表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。

秋の桜子詩集

マッチ売りの少女によせて

作者: 秋の桜子

空から 天使が 眺めていました



暑い 焼けつく太陽の 石畳の街を


小さな身体が 吹き飛ばされそうな その日も


冷たい雨降る夜にも 凍える朝も


マッチの束を 小さなかごに詰めて


流れ行く大人達に 台所の扉を叩き


顔を見せた 料理人に 笑顔で勧め


わずかな 銅貨と 引き換える 女の子



空から 天使が 眺めていました



かつては 優しい両親と


優しい祖母に囲まれて


貧しいながらも 今のような事はなく


笑って 歌を歌って 鶏の卵を集め


両親の畑仕事を手伝い


森でイチゴを摘んで


祖母に おとぎ話を聞かせて貰う


かつての時


ある年 街に黒き病の衣をまとう


死神が現れ


女の子の 母親を 祖母を


連れ去ってしまった


遺された父親は 彼の愛した 妻が


消え去った事に


耐えきれず 妻に 母親に


薬を買えなかった


己を責めて


うずくまり 動けなくなった


まるで 心をそれに 連れ去られた様に



空から天使が眺めていました



自分の日々の糧を得るために


父の糧を得るために


その子は 一人 街を 歩き


それを人々に 売り歩く



しんしんと 雪降る


聖夜が近づきしその夜は


みなみな 教会へと 家へと


足早に 進む街の人々


木靴の 中に藁を詰めて 歩く女の子


亡き祖母が遺した 赤い肩かけを


薄い服の上に


かつての祖母の温もりを


よすがにするように


頭からすっぽりと


被りまとう 女の子


やがて 夜の帳が深く濃くなりし 街の中


白くなりし その通り道には


人の姿は無くなり


冷たい花が降りしきる


その子は 一人 ただ一人


白い世界に取り残された



空から 天使が 眺めていました



翌朝 その子を見つけた 街の人々は


可哀想に かわいそうに と集まり


取り巻き 声をかけます



天使は ならば何故にと思います



日々見かけるそれならば


何故に 雪降る中を歩く


女の子が 生きている その時に


一束のそれを


買ってやらなかったのかと


声かけ 袖を引く 女の子に


目を向けなかったかと


扉を叩く音に


聞かぬふりをしたのかと


雪降る 聖夜の近づきし夜に


何故に 一目その子に目を向け


赤く冷たい手を 凍える足元に


気づいてやれなかったのかと


何故に 少しだけ すこしだけ


見てやれなかったのと



天使は 自身の無力に


涙します 神の御手を


使えるのは


ただ 一度 天の国の


厳しく 冷たい 掟




空から 天使が 降りて来ました



天使は 人々の瞳には 写りません


天使は その子に 近づきました


そろりとその子に触れる


一度だけ使える 聖なる力


冷たくなりし女の子は ふわりと


そこから抜け出ると


天使へと姿を変え


迎えの者の手を取り


共に 美空へと


昇って 逝きました



降る雪が止み 積もりし世界


青く空が晴れ渡る


キラキラと 白い道が光る


雪でおおわれた 街


吐く息が 濃く真白い 朝の事でした。














評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ