12月篇第6話: ダブルデートに圧倒されて困ってます
ユウイチを呼ぶ声がふたつほど。
「ん?」と小さく首をひねって振り返ると、一歩後ずさった。
目がまんまるだ。
「え? ハヤト? ジュンイチ?」
「おう、ハヤトだ」
「ジュンイチだぞ」
「そして、アズサとー?」
「マナでーす」
戦隊ヒーローか何かみたいに、綺麗な流れの自己紹介だった。
というか女の子ふたりはきっちりカワイイ感じのポーズを取るあたり、随分と明るい子たちだった。
――あれ?
もしかして、この4人って?
「……あ! もしかして、見学旅行のときにビデオ通話で話した人たち?」
「え? あ、ほんとだ!」
思わず第一声目が大きくなってしまったが、エリカがそれ以上に大きな声を出す。
それにあちらの4人も反応して、一気に笑顔になった。
「え? わー! すごい、みんな居るねえ。よかった、探す手間省けたね」と、マナちゃん。
「すっごい、初めて会ったはずなのに、全然はじめましてな感じがしない!」
「……そりゃそうだわな」
「なんか、いろんな理由が重なってそうだしな」
そしてハイテンションなアズサちゃんに、冷静なツッコミを入れるジュンイチくんとハヤトくんだった。
「君らかぁ」
「お、モモちゃんだ!」
「シュウちゃんじゃん」
「……覚えてたのかよ、その呼び方。てっきり忘れてると思ったのに」
「そりゃそうだろ、名付け親が忘れてたら意味ないじゃんか」
「それにしても、思ってたよりスタイル良いなぁモモちゃん」
あのときの通話が一瞬でよみがえってくるくらいに、あのままの4人。
あるがままの4人。
何だか、ものすごく、楽しい。
「あ……」
そして、思わず小さく声が漏れた。
アズサちゃんとジュンイチくんは、しっかりと手をつないでいた。
いわゆる『恋人つなぎ』というヤツで。
マナちゃんとハヤトくんの方は、手こそつないでいないけれど、さりげなくハヤトくんはマナちゃんをエスコートするような立ち方と立ち位置。
「……イイなぁ」
ああいう雰囲気に憧れてしまうのは、きっとおかしなことじゃないと思う。
ひとりで思う分にはとくに問題も無いと思う。
「ねえ、ルミ」
「なによ」
そういえば、ケイコはさっきから無言だった。
あまりにも静かだったから、とっくにどこかへ行ってしまったモノかと思っていたけれど。
――とすると、少し放置しちゃってたのだろうか。
「あ、ごめんケイコ。無視してて」
「え? いや別に」
「ん?」
なんとなく話がモゴモゴとしていると思えば。
ケイコの右手には爪楊枝、左手にはたこ焼きのパック。
そのパックから大きめのひとつを口の中に放り込むところだった。
いつの間に買ってきたのやら。
ああ、そういえば、この下のフロアは縁日みたいなコーナーになっていたっけ。
連日暦通りに寒いのもあって、あったかい食べ物の屋台は大盛況だった。
「なんか、謝って損した」
「いやいや。ダブルデートを2セット見せつけられた独り身に、労りの気持ちくらいあってもいいじゃない?」
「知らないわよ、そんなの」
あちらの4人はそうだろうけど。
そういうのではない。
まだ。
私たちは。
「それにしても、やっぱりそっちもいっしょなんだなぁ」
「仲良きことは良きこと哉」
ジュンイチくんとハヤトくんは満面の笑みで、ユウイチを肘で小突いている。
楽しそうというか、愉しそうというか。完全にユウイチをイジりに来てる雰囲気のパターン。
通話の時にも薄らと感じていたけれど、月雁高校ではユウイチはわりとイジられ気味のキャラクターなのかしら。
とくにハヤトくんの方はノリも少し軽そうなこともあって、中学生のじゃれ合いみたいな感じに見える。
シュウスケくんとはまたちょっと違う雰囲気。
「何、達観した感じ出しちゃってるんだよ」
「バレたか」
「バレるも何も。丸出しじゃねーかよ」
不満そうな唇。
「で? お前らは何で?」
「実はさ……」
「私たちが行きたいって言ったんだよー」
ジュンイチくんの腕を引きつつ、さらにマナちゃんも引っ張りながら、アズサちゃんが元気に言う。
そのまま挙手でもしそうな勢いだったけど、彼氏と幼なじみの腕をホールドする方を優先したようだ。
「紫藤くんの幼なじみちゃんたちに会いたくって。ねー」
「ねー」
ふたりは顔を見合わせて、にっこり笑顔。
「実は、探し回る覚悟もしてたんだけどさ」
「ほら、何組なのかとかって全然話してなかったしさ」
「……だったら訊いてくれりゃ良かったのに。無鉄砲というか、行き当たりばったりっていうか。相変わらずだな」
呆れた様子のユウイチ。ちょっと気持ちはわかる。
アグレッシブさは、ちょっと見習えないレベルかもしれない。
――そもそも、見習っちゃいけないのかもしれない。
「それが、ねえ?」
「みーんな忘れてたんだよなぁ。見学旅行で全部吹っ飛んだ、っつーか」
「いや。忘れんなよ」
なんとなくゆるーい雰囲気。
アズサちゃんがジュンイチくんの腕に抱きつきながら先を促すと、あっけらかんと彼が後を継いだ。
ユウイチのツッコミも何処吹く風。
ヘンにかっこつけようとしているわけではないのに、ビシッと決まっているその感じ。
少しだけ照れたような顔をしつつも、彼女の髪を優しく撫でている姿には、純粋に愛が感じられて。
いやもう。
お似合いですね、としか。
「アンタたち、あの子らに負けてるわよ?」
「勝ち負けとか無いから」
ケイコがねちねちと突いてくるのをなんとか回避――できているのだろうか。
ちょっと自信が無くなってくる。ケイコはまったく引く素振りも見せていないが、案外あっさりと私から興味を無くしていた。
「このあと何か予定でも……」
「ちょっと」
くいくいっと軽くジュンイチくんの腕を引くアズサちゃん。
「ちょっとくらい気を利かせてあげなきゃダメじゃん?」
「それもそうか」
「……何の話だよ」
ユウイチはとても曖昧な表情だ。
ジュンイチくんとアズサちゃんが何の屈託もなく笑いかけるものだから、余計に表情が読めなくなった。曇ったわけでもないし、かと行って晴れ渡ったようなものでもない。
何を思っているのか、わからなかった。
「まぁ、いいさ。……おいハヤト。そろそろ行くぞ?」
「あれ? ……ああ、そうだな」
結局みんなに気を遣わせてしまった。
でも残念なことに、こちらには何も作戦がないという事実。
せめて、4人にはウチの学祭を楽しんでいって欲しいと思わずにはいられなかった。
大きく手を振りながら去って行く月雁高校の幼なじみたちを見送ると、急に力が抜けたようになってしまった。
膝に力が入らないような、少し怠いような感じ。
別に体調が悪いとかではないはずだけど。
ちょっと、あの子たちに圧されすぎた所為かもしれない。
思わず苦笑い。
「ルミ、どうした?」
「ん? ううん、なんでもないよ」
「いや、でもなんか……」
「だいじょうぶだから」
心配そうなユウイチ。
ちょっとの違いとか、そういうことはやっぱりごまかせない。
それは私も同じだ。
ユウイチの小さい変化は案外解ってしまう。
折角の学校祭なのに、変なところで気を遣わせたくはない。
不意に思い出したのは、なぜか今年の夏。月雁高校の学校祭。
できるだけ、笑顔で。
たとえるなら、そう。
アズサちゃんとか、マナちゃんとか。
エリカみたいな。
「……ん。わかった。でも、ムリはすんなよ」
「ありがと」
あまり効果はなかったかもしれない。
心配そうな顔は完全に元通りにはなってくれなかった。
「なんか、喉渇かないか? ちょっと話しすぎたし、お昼前だし」
「言われてみれば」
「……そうとなれば」
ふわりと、腰辺りに触れる、ユウイチの腕。
「え?」
私の小さなつぶやきは喧噪で消えた。
そのままエスコートされるようにして、何かを話あっていたエリカとシュウスケくんのところへ向かった。
――何なのよ、まったく。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
天使のような、悪魔のような、そんな4人の襲来です。
ユウイチたちはどう思っているか不明ですけど、彼らはきっと天使です。




