そこに、ちょっと苛立ちをおぼえます。」
「それは...」
クルクルとわたしの黒髪を指に巻き付けて遊んでいたルキウスの手がピタリと止まった。
「それはもしや、ヤキモチですか?」
ビックリした顔のルキウスを横目でチラリとみて
「...そうかもしれません。」
わたしはまたすんっと横を向いた。
フルフルと震えるルキウス。
さすがにこんなくだらないことで機嫌を悪くした私なんてさすがにあの優しいルキウスでも怒ったかしら?
と、もう一度見返すと
「あぁダメだ、嬉しい
可愛い!愛してる!!」
と、がばーーっ!と抱きつかれました
「ちょ、ルキウスっ!」
「そんな心配ひとつも要らないのは
あなたもよく知っているでしょう?
幼いあの頃から、
私はあなた一筋なのですよ!」
そう言いながら、私の髪の毛に
顔を埋めてスリスリしてくるルキウス。
あぁ、昔からこの甘えんぼな癖は
治らないものだな、
と私も苦笑いしながら
「嫌われ作戦失敗かぁ...」
とポツリと漏らした。
「今なんと?」
ひょっこりと顔をのぞかせ聞き返す殿下に
「なんでもなーい。」
と、幼かったあの頃のような話言葉になる2人。
「そう?」
「そうよっ!
ってコホンっ。
左様でございますよ」
「そうですか。」
そう言いながら、ちゃんと顔が見られるよう距離をおく。
「そもそも、私はモテるわけではありませんよ。
ただ、この金髪が珍しいあまりに人目を集めてしまうだけです。」
そう言いながら、ご自分のお御髪を1束つまみ上げた。
「それに、昔からの病弱で勇ましい戦士にも程遠いですし...」
そうですね、殿下は昔、本当にお身体が弱く、どれほど心配したことか...。
それも今は昔。
現在では著名な彫刻家作の彫刻像たちも逃げ出す程の華美すぎずとも、よく引き締まった肉体美をお持ちですともよ...。
「それに、あなた程の知識があるわけでもありませんし。」
うそつけーうそつけー!
私は本が好きなだけ。
所詮は推論架空の知識。
ご自由にご自分の軍を引き連れて、どこまでも行けるあなたはその目で実物をご覧になられて、生きた知識としっかりとした真贋をおもちじゃないですか。
てか、そのまえにものっそい頭良いしね!!
「ちょっと偉い立場にいられるのも、父と兄のおかげで自分の実力ではありませんし」
皇帝陛下の息子で、今は弟のどの立場が
『 ちょっと 』
だと言うのか。
謙遜もしすぎると嫌味だということをコンコンと説いてやりたいわ。
「それに、所詮わたしは下賎の母から生まれた半端モノですから」
その一言に私はハッとした。
ルキウスは言いながら寂しそうに笑っていた。
「だから、
このローマの地では珍しい金髪に蒼い目を、みんな物珍しい目で見ているのですよ。
決してあなたが心配するようなことはないのです。」
「ルキウス...。
そんなこ」
言いかけたわたしの唇をルキウスはさっと奪った
「...!」
「大丈夫。ぜんぶ本当のことです。
今更傷ついたり、悩んだりなんてしませんよ」
「今はただ、あなたとこうしていられることがただただ嬉しい。」
そんなことないでしょうっ。
なんて問い詰めたら、逆にルキウスを悲しませることくらい何度も経験済みだから。
今はニッコリ笑うようルキウスが、本当に幸せなんだと信じてる。
だから...
「...私もです」
ルキウスが嬉しいことが、私にも嬉しい。
ルキウスが、幸せで居られることが私にとって何よりも幸せだ。
だけど...
私は握っていた小瓶にそっと目線をずらした。
「それは?」
「これは、東方から手に入れた香料です。
とても面白い香りがするのですよ」
そう言いながらルキウスにその小瓶を見せた。
小さな、小指程の大きさなのに、細かい細工の施されたそれはとても美しい小瓶だ。
「へぇ...。
どんな香りなのですか?」
ルキウスは小瓶を手にとってまじまじとそれを見つめた
「エキゾチックといいますか...
本当にいままで嗅いだことない香り
と言いましょうか...」
「ふぅん。
かいでみても?」
蓋を開けようとするルキウスを慌てて止めるわたし。
「いえ、とっても高価なのでダメです」
「お金の問題ですか?」
くすっと苦笑いするルキウス。
あ、この人わけがわからんほどの金持ちだった。
「お金というよりも、なかなか、手に入らないんですよ」
そう言いながら小瓶を取り返したそれを、親指と人差し指でそれを持ちながらもう一度ルキウスにそれを見せる。
「それに、実はコレ薬にもなるんです」
「薬?」
ピクっと固まるルキウス。
そうでしたねー。
病弱な頃のあなたは苦いのから不味いのから、散々薬に苦しめられてきましたねー
「いえいえ、決して不味くないですよ」
「そうですか。
それはよかった」
ほっと息をつくルキウス。
本当に、腐れ縁のわたしたちは相手の思いがお互いよく読み取れる。
「薬といっても...。
媚薬なのです」
ポッと赤くなりながら横を向くわたし。
うん。嘘は言ってないからね
「媚薬...?」
キョトンとするルキウス。
「そんなもの使わなくとも、
わたしはあなたに夢中ですよ?」
おくびれもなくそういうルキウス。
うん。十分知ってるからやめて。
恥ずかしい。
「ありがとう存じます
わたしも...なのですが...」
「なのですが?」
「この先、2人の間にその...」
「その?」
「ややこを望まれるのであるならば必要かな...と..」
ぼぼぼぼほっと火を吹くほどに恥ずかしいっ。
「......?」
あぁ、全然伝わってない、ダメだこりゃと顔を隠す私。
「つまり、どういことですか?」
「〜〜!
だーかーらー!
シラフのままでは
恥ずかしすぎるということです!!
もー知らないっ!
バカっ!!!」
ポカポカとルキウスの胸を殴りつけるも、全く痛くなさそうな様子。くそー。どうしてやろう。こんな恥ずかしい思いさせおって。
「...つまり...」
「いままでずーーーっとお預けだったけれどようやく心の準備ができたということでよろしいのでしょうか?」
いままで見たこともないほどの真剣な面持ちをしながら、ルキウスが上から覗いてくる
「(こくん。)」
と小さく頷くわたし。
それをみてワナワナと小さく震えるルキウス。
「...そうか、そうかそうなのか」
あれほど綺麗な顔をしたルキウスのどう読みとっていいかわらない表情に若干ヒイタ私。
「これまでどれほどのチャンスが来ようともことに至らず、流されるままではダメだチャンスは自ら作るものだと作り出し、捏造し、密造し、ふたりの初めては、どれほどロマンチックな下準備と入念なチェックを積めばあなたが身も心も私に預けてくれるのかとどれほどいままで画作し、計画を推敲し、遂行してきたことか...どれほど失敗してきたことか...!」
ん?
いまなんて?
「それが、今、とうとう、とうとう...。」
あ、泣き出した。
「そうだ、こうしてやっと決心してくれたのならば早い方がいい!
あなたの事だ!
モタモタしていたら、また気が変わってしまうかもしれない!」
ちょ、失礼じゃない?
と思う私は無視されて。
「これはどのように飲むのですか?
イッキのみ?
いやいや、まて、私が飲んでどうするあなたに飲ませなければ意味が無い!」
どんだけ焦ってるんですか?
思わず苦笑いしてしまう。
「暖かいお茶に1滴垂らしていただきましょう。
そのほうが、香りもよく立つと教えられまし」
「茶をもて!
新しい茶だ!
暖かい茶だか、飲めないほど熱くしてくれるな!
速やかに飲める適度なお茶を一刻も早く!!」
ガバッと立ち上がり、控えていた侍女に
身振りを交えながら指示をだすルキウス。
おーい!
わたしの説明の途中だよー
まぁ、いいかと眼下の巫女達に視線をずらした。
奉納の舞はどうやら終わり神からの啓示をうける準備にはいったようだ
「あれ、辛かったなー...」
ポソリと漏らしたわたしの言葉はもうルキウスには届いていないようだ。
これほど私をいままで望んでくれていたのならは、1度くらいは捧げておけばよかったと思った。
知識と妄想とシミュレーションで神からの啓示を予想してきた私には純血である意味はなかったのだから。
そうぼんやりとしていたところに淹れたてのお茶が運ばれてきた。
「さぁ、お茶が来ましたよ」
侍女からそれを奪うかのようにうけとると、いそいそ準備するルキウス。
ワクワクと、ドキドキとを含んだ真剣に私を求める眼差しにドキッと胸が高鳴ってしまう。
本当に、大好きなこの人に、この身を捧げて置けば良かったと思う。
「私だけではその、恥ずかしいので...
殿下も...」
と、言いながらわたしは小瓶の蓋に手をかける。
きゅぽんと、よい音をたてて開いた小瓶からは本当に今まで嗅いだことの無い不思議な香りがしてくる。
そして、2人分用意された茶器に一雫ずつたらし。
「さぁ、ルキウス様。」
「ありがとう。」
そしてカップを手に取り、同時にごくんと飲...
えっ!ちょ、ルキウス!!
イッキのみかいっ!
「ぷはー。
味も香りも全然分かりませんでした」
ニコニコが止まらないルキウス。
「そうだ、こうしてあなたの身もこころも頂けるのです。
ですので、私だけのあなたの愛称をつけてもよいでしょうか?」
「え?」
古代ローマと呼ばれるこの時代、女に名前をつける風習はない。
父方のます名前を女呼びにするだけだ。
ましてや多くの神殿を転々としてきた私だ。
出身地方の地名で呼ばれることが多かった。
「わたしに、名前...ですか?」
キョトンとするわたしの髪を愛おしそうにまたサラサラと撫でながらルキウスはいった。
「ええ。名前を。
あなたを愛するその時にわたしの、私だけのあなたでいて欲しいから」
じっと私を真剣にそれでもうっとりとした眼差しのルキウス。
「だから、ずっと考えていたのです」
目線を下に落とし、わたしの肩にどっしりと腕を預けるルキウス。
「ローマ人の見本のようなその美しい黒髪をもち私を見ているようで、でも、僕を通り越して未来までも見つめるその黒い瞳にいつも焦りと嫉妬の気持ちを隠せなかった」
フラフラと、軽く頭を揺らすようにふわふわとしゃべり続ける。
「その華奢な体で、細い腕で、それでも健康的な肌を余すところなくつかっ奉納の舞を踊るあなたをいつも見守りながら、いつも、いつもあなたを求めていた。
僕1人のものにしたいのにあなたは神のものだから...。
神でさえも恨めしかった」
「ルキウス...もう喋らないで...」
顔面蒼白になりながらルキウスはフルフルと頭を振った。
「あなたはウェスタの乙女なのだからと、その体も心も神のもの、市民全員のものだからと、ずっと僕の想いをしまい込んでいた。」
「やっと兄にも父にも認められる男になって、無理やりあなた神からもぎとって、僕の妻と迎え入れられることになったのに」
「それほど僕がキライだった?」
優しく微笑むルキウス
「これは、毒...ですね?」
自分で、血の気がさーーっと引いていくのが分かる
「あなたが飲む前で
よかった...」
毒だと分かってからも、わたしの身を心配して、優しく微笑むルキウス。
私は溢れ出る涙が抑えられなかった
ポロポロと零れる大粒の涙を拭うこともしないで、美しいルキウスをぎゅっと抱きしめた
「いいえ!いいえ!
わたしもあなたを愛しています!!
ずっとずっと、幼いころからずうぅっと!!」
「そっか...」
満足そうに微笑むルキウス
「えぇ。」
微笑み返す私。
そして
「がはっ!」
大量の血を吐き出したルキウス。
その血を全身に浴びた私。
「許してくれとは言いません」
「うん」
「1人で旅立てなんて
もっと言いません」
「...?」
ようやく、事の異変に気がついた近衛兵がざわっと騒ぎだした。
「私の、大事なあなたにこの先の残状をあじわわせるくらいなら」
「...」
「共にあの世に参りましょう。」
そう言いながらさきほどの小瓶を、 近寄ってきた近衛兵に見せつけた。
「...ダメだ、やめてくれ...」
ルキウスの声をかきけすように
私はさけんだ
「弟殿下を私がこの手で毒殺しました!
見事この私をしとめ、手柄とせよ!」
一瞬ザワっとしながらも、
手柄に目のくらんだ一人の男が
飛び出してきた。
「お命ちょうだい!」
「(だめだ、やめろ、だめだ!!)」
声にならないルキウスの叫びを、背中で受け止めながら、わたしは世界が一回転するのをみた。
自分の血で青空のキャンパスに赤い弧を描いたその一瞬は退廃的で美しかった。
そっか。
青と緑と金の組み合わせも美しいけれど。
青と緑と赤もこれはこれで美しいんだな。
なんて、薄れゆく意識の中でおもっていた。
「(なんてことだ)」
ルキウスが最後の力を絞って、わたしの胴から離れたそれを、抱き寄せたのを感じながらわたしは事切れた。
ルキウスの自身の吐血した血と、私から吹き出した血は、たしかに混じりあっていた。
ルキウスに捧げられなかったわたしの純血の代わりに、生命を、わたしの全てを捧げたのだ。
そしてルキウスも、静かに息を引き取った。
「うわあああぁ!!!!」
がばあっ!!
とはね起きて目が覚めた。
硬いベットに低い天井
室内にいるのに
海の香りが漂ってくる
「ここは...」
キョロキョロとあたりを見渡す
窓ひとつない狭い部屋。
質素な掛け布団に
簡素な服
「なんだ、寝ぼけてんのか?」
懐かしいその声は
「とおちゃん!」
と、自分の声も幼いっ!
「とおちゃん!とおちゃん!!」
ボロボロと泣き出した
幼いわたしの横に
ドカッと座る父。
まさに海の男!
といった筋骨隆々の
よく日に焼けた肌の
その男は、正しくわたしの父親だ!
て、若いっ!
「なんだなんだぁ?
怖い夢でもみたのか?」
と、優しく髪を撫でてくれた。
「ゆめ...?」
そうだ。
わたしは夢を見ていた。
腐れ縁だけど、お互い大好きで、
でも、身分違いの淡い恋を
やっと実らせた矢先に
わたしのこの手で殺しちゃった!
てか、わたしも死んだ!
と、自分の首を恐る恐る撫でてみる
「ちゃんとくっついてる!」
「はぁ?またとんでもない夢
みたんだなぁ。
昔っから突拍子もない夢見ては
ギャーギャー叫んどったけど、
今日はどんな夢だったんだ?」
と、呆れ半分で、
でも優しく聞いてくれる父。
わたしはこの父親が大好きだった
「えっとねぇ…
神様の啓示を受けれる上級巫女を市民から切り離して私物にしてその流れで戦争をけしかけられる啓示を受けられなくて、大敗して、市民から怒りを買ってなぶり殺しにされるはずだった皇帝の弟を私が殺す夢ー」
「そ、そりゃあまた盛大な夢だな
てか、普通に怖いな」
あ、お父さん、顔がひきつった
「お前はせっかく女の子に
生まれたんだから、
お淑やかに育ってくれればええよ
人殺しなんで、しないでええ。」
そう言ってまた優しく頭を撫でながら
もう一度ベットに寝かしつけた
「夢見が悪かったんだろうけど、
もう一度しっかり眠って忘れちまいな
次はいい夢みられるぞ」
「はぁい」
そう返事をしながら、
寝たフリをした。
あんまり父親を心配させるもんじゃないよね
目をつぶってふーっと
ちからを抜くと、
さっきの夢と、
今の現実と、
どっちがどっちかわからなくなる。
それほどリアルだった夢。
わたしはプリウスの子
個人名はない。(だって女だから)
としは今年で5才。
さっきのゆめのわたし
たぶんおとなになってた!
あんなにびじんになれるなら
しょおらいすっごく
たのしみじゃない?
なんてワクワクしながら
ふときがついた。
あれ...?
あのこーてーでんか
きのうあったおとこのこと
よくにてる?
あんなキレイな、きんぱつに
あおいおめめ、めったにいないよね
ふむ。
そうかんがえると、
もしかして...
さっきのゆめは
ホンモノ?
じゃあ、これからの
わたしのみらいのユメ?
わたしはあのおとこのこを
すきになって
コロスの?
・
・
・
やだやだやだー!
どうかんがえてもやだー!!
こわいし いたいし やぁだあー!!
そうして必死に考えて気がついた。
そうか、これはわたしの物語。
全力で偉くなって、
全力で恋をして、
全力であの人を守る。
あの未来を、全力で回避する。
そんなヒロインになる
わたしの物語なんだ!
と自覚した。
うとうとと、
ふたたび眠りに
落ちそうになりながら、
それでも必死で頭を回転させる。
どうしたら、
あのバットエンディングを
回避できるのかと。
翌日の朝には
もうすっっっかり忘れ去ってるなんて
全然思いもしなかったけど。
「あなたが居ない世の中なんて」
そんな情熱的な思いで、先に逝くことを選んだアルテーシア。
本当は一緒に飲んで一緒にいきたかったのか。
ルキウスがせっかち過ぎて分かりませんでしたね。
ルキウスとは、「光」という意味だそうです。
産まれたての金髪が、きっと光を浴びてキラキラ輝いていたからその名前に、なったのでしょう。
生まれた時には父にも母にもしっかりと愛されていたこと間違いなしです。
幸薄い2人ではありましたが、この先アルテーシアが、先読み能力(推測力)を駆使してどのようにハッピーエンドに導けるのか。
終わりまで書き綴れるよう頑張ります。
もし、お気に召しましたら、またお立ち寄り頂けたら幸いです
どうぞ、よろしくお願い致します。
2019.9.11 四則。