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6月篇第3話: 映画には誘えましたが、やっぱり困ってます -前篇-

表題通り、第3話は前後篇での進行です。

本日更新分は前篇。

 バタバタしながらも過ぎていった6月が早くも終わりを迎えた週末、土曜日。良い天気。

 先週辺りからようやく夏らしくはなってきていたけど、今日の太陽はちょっとおとなしい。

 休憩中なのかもしれないくらいの過ごしやすさだった。



「やってきました! ほーしのーみやー!!」


「あんまりはしゃぐなー。ほぼ毎日来てるだろー」



 どっかで聞いた覚えがあるようなフレーズをいっしょになって叫ぶエリカちゃんとシュウスケ。

 窘める僕と、僕らを見て小さく噴き出したルミ。


 僕らがやってきたのは、この周辺でいちばんのにぎわいを見せる星宮市。


 その中でも、名前の通りに星宮のど真ん中にある、星宮中央駅。



「ユウくん、まだ時間あるんでしょ?」


「ん? うん、余裕。1時間くらいはあるかな」



 ホントは1時間半の余裕がある。

 中のショップで何かを買うことなどを考えた上で、あえて少なめの時間を申告しておくのはいつものこと。

 こういうこともあるだろうな、とは思っていたが、やっぱり正解だった。



「じゃあ、先にスタバ行きたいんだけど、いいかな? もちろん軽めにね」


「腹ごしらえは大事だろ」


「さんせー」


「異議なーし」


「じゃあ、行きましょー」


「おー!」の混声3部合唱を引き連れて、エリカちゃんはハイテンションで歩を進めていった。





 今日のメインの目的地は、この駅ビルの8階にあるシネマコンプレックス。

 メインイベントはもちろん、先日エリカちゃんが見たがっていた映画を見ることだ。







                    ○








「そろそろ行く?」


「うん、ちょうどいいくらいだと思うよ」



 僕が甘めのラテ、他3人が新作のフラペチーノを堪能し終わったところで、イイ感じの時間になった。

 全員の行動の思考と嗜好を把握した、素晴らしい時間設定だと思う。

 自分で自分を褒めたい。

 ちょっと誰かに気付いてほしかったりもするけれど、それをするとたぶんウザいから止めておく。


 駅ビルに戻り、エレベーターを使って8階へ直行。扉が開けばすぐそこはシネコンのセンターホールだ。


 微妙にお昼時にかかっていることもある。

 いちばん混雑する時間帯からは少しズレているということで、わりと空いている感じはする。

 このフロアのすぐ下にあるレストラン街の方にも人が流れているおかげだろう。



「いいのか、シュウ。買ってくるなら今のうちだぞ?」


「おう、さんきゅー」



 シュウスケはさっきから、少し落ち着き無く僕を見ていた。

 何が言いたいかは充分わかっているつもりだったが、正解だったらしい。



「あれ? シュウスケくん、どうしたの?」


「お手洗い?」


「いや、あそこ」



 指差した方向にはショップエリア。

 フードやドリンクが取り扱われているところだ。



「あー、なるほどー」


「へえー、意外と気が利くじゃん」



 ――あ、マズい。


 アイツは普段、自分の分しか買ってこないタイプだった。

 というか、普段はこういうときにはいっしょに並ぶから、自分以外のを買う発想が起きるはずがない。


 エリカちゃんの一言に、ちょっと冷や汗が出る。



 ――ん?


 というか、シュウスケのヤツ、今までにエリカちゃんと映画に来たことないのか。



「じゃあ、僕はチケット出してくるから」


「あ、私も行くけど……」


「ああ、だいじょぶだいじょぶ。席の予約とかはもう終わってるから、すぐ戻ってくるよ」


「気が利くぅ」


「それじゃあ任せるねー」



 満面の笑みのふたりに背を向けて、慌ててシュウスケにDMを送っておいた。


 ――――気付いてくれればいいのだけど。







                    ○







 今月初めに痴話喧嘩の原因となった、この映画。


 ルミ経由でエリカちゃんに訊いたところ、正直に『見に行きたい』という返答を確保。


 そういうことなら、とチケットをひとまず4枚仮確保。


 シュウスケには、『ふたりに誘われたから映画行くけど、お前は?』と質問。

 久々にどうだ、という誘いに、わりと素直な『……行く』という返答。

 何を天秤にかけたかはよくわからなかった。


 言質を取れば、あとは簡単。


 学校帰りに途中下車してシネコンへ向かい、購入を本確定。


 あとは差し当たって、シュウスケが心変わりしないように気を付けるだけだった。







                    ○







 僕が戻ってから数分後。


 大きなトレイいっぱいに飲み物とポップコーンを置いて、シュウスケが何とかこちらにやってきた。

 ――良かった。DMに気付いていたみたいだ。

 もしかしたら自発的に買ってくれたかもしれないけど。



「お待たせー」


「シュウスケ、ありがとー。いくらだった?」


「ああ、それは後からでいいや。それより、ひとりずつ持ってってくれ。さすがにバランスが……」


「おおう、ちょっと待ってくれ」



 とりあえず、キャラメル掛けになっているポップコーンはシュウスケが確保しているはずなので、それ以外を――――。



「って、全部キャラメルソースかよっ」


「あれ? ユウイチ、これ嫌いだっけ?」


「……いや、そういう意味じゃなくてな」



 好きだけどもさ。

 お前には負けるが、僕もわりときっちり甘党だけどもさ。


 どれを選んで渡そうか、とか思っていたのが杞憂に終わって、ちょっと拍子抜けしただけだわ。



 とりあえず、ポップコーンだけはルミとエリカちゃんに渡しておく。



「まぁ、いいや。……あ、そうそう。飲み物なんだけど、左からアイスコーヒー、ピーチソーダ、マスカットソーダだから。そっから好きなの選んでよ」


「いちばん右は?」


「それは俺の」


「なにそれ」


「購入者特権」


「そうじゃなくて、シュウスケは何買ったの?」


「……ピーチソーダ」



 ――うん。そうだよな。


 そうだろうなと思ったよ。

 それもお気に入りだよな。

 何で今更恥ずかしがるのか、っていうのは疑問だけど。



「ふーん……」



 とはいえ、シュウスケの仕草にはあまり意に介した素振りも見せないで、エリカちゃんは悩み始めた。


 何を選ぶんだろう。


 わりと気になる。



「はやくしてくれー」


「んー……、じゃあ、これ!」



 選んだのは、マスカット。



「それじゃあ、僕はこれ」「私はこれでー」



 ルミもエリカちゃん待ちをしていたらしい。

 ルミはピーチソーダ、僕はアイスコーヒーを、それぞれ同時に選んだ。



「そろそろ開場かな」


「もうちょっとだね」



 そこまで好んでみるタイプでもないので、恋愛モノを見るのは久々だ。

 じっくり堪能することにしよう。






 ――平和に終わってくれればいいけど。




ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


ユウイチの言う通り、平和に終わってくれればいいんですけどね……。

感想などお待ちしてます!

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