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(8)

「ああ!?あのバカ野郎どもにちょっかい出しただと?」

 宿屋に着き、一息煙草をふかしていたティオが素っ頓狂な声を上げた。

「あんまりしつこかったからつい・・・。」

 ロザリオのすまなさそうな声は普段なら茶化しているところだが。

「お前なぁ。けんかっ早いっての。お前らしくもねえな。」

「ごめんって言ってるでしょう?」

「あのなあ・・・。謝って済むぐらいならこの世に私刑なんてもんはねえんだよ。」

 ちなみにこの世界に警察なんて便利なものはない。一応補足まで。

「誰に補足してんのさ・・・。」

「なんだって?」

「べつに・・・。だけど・・ただのちんぴらだったよ?それがれいのバカ野郎どもだっていう保証はないと思うんだけど。」

「用心してしすぎはねえよ。」

「うわ・・。君に似合わない言葉・・。」

「うるせえって。」

 ドアの開く音が室内に響く。

 二人は跳ね上がるように椅子を蹴り飛ばし、懐に手をやるが・・・。

「・・・・。」

 そこに立っていたのはシトだった。

「なんだ。お前か。おどかせんな。」

 ふう・・とため息をつき椅子を直すティオ。

「ご・・めんな・・さい・・。」

 その手がピタリとものの見事に止まった。

「・・・・・シト?」

 ロザリオの口端が見事につり上がっていく。

「・・・・?な・・に?」

 シトは小首をかしげている。その仕草はいつもと変わらない。しかし・・・。

「お前!言葉!話せる!」

「君のほうが言葉になってないじゃないか。」

 ロザリオはティオの肩をぽんぽんと叩いた

「そういうつっこみはいらねえ。いつからだよ。」

「つい・・さっき・・。」

「そうか・・・。ふーん。」

「・・・・?な・・に?」

 シトはまた小首をかしげた。その仕草が妙におかしい。

「いやあ・・お前って結構きれいな声してんだなってな。」

「そう・・・かな?」

「ああ。」

 彼らしくない言葉にロザリオも小首をかしげる。

「あの・・・。」

「ん?なんだ?」

 シトは何か言いにくそうにティオを見ていた。言葉を話せるようになったとはいえまだまだ、自己主張ができるほどではないということだ。

「えっと・・・その・・・私の・・・せい・・・だから。」

「なにが?」

「あの・・・ロ、ロザリオ・・・が・・・喧嘩・・した・・の。私の・・・せいだから・・。」

「???どういうことだ?」

 今度はティオが小首をかしげる番だった。

「シト。それはもうい言っていっただろう?」

「でも・・。」

 ロザリオの諫めにもシトは納得できない様子だった。

「・・・つまり、ロザリオはシトを助けるためにやむなく喧嘩をしたってことか?」

「・・・うん・・。」

 シトは頷くが、ロザリオは首を振って、

「そうじゃない。シトはなんの関係もない。あいつらにちょっかい出したのは僕なんだし。」

「あーはいはい。分った分った。もう、その話は終わりだ。」

「「え?」」

 ロザリオとシトの高い声が重なった。

「結果的にあいつらとにらみ合うことになった。そういうことでいいな?」

「えっと。それで・・・いいの?」

 ロザリオはティオの瞳をのぞき込んだ。

「ああ。ここはお前とシトの愛に免じてってことで。」

「ちょっとまってよ。愛ってなんなのさ?僕は・・・別に・・・。」

「・・・・?ロザ・・・リオ?どう・・した・・の?」

 一気にしどろもどろになったロザリオを見てシトはやはりというか困惑していた。

「はははは・・・。まあ、がんばれや。別に応援なんてしねえけどな。」

 ティオはそれを見てすっかりと上機嫌になってしまった。

「まったく。ティオったら、もうつきあってられないよ。」

 ロザリオはティオから思いっきり視線をはずした。

「ふふ・・。・・・さて・・・。」

 ティオはいきなり真顔になる。

「?」

 その雰囲気を察し、ロザリオも真剣な眼差しでティオに向き直った。

「今回の仕事のことだ。それと、あいつらのこと。この二つをどうするか。すこし、そこら辺を話し合おうぜ。」

 それは、ティオが仕事の解きにみせる顔だった。

「そうだね。とにかくやっかいなことが一つ増えてしまったわけだ。」

 それは、ロザリオも同じこと。

「・・・・ティオ・・・ロザリオ・・・?」

 シトは急に居心地が悪くなった。

「ああ。お前は部屋に戻っててもいいぜ。これからはなす事は聞いてても気持ちのいいことじゃねえからな。」

「うん。先にシャワーでも浴びておいでよ。その間には話は終わるだろうからさ。」

 ロザリオはふとみせた。柔らかな笑み。

「・・・うん・・・分った。」

 シトは安心を覚えた。

「そうそう。気持ちのいいことはその後ベッドでたっぷりと・・・。」

「ティオ!!!」

 シトは聞かなかったふりをすると部屋から出て行った。

「まったく君は・・・。」

「愛嬌だよ、愛嬌。」

「もういいよ。」

 ロザリオは一度大きなため息をつくとまた表情を戻した。

「それにしても君・・気がついてる?」

「ああ。かなりの数だな。こっちを見ている。」

「やはり・・・。」

「ああ。バカ野郎どもの私刑役って野郎達だろうよ。」

「やっかいだね。これほどまでの数を集めてくるとなんて・・・。」

「こっちが銃を持ってるからじゃねえの?」

「確かに、僕らが銃を使ったらこの数でも大したことはないけど・・・。」

 二人はふと、息を潜めた。急に奴らの動きが変わった。

「・・・・!しまった!」

 絹を引き裂くような鋭い声。

「ちい・・・俺らもまだまだ甘い!」

 二人は脇目を気にせずに部屋から飛び出しシャワールームへと急ぐ。

 中に人がいるかどうかも確認せずに二人はシャワールームに飛び込んだ。

「クソ!やっぱりか。」

 そこはもぬけの殻だった。そして、その脱衣所にはさっき脱いだばかりのシトの衣服が散乱していた。

「なんて・・なんてことに・・・。シト・・・。」

「???おい。手紙があるぜ。」

 何か手がかりがないものかと部屋を探索していたティオが書き置きのようなものが壁にぶら下がっていることに気がついた。

「!!なんて書いてあるの!?」

「まあ、落ち着け。」 

 今にも飛びかからんばかりのロザリオを制し、彼は手紙の文字を読もうとして・・・やめた。

「ティオ!」

「俺は字が読めなかった。お前が読め。」

「え?ああ。そうだったね。じゃあ。僕が・・・。」

 ロザリオは冷静になるべく一度深呼吸をするとその紙に目を落とした。

「・・・・ふざけてるよ。」

「なんだって?」

 ロザリオの漏らした声にティオは聞き耳を立てた。

「明日の早朝。例の噴水の広場まで来い。さもないと女の命はないと思え。」

 そして、ロザリオは最後にバカ野郎どもの自称名であるマフィアの名を読み上げた。

「バカ野郎どもが!」

「なんてベタベタなやり方なんだろう?」

「そんなやり方に引っかかる俺たちも俺たちだがな。」

「だけど。僕たちに気配を察知されなかったって言うことは、シトをさらったのはかなりの手練れってことになるよね。」

「むしろ、そのためにあれだけの人数で俺たちを監視してたんだろうよ。監視するのに案だけの人数と殺気はいらねえ。」

「なるほどね。もう、あいつらはいないみたいだ。」

「いたら、シトの居場所をはかせてやるところだったが・・・命拾いしたな。」

 しばらくの沈黙。シャワールームには水の滴る音のみが響いていた。

「どうする?」

 ロザリオは答えの分かり切った質問をした。いや、それは質問ではない。確認だった。

「とうぜん。シトを奪い返す。そして、奴らを・・・。」

「皆殺し・・・だね?」

「当然だ。」

「よし、やろう。」

 そういうとロザリオは近くにおいてあった鞄の中をあさり始めた。

「というわけだ。覚悟しておいてよね。」

 そこから取り出されたのは小さな機械・・・盗聴器・・・というものだった。

「・・・・。」

 ロザリオは立ち上がりそれを床に放り投げると懐の銃でそれを粉々に粉砕した。

 銃声がしても人がとんでくることはない。ここはそんな世界だ。

「宣戦布告は完了か?」

「うん。ぬかりなく。」

「一発無駄にしたな。」

「別に・・一発ぐらい。」

 ティオとロザリオはしばらくお互いの腹を探るように見つめ合った。

 いや、それは一種の二人の遊びだったのかもしれない。

「さてと・・・とりあえず部屋の盗聴器を全部見つけて作戦会議と行こうじゃないか。」

 部屋にも盗聴器が仕掛けてあることなど先刻承知だった。

「そうだね。あいつら・・・絶対に許さない・・・皆殺しだね。」

 ある意味罠にはまったのは彼らだったのかもしれない。

 この二人に殺意の二つ文字を抱かせたこと。それははじめから死を意味すると言うことにまだ彼らは気づいていなかった。

 その盗聴器の向こうでこの声を聞いたものは、それから一晩中朝が来るまでその声が耳に張り付いてとれなかったという。

 真の恐怖はかくして訪れることとなる。


    ※


 グラスがかちかちと揺れる音が店内に響いていた。

「親父・・震えているのか?」

 男は自分のグラスを弄びながら聞いた。

「あ・・いや・・その・・・。ダンナが殺意を抱いたときのことを想像しちまいやして。」

「あのころは若かったからな。まあ、見境がなかったって奴だ。俺も、あいつも。」

 グラスの中の氷は光をいい加減な方向にねじ曲げる。

「それにしても・・ダンナを本気にさせるなんて・・・。あいつらも災難でしたね・・・。結局なんだったんですか?その、マフィアって野郎ども。」

 マスターは震える手を押さえながらも聞いた。

「そうだな・・・。どこにも行く当てがなくて。何もすることができない。そんな奴らがなにか犯罪に手を染めて自分の居場所を確保する・・・。その吹きだまりみたいなもんだ。それが、いつからか徒党を組むようになって肥大化していった。」

「なるほど。この街にもいる奴らと結局は同じってことですな。」

「そういうこった。」


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