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私鉄沿線恋愛専科 〜幼なじみをくっつけたいけど、どちらもいじっぱりで困ってます〜  作者: 御子柴 流歌
12月篇

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12月篇第5話: 学祭2日目、どうにも落ち着かなくて困ってます


 無機質。

 無情。

 無表情なアラーム。


 あるのは自分の眠気だけ。


 ここまで寝起きが良くないのは、いつ以来だろうか。


 時刻は7時半。

 休みの日にしてはとても早く、朝から用事があるにしてはとても遅い。

 脳細胞の回転を上げるべく、ベッドの上で腹筋運動を10回ほど軽くこなして階下へと向かった。



「おはよ」


「おはよう。……んー、何とも微妙な時間ね。るーちゃんたち待ってるんじゃないの?」


「……いや、たぶん大丈夫だと思うわ」



 母さんには適当な答えを返して、そのままシャワーを浴びに風呂場へ直行。

 母さんはいつまで経ってもルミのことは『るーちゃん』呼びのままだ。

 自分は――どうだったかな。

 あまり思い出せない。



 それよりも、どうにも――。


 ――軽い寝汗と重い雑念を追い払うために、アタマからシャワーを浴びた。







「ユウくんがいちばんじゃないとか、珍しいね」


「なに。昨夜眠れなかったとか?」


「……まぁ、そんなもんだ」



 完全な図星を突かれて、視線を逸らさずにはいられない。

 いつもと変わらない調子のルミとエリカちゃんには、ある意味助けられつつ、別の意味ではダメ押しをされたような気分になった。


 昨日から、こうだ。


 あのあとルミたちに引っ張られて教室を飛び出した僕らは、そのままの状態で1日目の桜雲祭(おううんさい)を歩き回ることになった。

 クラスの当番とかいいのだろうかと訊けば、僕らが着いたタイミングあたりで交代になる予定だったという。

 結果として、あのとき教室に行ったのはいい頃合いだったのかもしれない。


 それはともかくとして。


 パンフレットを見てようやく気付いた、今年の桜雲祭のテーマである『和』。

 そりゃあ、ルミもエリカちゃんも、その同級生達も、先輩も後輩も。

 桜雲の生徒みんなが和装になっているのは当然というヤツだった。


 ――それを解っていたとしても、十二単を着ている子が居たのには度肝を抜かれたが。


 とにかく、和装女子――ルミの場合は和装メガネ女子。

 曰く、『大正文学娘』というコンセプトらしい――と、女子校の学校祭を練り歩いたわけだ。

 シュウスケとエリカちゃんをチラッと見ていたどこぞの男子学生が、ものすごい羨望の眼差しを向けながら猛烈に深いため息をついていたのが印象に残っていたりする。


 それと、もうひとつ。

 校舎から見える広場のような空間にあったクリスマスツリーとこの和装はアンバランスだったことも負けず劣らず強烈にインパクトがあった。



「で。やっぱりシュウスケは最後、っと」


「定番過ぎてかける言葉もないな」



 アイツは朝に弱いわけじゃない。

 ベッドから出るための気力が、他の人よりちょっと少ないだけだ。

 ――と、慰めにもならないことを思っておいた。


 そういえば、今日は私服でいいんだな。


 そりゃそうか。

 家からあの恰好だったら悪目立ちもいいところだ。



「……ねえ」


「お、おう」


「……なによ」


「なんでもないよ」



 いつの間にか真横にあったルミの顔。

 少したじろぐ理由が、自分にはわからない。



「ねえ。なんで昨日ちょっと早く来たのよ?」


「それは……シュウスケに訊いてくれ」


「え?」



 何でよ、と言う文句は聞かないフリをして、ルミから視線を外した。


 悪いな、シュウスケ。

 来るのが遅い方が悪いんだからな。









 日曜日の車内のエアコンの効きはいつも通りだったはずだった。

 乗客もいつもと同じか、やや少ないくらいで余裕たっぷり。

 それなのに、やたらと右半身が熱く感じていたせいで、降りたホームの空気の冷たさが妙に気持ちよかった。


 弓張公園を通りながら高校へと向かったときもそうだが、今日も周囲には年の近そうな子たちが多く居る。

 とはいえ、昨日と少し違うのは、中学生の女の子然とした子の姿が多いことだろうか。



「今日は何か面白そうなイベントみたいなのはあるのか?」



 シュウスケがエリカちゃんをのぞき込みながら訊いた。



「メインは部活の発表会みたいな感じだよね」


「そだね。展示だけでいいところとかは昨日のうちに終わらせてるし。講堂とか体育館とかは演劇とかそういう感じのやってる。……あとは、トークショー的なのもあったっけ?」



 桜雲女子高で有名な部活と言えば、吹奏楽部と演劇部。

 あとは、バレーボール部と競技カルタ部も強豪だったはずだ。

 学園祭でバレーボール部などはそういう催事をすることはないだろうけども。



 ――ところで。



「トークショー?」


「……随分マヌケな声ね」


「うっさいな」



 裏返る直前みたいな声を出してしまったのを、見逃してくれるほどルミは優しくなかった。



「タレントさんとか呼んでたりするヤツ?」


「そうそう。ウチの卒業生なんだって。私は、これ見て初めて知ったんだけど」



 言いつつ、ルミはカバンのいちばん外側に入れていたパンフレットを渡してきた。

 そこにはいろんなメディアで見たことのあるアイドルと声優さん。

 星宮(ほしのみや)近郊の出身だということはそこそこ有名な話だったが、桜雲の卒業生であることは知らなかった。



「へえ。……さすが有名私立」



 パンフレット、返却。



「吹奏楽部だけは、発表場所が校内じゃないのよね」


「え? そうなの?」


「……あ、そうか。去年は別のところ見てたりしてたからそもそも話にもなってなかったっけ。ほら。あそこ」



 そう言ってルミは斜め前方を指差した。

 校舎から見える先にあるのは大きな池と、その奥にあるさらに大きな建物。



「へえ、あそこでやるのか?」


「そ。しかも最後の最後、後夜祭の直前くらいの時間でね」


「……すごいな。あれってたしか、海外のオーケストラとかもやったりするとこだよな」



 シドニーのオペラハウスもかくや、という豪華な雰囲気。

 世界的にもトップクラスの設備だというコンサートホールだ。



「しかもクリスマスにか。強豪なのは聞いたことあったけど、そんな日にあそこでできるのか、桜雲女子の吹部って」


「あれ? 意外に興味あり?」


「うーん、悪くはないよね」



 ああいうコンサートホールなんて、今までの人生で入ったことがなければ、これからの人生でも入るかどうか微妙なラインだ。

 ちょっと、興味はある。



「でも、見れるのか? すっごい人気あるって聞いたことあるけど」


「実は、吹部の子からチケットもらってて。しかも4枚も」


「マジで?」



 太っ腹すぎる、ルミの友人さんとやら。



「それなら、行きたいなぁ」


「おっけ。……ふたりはどう?」


「なにがー?」「ん?」



 まぁ、そりゃ聞いてないだろう。

 前を歩くふたりの距離が、いつもより妙に近い。



 ――ん?



「……ごめん、何でもないわ」


「そう?」



 不思議そうな顔をしつつも再びシュウスケと空気を作り始めたエリカちゃんを見届けるや、ルミが勢いよくこちらに顔を向けてきた。

 あまりの勢いに少しビビる。



「今の、見てた?」


「あの距離感は、さすがに」



 だよね、というように小さく頷き、ルミは再びエリカちゃんとシュウスケを見つめる。

 手こそつないでいないものの、あれは四半期に1回でもあるかないかわからないような距離感だ。

 しかも、ああいう状態で誰かに声を掛けられると、確実に慌てて距離を取るのに。


 今は、それが全くなかった。

 それどころか、また同じくらいにくっついて話を続けている。



「怪しいわね」


「そうだな」


「でも、これってチャンスよね」


「明らかにな」



 もう一押し、というところかもしれない。



「何か作戦はあるのか?」


「ユウイチは?」


「……あったら訊かないだろ」


「それもそうね」



 同時に小さくため息をついた。













「あ、居たっ!」



 とくにあてもなく目に付いた教室や展示をふらふらと見ていたところで、不意に声を掛けられた。



「ケイコじゃん」


「同じクラスなのよ」



 エリカちゃんが応える裏でルミが説明をくれた。



「おっと、ごめーん。デート中だったよねー? ……ってか学祭で2日連続ダブルデートって、ヤるわねアンタたち」


「違う」「違う」



 おお、ハモった。



「……ん? よく考えたら、この時間から居るって事は。まさか同伴?」


「それも違う」「それも違う」




 その言い方が成り立つなら毎朝同伴じゃないか。


 ――っていうか、往来で同伴言うな。



「へえ? ダブルデートは否定しないんだ?」


「な……!」


「おー? これは、ルミと同じくらいに与しやすそうな。さすがカレシ」


「だからー。昨日も言ったけどカレシじゃないって」


「……と、嫁はそう言っておりますが?」


「嫁ではないな」



 なるべくクール目に。



「……と、旦那はそう言っておりますが?」


「旦那じゃないわよ」


「むぅ」



 不満げに口を尖らせるケイコちゃんとやら。


 何だかめんどくさい人に絡まれてしまったような気がする。


 ――どうしたものかな。



「あれ? ユウイチじゃん」


「ん? あ、ホントだ」



 ――これは、天使なのか。


 ――それとも、悪魔だろうか。


 さらに、今度は聞き覚えのある声が後ろから聞こえてきた。




ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。

いよいよ、です。

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