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私鉄沿線恋愛専科 〜幼なじみをくっつけたいけど、どちらもいじっぱりで困ってます〜  作者: 御子柴 流歌
12月篇

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12月篇第4話: 学祭初日から波乱だらけで困ってます


 大きな花火の音が冬の星宮(ほしのみや)の街に響いた。

 そんなににぎやかにしなくてもいいのに、なんてことを今年の学園祭には思ってしまう。


 だって、開場すると同時に、ものすごい人の波がこっちの方に来ているのだから。



「はじまったねえ」


「……そうねえ」


「そうだね」


「なによ、ふたりとも。もうちょっとテンション上げないの?」



 何でよ、と視線だけを、私とエリカに挟まれたケイコへと向ける。

 ケイコ越しに見えるエリカも、なんだか私と似たような顔をしているみたいだった。

 じっとり。

 湿度の高い夏の夜みたいな。


 それでもケイコはそんな私たちの視線なんか、まったくもってお構いなし。


 なんでしょうね。この図太さというか。

 ――無神経、ではないんだけど。



「むしろ私は、なんでそんなにハイテンションなのか訊きたいわね」


「そりゃー、ねえ。こう見えて和装大好きですから、私」



 憧れてたんだよねー、なんて言いながらひらりと1回転。

 とてもそれだけが理由だとは思えないんだけど、追求するにもハイカロリーっぽいので一旦中断しておくことにした。


 ――和装。


 我が校の学園祭である桜雲祭は必ず全校的に使用される大きなテーマというかモチーフのようなものがあり、そこにさらに付随するように小テーマが決められている。

 大テーマは3年周期で切り替わっていくシステムになっていて、今年の桜雲祭の大テーマは『和』だった。


 それで、和装。



「私も、嫌いじゃないけどね」


「私は着慣れていなさすぎて恥ずかしさが勝ってる」


「そこは否定しない」



 ぽつりとこぼしながら、自分の袖口を気にするエリカ。

 エリカはいわゆる『ハイカラ娘』風の衣装。

 青系で統一したのは自分の名字である『空風(そらかぜ)』にちなんだ設定だったりする。

 それに強引に乗せられるカタチで、私も自分の苗字にちなんだ桔梗色でコーディネートされている。



「ケイコのは、……なんか違わない?」


「え? そんなことないっしょ」


「いや、どうかな」



 どうだろう。ミニスカート風の着物って、どうだろう。

 似合ってはいる。

 似合ってはいるのだけれど、テーマ的にものすごく際どいところを突いてきてるなぁ、と思うわけで。


 ――だったら、モダンガールの方がまだマシだったのでは?


 とか考えるけれど、いずれにしても私のよりは良いだろう。

 どんなのだって。



「私的には、ルミのがすっごい好きなんだけど」


「えー……」


「とくに、そのメガネとか」


「やめて」


「なんでよぉ。私的には、ギャップ萌え的な感じでめっちゃそそるんだけど」



 身の危険を感じ、ちょっとだけケイコから距離を取った。


 先月辺りに、どうしようもなく目の調子が良くない日があって、2時間目が終わったところでメガネに切り替えたということがあった。

 そうしたら、妙にクラスメイトから好評になり、そのまま『学祭ではメガネ少女になれ』という謎のミッションを課せられた。

 最終的に私は、『大正文学娘』とかいう、これまた謎のコンセプトで衣装や小道具を仕立てられる羽目になった。


 ここ数年は家の中でしかしてないメガネを家の外で、しかも多数の人の目にさらされる場所で使わなくちゃいけないという――。

 ――なんだろう。

 屈辱?

 それは言い過ぎかもしれないけど、もはや辱めのような感じ。

 素の自分をさらけ出している様な感じがして、全然落ち着かないし、気分なんて上がるはずがない。



「まぁ、今更どうこう言ったところでアレでしょ。当日なんだし」


「……チッ」


「ちょっとエリカさん。今、この娘舌打ちしたんだけど」


「……割と気持ちわかるから、私は責めない」



 ありがとう、エリカ。

 察してくれて。


 ケイコも――ちょっと強引だったけれど――諦めてくれたようで、それ以降の追求はしてこなかった。


 実際、今更どうしたところで何も意味はない。


 だったら、とりあえず午前中の店番くらいはがんばっておこう。


 ユウイチたちが来る前に着替えておきたいけど――。







 ――なんてことを思っていたのに。



「さて、と。ここらへんのはずだけど」



 ――どうして。



「いやー、やっぱ迷うな私立校は」


「何を言うか。シュウだって私立校だろうが」


「それとこれは別」



 ――このふたりが、もうここに来ているの?




「ねえ、ルミ?」


「……どしたの?」



 声がかすれた。



「今の声って、さ……」


「うん、聞き間違いじゃなければたぶん……」



 聞き慣れすぎた声。

 あのふたりに間違いないはず。


 でも、まだ昼休憩の時間帯ではない。

 余裕があるどころじゃない。

 私たちが想定していたよりも1時間くらいは早い気がする。



「……ああ、そっか」


「ん?」


「ユウイチだわ、犯人は。何かの用事があるときは必ずかなり先乗りするもの」


「言われてみれば……」



 待ち合わせなんかをしても、必ず一番乗りはユウイチ。

 普段遊ぶときだって、学校での行事に関係することだって、いつだってそう。

 きっと、今回だってそうに決まってる。


 これはもう、完全なる油断。

 自分の衣装やら役回りやら、そのほかいろいろな事に完全に気を取られていた証拠だった。



「んー? ふたりとも何話してんのよ?」


「べっつにー。ねえ、エリカ?」


「うん、な、なんでもないわよ」



 そこで噛んだら駄目でしょ、エリカ。



「ふーん。まぁ、いいけどさぁ……っていうか、何か廊下の方うるさくない?」



 少しだけ眉間に皺を刻んで、エリカが訝しげに訊いてきた。


 ――いや、まぁ。うん。

 理由というか原因というか、それは何となくわかってしまっているのだけども。


 がやがやとした感じの騒々しさではなく、きゃあきゃあという喚声の類い。

 黄色い声ってこれかな、と思えるくらいの、お手本通りの喚声。


 きっとそろそろ、その元兇たちが。



「2名様、ご案内っ」



 妙に高い声で招き入れられて、さらに室内からも黄色い声で迎えられたのは、シュウスケくんとユウイチ。

 ふたりはちょっと困ったような顔をしながら、きょろきょろと周囲を見回していた。



「お、いたいた」



 シュウスケくんはさっそくエリカを見つけてコチラへ寄ってくる。

 ユウイチもくっついてきたが、その視線はふらふらとしたまま。


 ――これは、まさか。


 何て思っていたら、ばっちりと視線が交錯。


 そして、びっくりしたような顔。



「ちょっと」



 軽く袖口を引っ張り顔を寄せる。

 こうなればもう、開き直るだけ。

 小声で詰め寄る。



「一発で気が付かないとか、どういうことよ」


「いや、だって。メガネかけてるの見るの自体久々だし」


「それにしても、よ」


「いたた……」



 そのままほっぺたを軽くつねっておく。


 全く。

 幼なじみに、ユウイチに気付かれないのは。




 ――そう、納得がいかない。


 


 でも、頬を擦りながら、ちょっと申し訳なさそうな顔をしているところを見ると、一応反省はしているみたい。

 だったら、許してあげなくもないか。



「でも、どうしたの? 教えてた時間よりも早くない?」


「いや……。まぁ、ほら。それはいろいろと事情があってさ」



 ひどく歯切れが悪い。

 ここまでまごつくユウイチも珍しいような。



「事情って……」


「あ、いるいる!」


「ほんとだー!」


「うわ、カッコイイ!!」



 不意の大声に顔をそちらへと向ければ、大正ロマンなクラスメイトたちが勢いよく駆け寄ってきていた。

 先日私たちのスマホの写真フォルダにあったこのふたりの写真を見て、アイドルのファンか何かのようなテンションになっていた娘たちだ。



「え、な、何?」


「ちょ!?」



 慌てるふたり。ムリもない。


 あっという間にクラスメイトに囲まれてしまって、為す術無く和装娘たちに密着されている。

 困惑しすぎて鼻の下を伸ばす暇も無いらしい。

 勢いに圧されて、私たちから少し離れたところにまで押しやられている。



「『写真で見るよりも実際に見た方が』とか言われるのって、やっぱガチね」


「わかる、めっちゃわかるそれ」


「っていうか、マジで背高くない?」


「うんうん! ねえねえ、部活とかやってるでしょ? 何部?」


「……やばい、この僧帽筋舐めたい」



 それに引き換えテンションが上がりまくる子たち。

 ――ちょっと危険なところまで行っちゃってる子も混ざっているみたいだけど。


 どうしようかな、と思いつつエリカを見てみると、丁度こちらに視線を寄越してきたタイミングだった。

 私よりも困惑の色が濃そうだ。

 私とシュウスケくんを、ものすごいペースで交互に見てる。

 リスかなにか、小動物の動きみたいな感じ。



「えーっと? こっちの背の高いイケメンくんがエリカのカレシでー?」


「ちょっと! ち、違うってば!!」


「で? こっちのさわやか少年系な彼がルミの」


「は!?」



 ――もう、ダメだ。

 これ以上はマズい。

 マズいってレベルじゃない!



「行くよ、エリカ!」


「え!? あ、……おっけぃ!」



 察してくれたらしい。

 さすがはエリカ。


 ふたりで手をつなぐような勢いで、そのままあちらのふたりへ向かってダッシュ。



「……えっ!?」



 あまりの勢いにビビったらしく、シュウスケくんとユウイチを取り巻いていたクラスメイトたちはいっせいにふたりから離れた。


 ――隙アリ!



「ユウイチ、行くよ!」


「シュウスケも!」


「え? うわっ!?」


「お、おい!?」



 私とエリカは、元々この直後にお役御免になる予定だった。

 少々早い上がりになってしまうけど、それは明日とかにでも埋め合わせをすればいいだろうし、そもそもはあの子たちも悪いのだから大丈夫だろう。


 がっちりとユウイチの手をにぎって、そのまま教室の外へ。

 エリカもシュウスケくんを確保できているようだ。

 一安心。


 だけど、そんな安心も束の間だった。



「わぁ! なんか、駆け落ちみたい!」


「愛の逃避行!」



 ――言ってなさい。

 このあと何が起こったとしても、絶対謝ってなんてあげないんだから。






ここまでお読みいただきましてありがとうございます。


逃げたら逆効果では? と思いつつも、三十六計逃げるに如かずという言葉もあるので、

きっと正しいのでしょう。



ちなみに、ですが。

上半身の筋肉のつき方はシュウスケが勝ってますが、下半身側はユウイチの方がハリがある、っていう小ネタ設定があるのでよろしく。

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