12月篇第2話: クリスマスの予定が不安だらけで困ってます
「だったら、ひとつ相談があるんだけど」
「いいけど、なに? どしたの?」
朝の登校ルート、私鉄沿線。
エリカが小声で言ってくる。
何だろう。
話しづらいことだったりするのだろうか。
――シュウスケくんとのことだと、半分予想通り・半分想定外だったりするけれど。
「僕が聴いてて大丈夫なタイプのヤツ?」
「んー……」
ユウイチの疑問には、とても曖昧な返事――返事? 相鎚にもなっているのかよくわからない声を返した。
別にどっちでも構わないよ、と言っていそうな表情だけど、声はそうでもない感じ。
エリカにしては珍しい、ハッキリしない答え方だった。
その様子を察したユウイチは、そのまま歩く速度を速めてシュウスケくんの隣に並んだ。
「それで、どしたの?」
「ルミってさ、ユウイチくんに学祭のこととか話した?」
「ううん」
「そうなるよねー……」
「ってことはエリカも?」
頷きが返ってきた。
そりゃそうだ、って話。
ちょっと、今年のネタは――。
サプライズで黙っているのとはちょっと違う理由で、できれば当日まで秘密しておきたいモノだったりするわけで。
「ああ、そうだ。今日さ、帰りに本屋行かねえ?」
「全然いいよ。最近あんまり行ってなかったから丁度いいや」
「お? 俺、空気読んでる?」
「珍しくな」
「……うっせーやい」
男子ふたりは今日の予定を決めているらしい。
折角だし、私もちょっと動いてみようかしら。
○
ようやくの昼休み。
閉じた教科書をもう一度開いて、その陰で大あくびをしているエリカ。
――腋がお留守だぞ、と。
「眠そうねえ」
「ひぃやあ!?」
そっと指先で撫でてあげると、教室中に響き渡る悲鳴。
というか、嬌声。
集中していなかった証拠。
――まぁ、欠伸をしていた人が集中しているわけなんか無いか。
「ちょっと、やめてよ!」
「まぁまぁ。眠気は吹っ飛んだでしょ?」
「そんな実力行使いらないっ」
ぷいっとそっぽを向くエリカ。
「まぁまぁ。あとでカフェオレ奢ってあげるから」
「……甘いヤツね」
「はいはい」
――ここでシュウスケくんだったら『コドモか』とか溢しちゃうんだろうなぁ。
「おふたりさん、やっほーぃ」
「あ、ケイコ」
廊下から声がしたと思えばケイコ――緑川慶子。
去年同じクラスになって以来、今でも仲は良い。
――いろいろと面白い話を集めてくるのが大好きな娘だ。
こちらのプライベートな話題のお漏らしには注意が必要だけど、基本的にはよい子だ。
わりと扱いやすいし。
「なになに? またカレシとののろけ話でもしてたの?」
「ほんっとにさー……違うって言ってるっしょ?」
「いやいや。何をおっしゃいますやら」
呆れてものも言えないぜ、というような顔でエリカを見下ろすケイコ。
何かしらのイベントがあるごとに受けるガサ入れに耐えきれず、ちょこちょこと情報提供をしてしまっているせいで、最近の話題の振られ方はいつもこうだった。
――どうして『夫婦円満杓文字』の話を自分からしちゃったかなぁ。
まぁ、エリカが言わなくても私が言ってたから、展開としてはあんまり変わらなかったかも知れないけど。
後々のイジられ方が変わったかも知れないとは思うけれど。
ちょっと、ネタを投下してあげようかしら。
外堀を、埋めていくなら、今のうち。
「……待ち受けの壁紙、そんな写真にしてるくせに」
「そ、それはー……」
「え? なになに? どんなのにしてるのよ」
「だ、だめ!」
「あのねー。恋する乙女感たっぷりなヤツ」
「ルミ!?」
わかる、わかる。気持ちはわかるわよー。
大好きな俳優の画像と、シュウスケくんとユウイチの学祭のときの写真を、アプリ使って作ったお手製の待ち受け画像。
帰りの電車の中で、何だか一生懸命に作ってるなぁ、と思ってこっそりのぞき見たら、その画像。
ハートとか文字とかを入れなかったり、いちばん面積を割いているのが俳優さんだったりするのは、何かの意地だったりするのかしら。
「空風さーん、ちょっといい? 委員会の関係でちょっと手伝いしてほしかったんだけど、お昼ご飯とか大丈夫?」
「あ、はーい。だいじょうぶでーす」
廊下から再び声がしたと思えば、担任の小山田先生だった。
エリカが、ふう、と小さく息を吐いたのは見逃さない。
今はリリースして上げるけど、ね。
「……ってことだから、ゴメンね。ちょっと行ってくる」
「いってらっしゃーい」
「いてらー、お土産買ってきてねー」
「なんでよ、旅行かなんかじゃあるまいし」
ケイコの茶化しにため息を返して、小走りに出て行くエリカ。
何となくふたりで手を振って送り出し終わると、ケイコが勢いよくこちらに顔を向けてきた。
「で? エリカの待ち受けってどんなの?」
「これ」
――実は私も、エリカに同じパターンの画像を作ってもらっていたりする。
私の場合は俳優さんの画像は抜いてあるバージョンだけれど。
「ははー……、にゃるほろねー」
画像の中のエリカとシュウスケくんを交互に見て、絵に描いたようなニヤニヤ笑いを浮かべるケイコだった。
「なるほど、納得。たしかに恋する乙女感たっぷりだわ。っていうか、男前ね」
「でしょ?」
「……いやいやいや。『でしょ?』じゃないわよ」
「は?」
呆れ度合いをさらに増やした視線を、思い切りぶつけられた。
「なんでよ」
「エリカとその『彼』を晒してるのはいいんだけどさ。それはいいんだけどさ」
「何よ、まどろっこしいわね」
テレビの常套句じゃないんだから。
「こっちは?」
「……ん?」
ケイコが指差した先には、ユウイチ。
月雁高校の学校祭のときに撮った写真だった。
「っていうか、何勝手に他人の写真フォルダいじってるのよ」
「油断大敵」
「うるさいわねえ」
間違っていないだけにあまり強く出られない。
――でも、よりによって月雁祭最終日、浴衣を着ているときの写真を出してこなくてもいいじゃない。
「で? 誰?」
「それは私の幼なじみ」
「……What?」
何でそこで英語。
しかもなんでキレ気味なの。
「ルミ、アンタ全然エリカのこと言えないじゃん!」
「何でさ」
「しかも、こっちもイケメンだしっ!」
トーンが強まる。
――本懐はそっち?
「まぁでも、幼なじみかー。あーあ、『こっちの子分けて』って言おうとしたのに」
「『分けて』ってどういうことよ」
――あげないわよ。
「うん、だからそれは諦めるってば」
「なんでよ」
「いや待って待って、そこでその反応はおかしいっしょ」
「何の話してるのー?」
「エリカとルミのイケメン幼なじみの話」
「え!?」
「何系イケメン?」
「写真あんの?」
色恋沙汰の好きそうなクラスメイトも寄ってきた。
そして、ふと気づく。
私のスマホはまだケイコの手の中。
――終わった。
「ただいまー……って、何この状況。何があったの?」
「ごめん、エリカ」
「え? ……あああ!!?」
見せられている画面に気が付いたエリカの絶叫。
それに気が付いた皆は私とエリカに、妙に熱い視線を送ってくる。
「ねえねえ、このふたりって学祭に来るの?」
「え?」「え?」
エリカとリアクションが重なる。
「『え?』じゃなくてさ。アンタたちふたりがこのふたりンとこの学祭に行ってるんだから、来てくれないと割に合わないわよ?」
「割に合わないって……。何と比較してるのよ」
「あ? まさか狙ってるとか……?」
「警戒しないでよ。さすがにどっちも取ったりはしないわよー。……たぶんね」
そう言って、怪訝な顔をしたエリカにウインクをカマすケイコ。
口調通りに本気で言っているわけじゃないのは察する。
けれど、最後の台詞にはやっぱり何となく不安感が漂っていて、偶然にもエリカとしばらくの間見つめ合ってしまった。
ここまでお読みいただきましてありがとうございます。
事件発生の予兆的にはこっちの方がヤバそうですねえ。
乞うご期待。




