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私鉄沿線恋愛専科 〜幼なじみをくっつけたいけど、どちらもいじっぱりで困ってます〜  作者: 御子柴 流歌
12月篇

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12月篇第8話: 幼なじみをくっつけたいけど、どちらもいじっぱりで困ってます


 突然、階段を降りる足がうまく動かなくなったところまでは、何となく覚えている。


 あ、と声を出す間もなく自分の身体が浮いたような感覚は、それよりもさらに薄らとした記憶の中。


 だから。


 今のこの状況を理解した瞬間、今度は全身が動かなくなった。


 視線だけゆっくりと動かしてユウイチの顔を見る――いや、見れない。


 恥ずかしい――。


 ――いや、なんで?


 何で急に恥ずかしいなんて思うの、私?


 こんなの、絶対おかしい。


 がんばって視線を動かして改めてユウイチの顔を見ると、ほんのりと赤い。

 りんごかさくらんぼ。

 そんな感じの赤さ。


 そして、目が合う。


 顔の赤さが増す。


 これはたぶん、私も同じなんだろう。


 っていうか、絶対そうだ。

 私をチラチラと見て、また顔を赤くするユウイチ。

 恥ずかしがっている姿を見て、自分も恥ずかしがっているパターンだ。


 だったら、それは私も同じということ。


 ――ヤバい。これはマズい。どうしよう。


 きっと、身体を離せばいいんだろうけど、なぜかそれもできない。



 っていうか。


 したくなかった。





「ほらほらー、エリカちゃんとシュウスケくんもー。あっちのふたり、超イイ雰囲気じゃん? ……って、あれ……?」


「ちょ。ちょっと、なんでそこで幼なじみふたりが唖然としてんの?」


「いや、そんなこと、……言われても、さ」


「いやいや、まさかそんな。……いやいやいや」



 何か外野が言っているらしい。

 エリカとシュウスケくんの困惑した声が聞こえるけれど、それは私も、そしてきっとユウイチも同じじゃないかな。



「え? その反応って、どういうこと? あれ?」



 それで、アズサちゃんがさらに混乱しているようで、彼女の口から出てくる言葉が全部疑問符付きになっている。

 ちょっと面白い。

 だんだん冷静になってきているのかもしれない。



「こっちのふたりって、付き合ってるんじゃなかったの?」


「……違うと思ってた、けど。……うーん」


「はぁ!?」


「えっ!?」


「あれ。そうなのか」


「マジで? ……いや、俺に言わせりゃどっちも付き合ってるモンだと思ってたけど」



 エリカの反応に、四者四様なリアクション。

 リアクションがなかったケイコは、呆然と口を開けているだけだった。

 アズサちゃんとマナちゃんは廊下に響き渡るくらいの声で驚くし、ジュンイチくんはある意味予想通りの静かな反応だけど一応は驚いているみたいだし。

 ハヤトくんは――何だか読みづらい人だなぁ。



「いやいや、待って待って! 私は付き合ってると思ってたんだよ!? あのビデオ通話の時から!」



 言われて、その光景を思い出してみる。

 そういえば、アズサちゃんは私たちが付き合ってるのかどうか訊こうとしていたけれど、それをユウイチが遮るような感じになっていたような気がしてきた。

 何かしらの反応すらしていないはずだったけど、アズサちゃんの中では結論が出ていたのだろう。


 ――そっか。


 他の人からはそういう風に見てもらえていたんだ、私たちって。


 でも、やっぱり。

 いざそういうことを言われて、それを実際に自分の耳に入れたときって、やっぱり恥ずかしい。


 だけど、それでも、嬉しいって思えるのは。


 ――そういうことなのかしら。


 もう一度ユウイチを窺ってみる。

 嫌な顔なんてされていないだろうか。

 困った顔をしていないだろうか。



「……ユウイチ?」


「ん?」



 そんなことを思ってみたけれど、余計な心配だったみたい。


 少し苦笑い気味だったけれど、『優一』の名前のとおりに優しい顔をしていた。

 きっと苦笑いは周りで混乱している皆に向けてのモノで、優しい笑顔は私に向けてのモノだと思っても、いいのかな。



「どしたの?」


「いや……、いろいろ言われてるなぁって思って、さ」


「そだね」



 ユウイチの苦笑いに似たような笑みを返してみた。

 ユウイチは一瞬だけ視線を外して、まだ何かを言い合っているようなあの子たちがいる方向を見た。



 そして。



「……え?」



 抱き寄せられた。


 わずかに見える彼の顔は思った以上に真剣で、



「……どしたの? 急に、ってこともないけど」


「ん。ちょっと、何か……、こうしたくなった」


「中てられた?」


「かもしれない」



 少しだけ深呼吸する。

 あたたかいユウイチの匂い、こんなにほっとするものだったっけ。



「イヤじゃないか?」


「全然。……もしかしたら、ずっとこうされたかったのかもしれない、ってくらい」



 そっか、と声にならないような声。

 ユウイチの笑ったような気配がくすぐったかった。



「ねえ、あの子たちってほんとに付き合ってないの?」


「……たぶん、まだのはずなんだよ。だって俺らでユウイチたちを」


「あ! バカ! シュウスケ、なんで言っちゃうの!」


「あ、ヤベ……」



 ――んん?


 エリカの慌てた声に、シュウスケくんの完全に失敗したときの声が重なった。


 まだのはず、とはどういうことだろうか。

『ユウイチたちを』とまで言ったところで口を滑らせた扱いをされて、さらに口止めをされなくてはいけないような内容のことを企てていたということとは。


 ――考えるまでもなかった。



「ねえ、今の聴いた?」


「そりゃもう」



 ユウイチも完全に悟っているみたいで、ちょっとだけ見つめ合って、同時に笑う。



「……結局、僕らってさ」


「やっぱり4人で幼なじみってことなのね」


「考えることはやっぱり同じってことなんだな」



 ユウイチはため息交じりの苦笑いだけど、この状況をしっかりと楽しんでいるように見える。

 その顔にどうしようもなく安心してしまって、自分の頬をユウイチの胸元に押しつけてみる。



「なんだよ」


「なんでもない」


「……よしよし」



 そういう声はいつもより優しい。

 頭も撫でられる。

 ほっとする。

 カラダの余計な力が抜けていく感じがした。



「……なんでもないけど、そろそろあの子たちに言った方がいいかもね」


「いろいろ訊きたいこともあるしな」



 見つめ合って互いに肯いて、尋問の準備を整えた。









「……やっぱりそういうことだったか」


「なーるほどねー……」



 ユウイチの呆れたような声に自分の声を重ねる。


 玄関ホールの片隅、人は多いけれど人の通りは少ないところへ移動してきた。

 ここなら大人数で話していても邪魔にはならない。


 結論から言えば、私たちと同じように、エリカとシュウスケくんも私たちをくっつけようと数ヶ月前から画策していた、とのこと。

 クリスマスまでになんとかしようと思っていたものの、とくに何のアイディアも思いつかず今日を迎えたところまで、私たちとほぼいっしょだった。


 なにそれ。



「ってことは、ルミたちも?」


「そうよ。6月くらいから」


「じゃあ、ルミたちの方がちょっと早かったのね……」



 げんなりとするエリカ。

 ――悪いけど、その反応をしたいのはこっちもだからね?



「いつくらいに気付いたんだよ?」


「いや、正直気付かなかった。僕らが『シュウたち、もしかしたら付き合い始めたかな』って思ったのは、先々月くらいかな」


「そこは同じくらいなのかよ……」



 同じように肩を落とすシュウスケくん。

 鏡で映したようにユウイチもくったりとした。



「……話を聴いてりゃ、お前らって、ホント幼なじみだな」


「こっちがびっくりするくらいだよね」



 ジュンイチくんとアズサちゃんも呆れたような、でもすこし驚いた様な顔をしている。

 結局のところユウイチのクラスメイトであるこの4人、とくにジュンイチくんとアズサちゃんが、ある意味ではいちばんのキューピッド役だったかもしれない。


 でもそれって、今まで私たちが互いに半年間画策してきたのは何だったんだろう、的な心境にならないわけではなかった。

 お互いがお互いに知りすぎていたからこそ、こういうことになったのかもしれないけど、最後の一押しが全員力不足だったのかもしれない。



「そういえばさ」



 マナちゃんがにやりとした笑みをこちらに向けてくる。 

 どう見ても何かを企んでいる顔だ。

 嫌な予感しかしない。



「このあと、講堂の方で『未成年の大主張』とかいうコーナーがあるらしいんだけどー」


「ん? なにそのテレビ番組的なタイトル」



 ――あ、それは。



「あれ? ハヤト、チェックしてなかったの? 中身はハヤトの想像通り、っていうか、まったく同じようなことするみたいなんだけど」



 言いたいことを、大勢の前で叫ぶというアレ。

 この企画は在校生だけではなく、本当に飛び入りで誰でも参加できるという企画。

 10年くらいは続いているくらいに毎年盛況になる。



「ウワサによるとー。この企画はぁ、毎年ぃ、告白コーナーがあるらしいのよねえ」



 ほら、来た。

 正しくはそういう枠があるわけではないのだけど、主張ということで、毎年そういう人が場の空気に圧されて出てくるという話。

 その辺も番組の企画に似通っていた。



「へえ……。それはおもしろそうじゃないか」


「あ! ……あー、残念。私たち、その時間帯はコンサートホールの方で吹奏楽部の定期演奏会なんだよねー」


「ルミちゃん、今わりと安心したような声だったよね?」


「きのせいじゃないかな」



 危なかった。

 今年はその企画と定期演奏会がモノの見事に重なっていた。

 にんまりとした笑いを引っ込めて一転して不満げな顔を作るハヤトくんとマナちゃんこそ、それに参加してもらいたいところだけど。



「じゃー、代わりにここで告ってもらえばいいや。私はそれで満足だしー」


「……は?」


「あ、私もそれでいいや」


「え」



 アズサちゃんの謎提案に、さらりと乗っかるマナちゃん。

 

 わけがわからないけれど。


 チラッと横を見れば、予想通りに、ユウイチもこちらを見下ろしていた。

 口元あたりが『どうする?』と訊いてきているように見えた。



「逃げられると思う?」


「……ムリだよなぁ」


「……いいの?」


「ルミさえ良ければ」



 その言い方は、どのあたりに掛かっているのだろう。


 ――でも。



「じゃあ、……言ってほしい」


「……ずっと好きだよ」


「私も、ずっと好きよ」



 囃し立てる声。

 雰囲気もなにもあったもんじゃない。

 恥ずかしさは何処かへ飛んだ。

 思わず苦笑いすると、やっぱりユウイチも同じだった。

 ある意味、私たちには丁度良いのかも知れないけれど。



「……ほら。アンタたちも言いなさいよ」



 アズサちゃんたちに紛れて喜んでいるところ悪いけれど、私たちの本懐はコレじゃないから。



「……ずっと好きだよ」


「私も、ずっと好きよ」


「同じ台詞にすんなよ、芸が無いな」


「そうだそうだー」



 今度は文句が飛んだ。

 当然よ。パクりなんて許さないんだから。



「なるほどな」



 ハヤトくんが何かを理解しきったような顔をした。



「結局お前らは、4人ともいじっぱりだったってわけか」


「そんなこと無いよっ!」「そんなこと無いっ!」

「んなわけあるか!」「そんなわけあるか!」



 ――あ。



「いやいや、どの口が言いますかね」



 呆れたようなジュンイチくんの台詞に、私たちは顔を赤くするしかなかった。




 ――あ、これは意外と玄関ホールが寒かった所為だからね!





ここまでお読みいただきましてありがとうございました!



ということで、サブタイトルの伏線回収です。

そういうことです。察しのいいハヤトくんありがとう。

このオチを付けたかったのだ、私は。


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