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私鉄沿線恋愛専科 〜幼なじみをくっつけたいけど、どちらもいじっぱりで困ってます〜  作者: 御子柴 流歌
10・11月篇

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10・11月篇第2話: 留守を託されてしまって困ってます


 翌日。

 私鉄沿線を3人で歩く。


 会話はいつもよりは少なめな気がしてしまう。



「ユウイチがいないのも久々な気がするな」


「そう……か。言われてみればたしかにそうかも」


「学校祭以来かしらね」



 日に日にぐったりしていったユウイチの姿を思い出してしまった。


 そして、何故か執事服姿もフラッシュバック。


 ――なんでよ。エリカじゃあるまいし。



「ってことは夏以来か。そりゃあ久々にも感じるわけだわな」


「アンタと違って朝練でちょっと早く行くってこともあんまりないもんね、ユウくんって」


「あんまりじゃなくて、無いらしいわよ?」



 ユウイチの話によれば、月雁高校の屋内施設を使う運動部は、基本的には放課後だけが活動時間として宛てられているとのこと。

 むしろ奨励されているのは朝学習だそうで。

 ――私にそれはムリね、さすがに。



「ユウくん情報はやっぱりルミね」


「なにその褒め方。何も出ないわよ?」


「あらら。ざーんねん」



 エリカは、ちろっと小さく舌を出した。



「ねえねえ、そんなルミに質問があるんだけどー」


「なによ」


「今ってユウくん何してるんだろ?」


「えー……?」



 なかなか難易度の高いことを。



「たしか始発使って空港に行く、とは言ってたけど……」



 今は7時15分くらい。

 始発電車は今私たちが向かっていく最寄り駅を朝5時に出発する。

 そこから1回の乗り換えを経て空港に向かうのだけど。



「だったら、ちょっと微妙なとこかもなぁ。手荷物検査は終わってると思うけど」


「詳しいわね」


「そりゃまぁ。去年とか、試合の応援で朝っぱらから飛行機乗せられたからな」



 さすが強豪校。大変そうだけど、すごいなぁ。



「……ご愁傷様。まぁ、どーせシュウスケのことだし、飛行機の中で爆睡でしょ」


「さすがだな。……思いっきり当てられてわりと腹立つけど」



 そういえば中学の修学旅行でも、シュウスケくんは移動中よく寝ていた。

 他の子達が結構いろんな話で盛り上がっていたはずだけど、そんな中でもお構いなしにぐっすりだったのを思い出す。



「だって単純だもん、アンタ」


「うっせえなぁ……」


「コラコラ、そこまでにしておきなさいよー」


「はーい」「へーい」




 ――あれ?


 拍子抜けするほどおとなしいんですけど。


 いつもだったら、もう2回くらいは言い合ってから、渋々な雰囲気を存分に出しつつ刀をしまう、みたいな流れがあるはずなのに。


 逆に、何だか怖いんですけど。


 この前ユウイチに言ったとおり、紫苑祭(しおんさい)の後――シュウスケくんのお友達、青木くんを追いかけていった後――で、何かがあったに違いない。

 少なくとも私は、そう考えているのだけど。


 それを訊くのは、どうにも気が進まないというか。


 私がわざわざ爆弾を投げつけるような必要もない。


 そんな気がしてしまっていた。



「ま、とりあえずメッセージでも送っておこーっと」


「なんて?」


「『おみやげ期待してるー』って」


「あ、じゃあそれ、俺の名前も添えといて」


「りょーかーい」



 のんきなことで。


 全然、構わないのだけどね。

 こっちとしてはラクだし。



「そういえばさー、ルミー?」


「なにー?」



 今度は何だろう。



「ユウくん、おみやげに何買ってくるとかって言ってた?」


「ぜんぜーん」


「え。アイツ、ルミちゃんにも言ってないの?」



 首を横に振ってシュウスケくんに答える。


 昨夜も寝る前に『気を付けなさいよ』的なメッセージを、ふんわりとお土産の中身を訊くような言葉を交ぜて送っておいたけど、何だか妙にハイテンションな動きをするスタンプが返ってきただけだった。

 完全にお任せムードにしたことを怒っているワケでは無いとは思うけれど、反応してこなかったのは意外だった。



「帰ってきてからのお楽しみ、ってことなんじゃないのかしらね?」


「自信満々だねー」


「じゃあ、期待しててイイんだろうな」



 信頼されているリアクションだった。





 それにしても気になるのは、昨日の朝のユウイチの台詞。



『留守は任せたからな』



「『任せた』って言われてもね」



 何なのよ、って話。


 結局そのあと何かを言い残すわけでもなかった。

 それこそ昨日は、どこかのタイミングでユウイチから何か反応があるかと思っていた。

 驚くほどに何もなかったので、こちらからメッセージを送信してみたら、スタンプ1つという話。

 拍子抜けにもほどがあった。


 せめて何か計画があるのなら、それを言ってから旅行に行くべきだと思うわけで。


 任せた、というのなら、それ相応の指令が必要だと思うわけで。


 ――そっちがそういう態度なら、こっちにも作戦のようなものはあるわけで。




「エリカー?」


「なーにー?」


「明日の夜さ、エリカのウチに泊まりに行っていい?」


「……へ?」



 見事なまでのキョトン顔。

 鳩が豆鉄砲を食ったような、って言われる顔だった。



「別に、全然イイと思うけど……。ってか、久々な感じするし、すっごい嬉しいけど。どしたの急に?」


「んー。ちょっとね。良いこと思いついちゃってねー」


「なによー。もったいぶらないでよー」


「いっしょにビデオ通話しようと思ってさー、ユウイチに」



 そう。


 これだ。


 こちらに何もネタを寄越してこないのなら、こちらからネタを徴収すれば良い。

 どんなホテルに泊まるかは知らないけれど、イマドキ無料のWi-Fiが使えないところもないと思うし。

 そもそもユウイチは電車の中で動画とかを見るタイプでもないし、通信料でお亡くなりになることなんて無いだろうとも思うし。



「あー、それいいかも!」


「何それ、めっちゃ面白そう」



 ――来たっ。


 小さく、ふたりにはバレないレベルで小さく、手を握りしめるだけのガッツポーズ。



「シュウスケくんも来ればイイんじゃない?」


「あー……」



 ちょっと、エリカ。

 そこでトーン下げないでよ。

 折角のチャンスなんだから。



「まぁ、たぶん問題無いでしょ」


「おう、じゃあ邪魔するわ」


「アンタは日帰りよ?」


「……おう」



 まぁ、それはそうなる……のかな?


 エリカのご両親次第のような気もするけれど。









 さらに翌日。


 空風(そらかぜ)()のおいしい晩ご飯をご馳走になってすぐ、シュウスケくんといっしょにエリカの部屋となだれ込んだ。

 ミニテーブルを準備して、その上には充電器にしっかりとつなげたノートパソコンをセッティング。

 お茶とお菓子もバッチリ。準備万端。


 これは晩ご飯の最中、見学旅行で京都を満喫中のユウイチにビデオ通話をすると言ったときに、エリカパパが貸してくれたモノだ。

 ネットの設定は完了済みだったし、マイクもカメラも結構良いのがついてるんだぞー、とかなりノリノリで持ってきてくれた。

 その後、『俺も久々にユウイチくんの顔も見たいなぁ』なんて言い始めたものの、そこは若い子だけじゃないととエリカママに言われて、ちょっと寂しそうにしていた。


 ――とはいえ、エリカとしては、パソコンだけ置いてさっさと出て行けオーラを出していたらしいけれど。


 それはともかく。



「ところで、ユウイチって今何してるの?」


「ルミは知ってるんでしょ?」


「まーね」



 半ばダメ元で今回の見学旅行の日程を訊いてみたところ、『なんかしょっちゅう訊かれるのもめんどくさいや』ということで、見学旅行の枝折的なモノの写真がどさどさっと送られてきた。


 敵に塩を送るようなものなのに――。

 と、ちょっと黒いことを思ったりしたのはナイショ。



「もうちょっとで夕ご飯の会場になってる、なんかちょっと良さげな料亭っぽいところに着くっぽい」


「なにそれ、随分豪華な感じ」


「そこの名前とかってわかる?」


「ちょっと待ってね」



 枝折の写真を拡大してみると、ギリギリその会場の名前が読めた。

 キーボードを使うのはそんなに得意じゃないので、音声入力で検索。



「うわ!」「なにこれ!」「ヤバすぎだろ」



 何とかいうガイド本に複数個の星が付けられそうな雰囲気だった。



「いやもー、これはなんというか」


「殴り込みだ、これは。うん」


「だよね」



 オブラートに包もうとしないシュウスケくんに、きっちり乗っかるエリカ。


 ――うん、やっぱりアンタたち、お似合いだわ。間違いない。



「じゃあ、とりあえずあと10分くらいしたらにしよっか」


「そーだねー」


「よしっ。……俺、ちょっとトイレ」


「いちいち言わんくていいっつの」


「へいへい」



 ――楽しみになってきた。




ここまでお読みいただきましてありがとうございます。



ルミちゃんも、タダでは起きませんね。

さすが幼なじみといったところでしょうか。

次回、それぞれの思惑が交差します。

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