7月篇第4話: 幼なじみたちがイイ雰囲気になってくれるか心配で困ってます
「それでは行ってらっしゃいませ、お嬢様。……おぼっちゃま」
「だから、それを言う前に変なタメを作るな、っつーの!」
イジりポイントのようなモノを見つけて楽しそうなユウイチと、反撃のタイミングを完全になくしてしまったシュウスケくん。
――そして、その様子が完全にツボに入っているエリカ。
楽しそうで、なによりです。
次は何処へ行こうか、ということになったが、ユウイチから『せっかくだから視聴覚室かパソコン室に寄って、昨日のショータイムの投票よろしく』と言われていたのでそれに従ってみる。
土曜日は一般公開ではないのだが、その代わりにショーの録画映像を見ることができる。
もちろん、今日に模擬店や行灯と同じく、人気投票が行われるという仕掛け。
まとまった票田が必要、という話。
「他にもいろいろ見ていきたいし、……ほら、このあと寄るところあるじゃない?」
「まぁ、そうな」
だったら、ということで、1年生の発表をエリカが、2年生の発表をシュウスケくんが、そして3年生の発表を私が、それぞれ視聴して投票先はそれぞれのものを統合するという話になった。
――これでいいのかわからないけど、まぁいいや、的な流れ。
「無投票よりはいいだろ」とは、シュウスケくんのお言葉だった。
それぞれで発表を見終わってもう一度集まったとき、シュウスケくんがやたらと興奮気味だった。
話によると、サイレント映画のようなことをしたクラスがあり、それがあまりにもクオリティが高くて感動した、とのこと。
「シュウスケ、そういうのも好みだったの?」
「最近そういうヤツをサブスクリプションサービスで見てるんだよ」
「……意外」
「言うな。俺も自分でそう思ってるんだから」
以前みんなで映画に行って以来、その手の趣味の話をオープンにするようになったシュウスケくん。
でも、せっかくならユウイチじゃなくてエリカを誘えばいいのに、とずっと思っているのだけど、なかなかそうはなってくれない。
学校内での催事もすべて終了。
その少し前に一度学校を後にして、再度戻ってきたときには19時少し前くらいになっていた。
ユウイチを含めた月雁高校の生徒たちは、すでに全員がグラウンドに来ていた。
これから学校祭のそれぞれの出し物に対する結果発表と表彰式。
それが終われば生徒も自由参加になる後夜祭、というスケジュールだった。
「……やっぱすげえなぁ」
「キレイだよねー」
「だねえ」
傍らには全クラスの行灯が、ライトアップされた状態で飾られている。
もちろん1年生の作品もよくできてはいるのだが、こうしてすべてを並べると――。
「年季の差って、あるよな」
それ、それ。
シュウスケくん、ナイス。
それを言いたかったの。
たった1年、されど1年。
学年の差をものすごい大きなモノに感じてしまった。
雑談をしている間にも、各部門の受賞クラスが発表されてきている。
ものすごい喚声。
半ば、雄叫びのような感じにも聞こえる。
残念そうに俯いたり、泣いているように見える子も居る。
悲喜交々。
少し思い出すのは、中学校の学校祭。
ここまで長期間の準備では無かったものの、結果発表のときの盛り上がり方は、今このときの盛り上がりによく似ているような気がした。
「みんな、反応がすごいね」
「熱いよね」
小さく呟いた私にエリカが反応してくれた。
「1ヶ月準備してきてるからかな、やっぱり」
「たぶん、そうだろうね」
「……ちょっと、うらやましいな」
「え?」「え?」
「いや、何でもない」
私とエリカが同時に反応してしまうが、シュウスケくんはそのまま真正面を見つめたままだった。
明らかに『うらやましい』と言ったと思うのだけど。
それも、すごく真に迫っているというか、本心からの言葉だったように聞こえた。
「……あ!」
「やった!」
「おおっ」
そして、2年生の最終日・模擬店の表彰。
ユウイチのクラスが学年別最優秀賞になった。
あのクオリティで1位じゃなかったらおかしいくらいだった。
行灯は当初言っていた学年別1位には惜しくも届かず2位になってしまったけれど、大きなトロフィーは持ち帰ることができたので、きっと良かったと思う。
――ちなみに。ステージでのショータイムの表彰に関しては、シュウスケくん一押しのサイレント映画を演じたクラスが学年別1位、全体でも2位になるという快挙だった。
正直言うと、シュウスケくんは、ユウイチたちの執事喫茶が1位になったときよりも大きめなガッツポーズをしていたように見えた。
後夜祭の時間になったので一旦ふたりから離れて、ユウイチが来そうな方向に待機してみる。
実はそのまま後夜祭が終わるまで放置してしまおうというプランだった。
なんとなくでも、良い雰囲気になってくれることを期待しているけれど、どう転ぶかはあのふたり次第、というスタンス。
もし特に何も無いのであれば、また今度考えることにする。
どうせ、もう少しで夏休みになることだし。
そんなことを考えていると、あまり待たずにユウイチはやってきた。
私に気付いて小走りになるが、突然その足を止めた。
眼もまん丸になっているみたいに見えた。
「ルミ……、どした?」
「どした、って何よ」
「いや。だってさ。去年は普通の恰好だったし」
「いや、だって。後夜祭の途中から花火大会が始まるなんて知らなかったしね」
「うん、花火と言えば……たしかにね」
「教えてくれれば、去年も浴衣着てきたんだから。これは、エリカも言ってたからね。責任取ってね?」
「……何の責任だよ」
そう言ってユウイチは視線を逸らした。
月雁高校学校祭、『月雁祭』の最終日である日曜日の夜は、実は花火大会と日程が重なっている。
星宮市では7月末に全国的にもそこそこ有名な規模で、いちばん大きな競技花火大会が開催されるが、その前哨戦のような感じでいくつかの花火大会がある。
その中のひとつが、この『月雁花火』。
伝統校であり進学校、学校祭の規模も指折りの月雁祭に合わせるという形式で誕生したという話だ。
――もちろん、去年月雁祭に来たあとで調べた内容だ。
言ったとおり、知っていれば去年も浴衣で来ていた。
「っていうか、何時の間に? さっきはふつうの恰好だっただろ?」
「2時くらいに1回出て、取り扱ってるお店で着替えて」
きっちり予約済みだったわけで。
「シュウスケくんも、実は浴衣なんだよ」
「当然エリカちゃんもだよね?」
「もちろん。……ほら、あそこ」
言いつつ指で示す。ユウイチもそっちを見て、いろいろと把握してくれた。
こういうときは察しが良くて助かる。
ちなみに言っておくと、シュウスケくんはシンプルなグレーの浴衣。
エリカはピンクをベースにした桜模様で、私は白ベースの朝顔模様だ。
「やっぱり浴衣は目立つなー」
「意外と花火の日なのに浴衣の娘とかいないよね、月雁祭」
「どっちかっていうと、ウチの生徒は浴衣は行灯の時に着ちゃうからね」
「あー、たしかにそういえば」
たしかに、行灯を持っているのは――ある意味当然かも知れないけど――男子で、女子はその周囲で男子達をうちわで扇いでいた。
たしかに、その子達はほとんどが浴衣姿だった。
「エリカ的には、『花火は浴衣で見たいな』ってことでね」
「わかるけどね。すっげえ楽しそうだし」
ユウイチの台詞にふたりの方を見てみると、たしかにエリカは子どもみたいにはしゃいでいるし、それを見ているシュウスケくんも満更でも無さそうな感じ。
あの雰囲気はどうみても――。
「どっからどう見てもカップルなんだけどなぁ……」
「だよねー……」
その光景を見ているだろう月雁高の女子達が、何とも言えない表情でふたりを見つめている。
あれはたぶん、『めっちゃカッコイイ男子がいるけど、やっぱり彼女持ちかー』的なヤツ。
逆に男子達も、『すげえカワイイ娘いるけど、そりゃそうだよなぁ……』的な表情だったりしている。
「とりあえず、成功ってことで良さげ?」
「イイんじゃないか?」
なんとなく頷き合って。
「お、始まった」
「わ……」
折良く、花火大会が始まった。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
あらら?
なんだか……?
おやおや?
ということで、7月篇・月雁祭篇も終了……
とはならないのです。
もうちょっとだけお付き合いくださいね。
感想などなど、お待ちしてまーす。