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(5)

 この街にある雑貨屋といえば町はずれの”イスフェル”という店しか思い浮かばない。

 ロザリオは少し遠出を覚悟しながらも街の大通りを歩いていった。

 誰からかの監視を受けているにもかかわらずなぜ大通りを通るのか。

 それは、その広さを生かして周りの状況を把握しやすくするためだ。

 大通りでの行動は目立ちすぎる。そのため、自然と襲われにくくなるというのが理由なのだが。

「だけど・・・落ち着かないよね・・・。」

「・・・・?」

 ロザリオの漏らしたため息にも似た言葉にシトは小首をかしげるばかりだった。

「こんなにおおっぴらに監視されると・・・逆にやりにくいっていうか。」

 ティオはわざと踏んづけてほどけた靴ひもを結び治すため、地面にうずくまり、周りの様子に気を配った。

(2,3人・・・グループを組んでいるってことかな。一人は後方20メートル。二人目は裏路地を逝ったり来たりしているし。最後は・・・一人目のさらに後方か。)

 ロザリオは靴ひもを結び治すとゆっくりと立ち上がった。

 ジャケットのポケットにつっこまれている右手には既に愛用の銃、フォールンヴェスパM93が握られている。

 ティオほどではないが、彼もそれなりに銃の腕には覚えがある。おそらく、いま彼を監視している程度のちんぴらなどは彼の足元にも及ばないだろう。

 逆に言うと、ティオが明らかに人間離れしているのだろうが・・・。

(ちんぴらって言っても素人ではないんだろうけど。)

 少し距離を詰めてきたようだ。

(アタックの予兆かな?)

 彼は後ろを見ずにそう予感した。

 こういうときに現われる一種独特の感覚。緊張感ともとれるようなものが空間を支配する。

(本当に・・・麻薬みたいなものだよね。)

 次第に高鳴ってくる心臓の鼓動を心地よさそうに耳に受け、彼は薄く微笑んだ。それは、獲物を前にした猛獣が浮かべるような邪悪にして物静かな笑みだった。

「そろそろ頃合いかな?」

 ロザリオはそう思い立ちシトを先頭にするように裏路地に潜り込んだ。

 ティオの耳、身体を通して追跡者の足音が伝わってくる。彼が裏路地に入り込んだことを受けて急に歩調を強めたのだろう。

 裏路地を逝った来たりしていた男の一人も次第に近づいてくる。どうやら、この男の方が早く来そうだ。

「先手必勝だとおもう?」

 ロザリオはシトに聞いた。

「・・・・・?」

 彼女は言葉の意味すらも理解できなかったのだろう。しかし、ロザリオはかまわずにジャケットのポケットに忍ばせてあった右手を取り出した。

 そこには何も握られていない。

「ねえ。シト?僕が合図したらこの十字路をまっすぐと向こうに向かって駆けていくんだ。よそ見もしちゃいけない。後ろを振り向いても行けない。ただこのまま走っていくと広場に出ると思う。噴水のある広場・・・今は水は出ていないだろうけどね・・・そこで待っていること。いいね?」

 ロザリオは静かにゆっくりとシトに言い聞かせた。

「・・・・・!」

 シトはようやく自分たちが立たされている状況がただごとではないことを理解したようだ。

 彼女はゆっくりと頷き返す。

「うん。いい子だ。」

 ロザリオはシトの肩をぽんぽんと叩いてニッコリとした笑みを彼女に向けた。

「・・・・・。」

 シトは思わず驚いた表情を彼に返すが、それは次第に薄い笑みに変わっていった。

「さてと・・・タイミングが大事だよね。」

 彼は、小さな十字路にの一角に身を潜めた。

 足音は予想通りの早さを保ち接近している。

「よし・・・・いまだ。いくんだ!」

「・・・・・!!」

 その言葉とシトが駆け出すタイミングは絶妙にマッチした。

「・・・うお?」

 シトがいきなり飛び出てきたため、ロザリオをおっていたものの一人は面くらい、次の瞬間自分が立たされている状況が完全に見えなくなってしまった。

「ごめんなさいっと!!」

 振り下ろされる拳に気がついたそれは避ける暇もなく、あごに食らって悶絶した。

「後二人か・・・。」

 少し強く叩きすぎた右手をさすりながらティオは十字路の向こう側を見た。狭い路地の中、シトはどんどんと小さくなっていく。

「いいね。結構早いじゃん。」

「なにがあった?」

 ふと気がつくと後から追いかけてきた二人がようやく追いついたようだ。

「遅いお着きだったね!」

 言い終わるか言い終わらないか。地面に倒れ込む仲間とロザリオを見比べ、状況を理解するのが明らかに遅すぎた。

「ド素人ちゃん☆」

 すべては一瞬で片が付いた。一瞬にしてロザリオの拳は二人の男のみぞおちと脇腹に吸い込まれるように入っていた。

 地面に倒れ込む二つの巨体。

「思ったより大男だったんだ。」

 気配は察していたがさすがに体格までは把握できていなかった自分を思わず悔やんでしまうが、ロザリオはことのほか冷静であった。

「さて、次の追っ手が来ないうちに僕たちのお姫様を迎えに行かなくちゃね。」

 ロザリオの口調は楽しくて仕方ないといった感じだった。まるで、遊びに興じる子供を思わせるようなその無邪気な表情はいったいなんなのだろうか?それは、ティオとロザリオが今まで踏み越えてきた修羅場を物語るものだった。

 その後、ロザリオの予想通りに次の追っ手がやってくるが、悶絶した三人を見て、おっていたロザリオとシトを見失ったことを知り歯ぎしりしたことは言うまでもない。


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