7月篇第1話: 学校祭の準備がハードで困ってます
「ふぁわぁぁーー……っふ」
「さっきから欠伸ばっかりだね、ユウくん」
「ちゃんと寝てる?」
「……一応」
今日すでに何回目かわからない欠伸といっしょに答える。
そう。一応は眠れている。一応は。
ただ、根本的な話、その時間が短いのが問題だった。
「一応って、どれくらい?」
「……4時間くらい」
「何でよ?」
ルミの、少し冷えた様な声がとても刺さってくる。
「学祭準備で遅くなる、宿題もある、予習もやらなきゃいけない。何だかんだやってる内に2時近くになる……みたいな。もう、悪循環」
「お前んとこの学祭、ちょっとハードすぎねえか? とくに準備」
シュウスケの、呆れたような声に思わず肯きそうになる。
けど、肯いたら負けのような気がして、ギリギリのところでガマンする。
もう少し学校に近いところに住んでいればよかったのだろうけど、生憎ウチはそうではない。
家を出てから1時間以上の道のりだ。
路線の乗り換えだけで済んでいるから、他の人よりはマシ、と言う見方も出来なくはないが、そんなのはあまり慰めにはならないわけで。
それに、直線距離だと、こちらよりもシュウスケの学校の方が遠い。
――なるほど、負けのような気がした理由のひとつはコレか。自己解決。
「まぁ、あれだ。そう思ってくれるんだったら、見に来てくれよ? 月雁祭」
「そりゃあ、もちろん行くけどさ」
「とくに、金曜の夜のな。だったら、この眠気も報われるから……くふぁ」
耐えきったと油断した瞬間に、欠伸。
そんな僕の様子に対してなのか、ルミが笑いながら言う。
「去年のは何というか、かわいかったよね。ユウイチのクラスのヤツ」
「いやいや。今年は、そのイメージのままで来たら、絶対びっくりするよ?」
「何か自信満々だねえ。テーマとかあるの?」
「テーマというかモチーフならあるよ」
「何?」
「『怒濤と海神』」
「うわ、何かヤバそう」
「ヤバそうじゃなくて、事実ヤバいから。大賞狙ってるからね」
各クラスで1台の行灯――と言っても、小さな灯をともす照明の方ではなく、いわゆる夜高行灯――を制作し、学祭1日目・来週金曜日の夜に高校の周辺を練り歩く。
その中で沿道に集まった人たちに人気投票に協力をしてもらった上で、最終日である日曜の夜に投票結果が開票される。
各学年で1位から3位まで、そして全学年を通しての大賞1つと準大賞2つが決まる、という流れだ。
「大賞ってことは、全学年でのトップ狙いってことか?」
「そりゃもう。狙うなら一番上だろ」
「今までで3年生以外が獲ったことってあんのか?」
「ない」
「……マジかよ」
即答だ。投票や賞の発表が今の形式になってから、大賞を下級生が獲ったことは無い。
良くて準大賞。しかもそれも今までで2回だけだ、という話を1年生のときに聞いていた。
「随分大きく出たねえ、ユウくんのクラス」
「前例が無いんだったら、前例になるだけでしょ」
「おー、言うなぁ。今度それ何かのときに使ってイイか?」
エリカちゃんにサムズアップで答えたら、妙に生き生きとした顔でシュウスケが言ってくる。
「別にイイけど、自分で考えた感は出すなよ?」
「……クソッ、バレたか」
そんなことだろうと思ったよ。
にやりと笑ったあたり、本気の本気でそう考えていたわけではないのは理解できた。
「必ず『俺の友達がこの前言ってたんだけどな』を付け加えてくれるんなら、許可しよう」
「ん、そうする。……と言っても、どこで使えるかわかんねえけどな」
調子のイイヤツだ。
でも、今みたいに疲れが抜けないときには、そういうノリのおかげで少し気分が上がってくるから助かる。
「でも、ムリはしないようにっ」
「わかった、わかったってば」
ビシッ、とルミは目の前に人差し指を突き立ててくるので、それを軽く握って避けておく。
「本気でヤバくなってくるのは来週からだしね。今はまだそこまでムリはしてない」
「……え、まだキツくなるの?」
「たぶん、来週の木曜日はかなりハードかもなぁ。2年、3年は毎年学祭初日の前の日は泊まり込みみたいになって、夜通し作業してるし」
「はぁ!?」「え!?」「うそぉ!」
おお、ハモった。
「まぁ、夜通し作業組は家が近い奴らだけなんだけど……。今年はどうかなぁ。先に帰って終電で学校に来るか、終電で帰って疲れ取ってからまた来るか、みたいになるかもしれない」
「そんな、三交代制みたいな」
「ああ、そんな感じかもね」
ルミの言うとおりかもしれない。
ハードなところも、よく似ているような気がする。
「っていうか、それよく許されてるな。ウチの学祭だと絶対禁止だぞ、それ」
「絶対に騒がない、っていう厳格な条件付きでやってる。上級生から『騒いで近隣住民に迷惑掛けたら即刻退学』って言われるのが通過儀礼」
「マジなの、それ……?」
「退学は言い過ぎだけど、2ヶ月休学になった人間は居たらしい、とだけ」
エリカちゃんの頬がものの見事に引きつった。
と、思う間もなく両手が彼女にがっちりと握られる。
その上からルミがさらにがっちりとホールドしてくる。
――――な、何だ。
「気を付けてね!」「気を付けなさいね!」
今度はこちらが頬を引きつらせる番だった。
ここまでお読みいただきまして、ありがとうございます。
なんだかんだで心配されるユウイチくんでした。
しっかし、わりとかっこいいことを言いよる。
ちょっと、月雁高校って校風が独特なんですよね。
何にでも全力投球。
わりとパリピの集まり感。
でも、抑えるべきところは弁えてる、というか。
感想などなど、いつでもお待ちしてまーすっ!!