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9月篇第1話: 幼なじみの高校の学園祭に来てみましたが、時々視線が冷たくて困ってます


「やっぱりイイよねー、この雰囲気っ」


「わかる。テンション上がる」


「ふたりとも、今年は何校目?」


「私は4つ目。ルミは?」


「私は3つ目かなー」


「マジか」



 去年もそうだけれど、そこまで他校の学校祭の情報を入手していないし、誘われても運悪く部活の遠征や練習試合が重なったりして、夏休み中もあまり旧交を温める的なことができなかった。

 つらいところだ。



「そういうユウくんは?」


「ここでやっと2校目だよ。いいなぁ」



 何とか行けたのは、中学の時にバドミントン部でペアを組んでいたヤツの通う高校だけだった。



「そういうことなら、ユウくん優先で行こっか」


「そーねー。渇いた青春を送っているみたいだし」


「……学祭だけが青春じゃないやぃ」



 ちょっとだけ、憎まれ口を叩いておく。



「でも、お言葉には甘えておくよ」


「そうそう、そうしておきなさい」


「たまには私たちがエスコートしたげるから」



 何てことを言いつつも、ルミとエリカちゃんの足取りは軽い。

 歩き回ることを最優先にしてスニーカーを履いているあたりからも、充分わかった。


 9月半ばの土曜日。秋晴れ。

 すっきりとした青が上空はるか先まで続いている。


 今日はシュウスケの通う紫苑寺(しおんじ)学園(がくえん)高校の学校祭、通称『紫苑祭(しおんさい)』の1日目だ。








 ウチの学校とは違って地下鉄駅にほぼ直結。

 うらやましい限り。


 最寄りとなる出入り口を出て1分も歩けば、もうそこは紫苑寺学園高校の正門。

 中等部も併設されているためかなり大きな学校だ。

 ちなみに、その中等部の方の学校祭は先週末にすでに終わっている。


 正門を通ってすぐに元気な声といっしょにパンフレットが渡される。


 メインイベントは土曜・日曜どちらとも、第1体育館で行われるコンサート的なモノ。

 地元出身のアーティストやらアイドルやらが来るとのこと。

 このあたり、私立高校らしい感じがしている。

 ウチの高校じゃ、こうはいかない。


 構内図を見るが、――とにかく、広い。

 高校の方の校舎で5階建て。

 ここからも見える中等部の校舎も4階建てだ。

 奥の方には事務棟と思われるビルが見えている。

 ()()()()()()、といっても問題なさそうなくらいだ。

 何となく、威圧感のようなものがあった。


 ここに来るのは実は2回目。

 いわゆる()()()()として受けた、私立高校の入試のときに1度目。

 そして、去年の紫苑祭で2度目だ。



「さて、と。何処行こうかね」


「え? ユウイチが決めていいよ?」


「さっき言ったじゃん。ユウくん優先って」


「あ、ホントなんだ」


「……なーんで信用してないのよ」


「そういうわけじゃないけどさ」



 ここまで来るのも、ぐんぐんと進んでいくふたりのあとについてきただけだ。

 そうは言っても最終的なコントロールはしないといけないのか、とか思っていた身としては、やや拍子抜けする。

 ――嬉しいけどね。



「だったら……、シュウスケんところとか行っちゃう?」


「エリカ、とくに何時くらいに行くとかは言ってないよね?」


「うん、別に」



 店番というか、当番に割り当てられている時間は今日の午前中とのこと。

 少なくともその時間帯には冷やかしに行くね、とは先週あたりの登校中に伝えていた。



「言わない方がサプライズになるしねー」


「……ああ、なるほど。僕のときもそういう感じだったわけね」



 よみがえる月雁祭の記憶。



「……あ、ごめん。()()()のユウくん思い出したらヨダレが。……痛っ」



 エリカちゃんが若干不穏なことを言う。

 その瞬間、ルミがエリカちゃんのアタマを軽く叩いた。



「エリカ、まだブーム続いてたの?」


「そりゃーもう」


「え、なに。どういうこと?」


「エリカねー、執事萌えなのよ」


「あ、そっちか」



 ああ、なるほど。そういえばいつ頃だったか。

 朝も早くから、そういうドラマが好きだ、めっちゃはまってる、ステキだのと、ものすごい熱量で語られた記憶がある。

 ルミはともかくとして、僕やシュウスケは完全に置いてけぼりをくらった。

 4歩くらい後ろを歩きつつ呆然とエリカちゃんを見ていたシュウスケの顔も、同じように記憶に残っていた。



「もうねー、完全に月雁の学祭で目覚めちゃったね。……ん? っていうか、ユウくん、『そっちか』ってどういうこと?」


「てっきり、あの役者さんが好きなんだと思ってたけど。ああなるほどね、そっちもだったんだ」


「……ううっ。これは強く否定できない」



 あ、諦めた。

 認めちゃった。



「今更でしょー。あんだけ月雁祭のときのユウイチにぐにゃぐにゃしててさ」


「ぐにゃぐにゃはしてないですー。でも、ルミと同じで、ユウくんがかっこよかったのは認めますー」


「ちょっと!? 変なコト言わないで!」



 あれ? 攻撃側が代わった?



「だったら、シュウスケんとこに行くってことで。……ね」



「……けっ」


「……ふん」



 あれ? 攻撃対象が代わった? ルミも視線がいきなり冷めたし。


 っていうか、なんでふたりともいきなりそんな不機嫌?


 ふたりとも、他の子には見せられないくらいの顔に、一瞬だけなったような気がしたけれど。


 最近なんだか、こういう目に会う機会が増えた気がするんだけど。


 ――――僕、何か、選択肢とか間違えました?







「ここかな」


「そう、かな?」


「あってるみたいよ。……結局エスコートされたのはエリカだったね」


「私にはムリでした」



 普段自分が通う校舎のイメージが邪魔をするのか、他の学校の校舎は何となく迷いそうな気がする。

 途中からは僕らにくっついてくるような感じになっていた。



「でも、来てみたら迷うようなところでもなかったね」


「そうねー」



 意外にもかなりわかりやすい場所だった。

 中央付近にある食堂を使うらしい。

 ――食堂というには、何だか随分とおしゃれなところだけれど。

 調度品とでも言うのだろうか、そういう細かい部分がシャレていた。


 問題は、その中身。パンフレットにも『マル秘』とされている。


 シュウスケには『学年別の出し物的なモノに出るから』と言われていただけ。

 その情報だけでとりあえず開催場所だけは突き止めた、という状況だった。


 それにしても、この人集り。



「並んでるねえ」


「この時間帯からってすごいな」


「ユウイチのクラスのも、これくらいの時間から混んでたと思うけどー?」



 ――言われてみると、たしかに。



「だねー。そういえば、誰かシュウスケが何やるかって聞いてる?」


「いや」


「聞いてないわね」



 この感じだとエリカちゃんも聞いていなさそうだ。



「……シュウスケのことだし、何か驚かせてやろうって考えていそうだな」


「あり得るー。っていうか、絶対そうね。アイツのことだし」


「私に言わせれば、むしろユウイチがあのときにあっさりカミングアウトしたのがびっくりよ」


「あそこまで集客できると思ってなかったんだよなー」



 そんなことを言いながら並ぶこと10分ちょっと。

 ようやく立て看板が見えてきた。


 書かれていたのは――、『2年生:執事喫茶』



「マジか!」「うそ!?」「えっ!?」



 3人とも同時に、けれど全員が違う驚き方をする。



「……そりゃあ、僕らにも教えないわな」


「たしかに……。ぅふふ」



 エリカちゃんの変なスイッチがオンになった。

 どうしたモノかと思っていると、ルミが僕の肩を叩きつつ耳元に顔を寄せてきた。



「これ、シュウスケくんが発案したんだとしたら、いろいろ面白いわね」


「……ん? あー、まぁ、その可能性は低そうだけどなぁ」


「そうじゃなかったとしても、コレをやる気になった理由とかさぁ」



 なるほど? エリカちゃんへのウケを狙った、ということか?



「たしかに。……今度それとなく訊いてみる」


「任せたわ」


「任された」



 人好きのする笑顔をコチラに見せた男子が僕らを呼んでいる。


 とりあえず、中でシュウスケを探そうか。







「おかえりなさいませ」



 お決まりな台詞で迎えられながら、中に入る。


 そこはもう、よくある学校の食堂ではなかった。

 そもそもちょっと豪華な感じの内装になっているところに、それらしい装飾を付け加えれば、豪邸にでもありそうな大食堂の雰囲気のできあがり。



「よく考えたなー。ウチじゃこうはいかない」


「……そりゃ、公立高校の一般教室で全く同じクオリティは出せないでしょ」


「それもそうだけどね」



 受付担当の男子が近付いてきた。



「現在の担当はこのような者になっております」


「あ、指名制あるんですか」


「一応、ですけどね。ご希望であれば、という感じで」



 そう言われて見せられたのは、タブレットPC。

 まさかのデジタル。



「ハイテクぅ。……へえ」


「これは予想外のアイテムかも」


「とはいえ、指名できるなら、その相手は……ね?」


「そうね」


「……え?」



 品定めでもするかのような視線でタブレットをスワイプしていたエリカちゃんが、ぼけーっとした声で反応した。



「ちょっと貸して」


「あっ」


「お、すげえ。ソーティング出来る」



 言いながら、顔写真リストをクラス順からあいうえお順に並べ替える。



「いたいた。この、桃枝(もものえ)脩介(しゅうすけ)で」


「あ、なるほど。アイツが言ってたのは君たちか」


「あれ? もしかして、シュウスケから話通ってたりする?」


「『男子ひとりに女子ふたりのグループが、俺を指名してくるだろう』って言ってたんだよ。ちなみに、キミ」


 彼はそう言いつつ僕を笑顔で指差した。


「名前は?」


「ユウイチ。紫藤(しどう)優一(ゆういち)


「おっけー、よかった。間違いない。俺は青木(あおき)蒼太(そうた)。シュウスケとは同じクラスなんだ。よろしく」



 そういうと、別の男子に入り口の担当を任せて、僕たちをテーブルへと案内してくれた。







ここまでお読み頂きましてありがとうございます。

さて、今回はシュウスケくんとこの学校祭のお話です。

学校がバラバラの学園モノは、イベントがバラけるという利点がございます!w



(2019年12月8日記載)

お久しぶりの次話投稿でした。

ここからは12月篇の最終話まで毎日投稿で行きますので、なにとぞー!

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