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私鉄沿線恋愛専科 〜幼なじみをくっつけたいけど、どちらもいじっぱりで困ってます〜  作者: 御子柴 流歌
エピローグ

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1月篇兼エピローグA: 幼なじみはくっついたけど、結局いじっぱりで困ってます


 日がな一日、のんべんだらりと、おおよそ高校生らしくはないぐうたらな過ごし方をしてみるのも一興だ――的な自己弁護を、イチバンはじめにさせてもらおう。


 年末年始は、部活が無い日ならば問答無用で家事をさせられるのが常だ。

 大掃除はもちろん、年末の買い出しも含めてのフル稼働。

 もはや恒例行事。文句を言う暇なんてない。


 だからこそ、今年の大晦日がこんなにもフリーダムなことになるとは思っても居なかった。


『で? 午前中はずっとゲームをしていた、と?』


「はい」


 だからこそ、羽根を伸ばすどころか、若干羽目を外すような事態になったわけで。


 幼なじみ兼()()への連絡も怠ってしまったわけで。


『だったらさぁ?』


「はい」


『私に何か連絡を寄越すとか、そういうことはしないわけ?』


「はい、すみません」


 現在時刻は13時を少し過ぎたくらい。


 自室のベッドの上で正座。

 土下座の準備もできている。


 今、僕の目には間違いなく、膝先数センチのところで烈火のごとく怒っている桔梗(ききょう)瑠美(るみ)の姿が、はっきりと見えている。


 いや。本当にね。

 マジで反省してるんですよ。


『もう一度訊くわね? 暇してるんなら何で私に連絡を寄越さないの?』


「あまりにもド暇な大晦日を過ごすことに慣れていない所為で、誰かに連絡をするという選択肢がなかったからです」


 紛れもなく本心であり、真実だった。


 いつもならば、大晦日の夕方くらいまで本当にドタバタしているのが、我が家――紫藤(しどう)家の年末だ。

 もちろんそれはルミも解っているはずで――。


『まー、言われてみればそうよね。ユウイチって年末あたりから死んだみたいに連絡してこないもんね。本当に忙しいときは』


「……はい」


 言い逃れは出来なさそうだった。


『反省してる?』


「もちろん」


『だったら、私のお願いのひとつやふたつは聞いてくれるよね?』


「……もちろん」


『何よ、今の間は』


「滅相もございません」


 嫌な予感しかしないが、悪いのは間違いなくこっちだ。


 っていうか、どうにも付き合うことになってから、尻に敷かれている感がスゴい気がするのですが。

 ――同じ高校、同じクラスの幼なじみカップルを思い出してみるが、あっちはどう考えても対等な感じだ。

 正直、うらやましさがある。


『じゃあ、最初のお願いだけど』


 早いな。

 早速過ぎる。

 もう少し心の準備が欲しいんだけど。


『ウチに来て』


「……んえ?」


『なによ、その反応』


「いや、別に」


 文句はないけど。


「意外に、ふつうだな、と思ってさ」


『5分以内に、だけど?』


「は!?」


『この通話切った瞬間からカウントダウンするから』


「ちょ、ちょっと待って」


『はい、切るわねー』


「話を聞いて」


『……がんばって』


 通話が切れる。


 その直前に、『ちゅっ』とあまり聞き慣れない音が聞こえた。


「……それは、さあ」


 ――がんばるしか、無くない?









「4分36秒、か」


「はぁ……、何とか間に合ったか?」


「案外ギリギリね」


「そりゃ、雪道だしな」


 途中、危うくスリップするところだったし。

 根雪になって踏み固められているかと思いきや、鏡みたいに光っているようなアイスバーンがいくつかあった。

 こういうところで油断すると勢いよくズルッと行くわけだ。


「ありがとね」


「ん?」


「そりゃ、来てくれたんだし。お礼くらいは言うわよ」


「そっか」


 付き合い始めてからで言えばまだ1週間も経っていないが、ルミがこうして僕とふたりきりになっているときの仕草はだいぶ変わったような気がしている。

 何となく、感情表現がストレート気味になったというか、あまり隠すようなことをしなくなったような気はしていた。


 それは、僕の方も同じかもしれないが。


 しかし、哀しいことに。


 ――慣れない。


 あまりにも、カラダには余計な考えが染み込みすぎていて、どうにも慣れない。


 あの日。公開告白をしてしまったあの日だ。

 同級生の小松島隼斗が無神経にも言い放った『4人ともいじっぱり』発言。

 あの台詞による影響がここまで大きいとは思っていなかったわけで。

『習い性となる』という諺の正しさを身を以て痛感してしまった。


「とりあえず、上がって」


「お、おう」


「だいじょーぶ。夕方までには帰すから」


「……そーか」


 何とも微妙な心境にはなったが、とりあえずルミに従っておく。

 元日を迎えるのはそれぞれの家で、というのは昔からだ。

 何もおかしいことはない。


 リビングのドア影からルミママが猛烈に生暖かい視線を送ってきてくれていたが、敢えて満面の笑みを返しておいた。無視すると余計に絡んでくるのは百も承知。

 どのみちイジられるのだ、覚悟は決めておいて損はないだろう。


 ――だよね?





「さて、ユウイチに来てもらったのは他でもありません……って、いきなり話聞いてないのは勘弁してもらいたいんですけど?」


「ああ、いや。ゴメン」


「なに。……あんまり見られると恥ずかしいんだけど」


「そりゃ、だって。……久々じゃん、ルミの部屋に入んの」


「そーだっけ?」


 少なくとも高校に入ってから初めてのはずだ。

 それまではそこそこの頻度で出入りしていた気はするが。


「ルミは、その感覚薄いだろうなぁ。ウチにはしょっちゅう来てるからな」


「あー、そっか。言われてみればたしかにその所為かも」


 一時はウチの母親よりも、僕の部屋に来る機会が多かったような気もするくらいだった。


「って、そうじゃなくて」


 脱線しそうになった話を戻しにかかるルミ。


「明日は元日です」


「……そうだな」


 いきなり当たり前なことを言う。


「初詣よ、初詣」


「ん? まぁ、そうだな」


 例年、僕とルミ、それにエリカちゃんとシュウスケを加えたいつものメンバーで、一番近いところにある神社――幸いなことに学業の神が奉られているタイプ――に行くのが定番。

 というか、むしろ確定事項のようなものになっていた。


「ちょっと、ね。今年は考えていることがあるわけよ」


「ほほう。聞こうじゃないか」


「神宮にも行こうと思うワケよ」


「……神宮」


 そう言われてピンとくる神社はひとつだけ。

 星宮(ほしのみや)神宮(じんぐう)という、この界隈では最大の神社。

 当然ながら参拝客もずば抜けて多いことでも有名。


「そういえば、行ったこと無いな」


「でしょ? イイと思わない?」


「たまにはイイかもな」


「ね? ……()()()()、行こ」


「おう。…………ん? ふたりで?」


 ちょっと意外だった。

 訊きなおしてしまったが、反応はない。


 ルミを見ると、ばっちりと目が合う。

 そして一瞬で顔が赤くなっていく。

 そのまま見つめていると耳まで赤くなってきた。

 こちらも顔が熱い。


 暖房、強すぎなんじゃないだろうか。

 ――違うか。


「エリカたちとはこっちの神社の初詣は行く、って言ってあるの」


「その後で、ってことか」


「そ」


 言いながらルミはこちらの方にカラダを寄せてくる。

 そのまま肩にもたれかかってくる。


 付き合いは幼稚園くらいか、その前くらいから。


 だけど、ルミがここまで甘えたがるタイプだとは、本当にここ数日で知ったことだった。


「……楽しみだな」


「ほんと?」


「そりゃあ、な」


 ルミの肩を抱きつつ、明日のことをふんわりと空想した。







          ○







 翌日。

 大体10時半くらい。

 ルミの家の玄関。


 日付が変わった直後あたりにエリカちゃんからいつもの待ち合わせ場所に集まるようにというお達しがあり、そのまま初詣第1弾となったその帰り道。

 エリカちゃんたちと別れてから神宮に行くプランを手短に決めたのだが――。


 まさか、こんなことを企んでいたとは思わなかった。


 玄関扉を開けたら、着物姿のルミが立っていたのだから。


「……あけましておめでとうございます」


 いつもなら『いや、夜中にも言っただろ』なんてツッコミを軽くするところのはずだけど、その台詞が全然出てこない。


「お、おめでとうございます」


 半分惚けたような声が出てきた。

 自分の声には思えないくらい、マヌケな色合いだ。


「どうかな?」


「そりゃ、もう」


 ――やっぱり影の方から、ルミママが強烈に握りこぶしをこちらに見せつけてくる。

『行け、ユウちゃん! 男の子でしょ!』みたいなことを言っているらしい。

 口の動きはまさにそんな感じだ。

 しかも今日はルミパパの姿もある。

 右左交互に拳を突き出して、夫婦揃って同じようなことをしていた。


 公認の仲って、便利なんだか不便なんだか全然解らない。


「……似合ってるよ」


「さんきゅ」


 今すぐにでも、この場所からルミを連れて出ていきたくなった。





ここまでお読みいただきましてありがとうございます。

……もう少し続くのぢゃ。

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