(3)
一瞬の後、それに折り重なるようにティオも滑り込んできた。
「セーフだな。あいつらの活動範囲はこのフロアだけだったみたいだ。」
「いい加減どいてよ・・・重いんだから・・・。」
ティオはロザリオが自分の下敷きになっていることに初めて気がついた。
「おっと。わりい。」
ティオはいそいそとロザリオの上から降りた。
「あ・・・これは・・・。」
ようやく視界が開けたロザリオの目に飛び込んできたのはレーサーサイトを使い物にならなくされたトーチカだった。
「ふん・・・。こうなってしまえば単なるがらくただな。」
ティオはそれを乱暴にけりつけた。
「やめなよ。動いたらどうするんだ?」
「大丈夫だって。」
確かにティオの言うとおり、そのトーチカが動くことはなかった。
「せっかくだ。ここの弾薬をもらっていこうぜ。何か、役に立つものがあるはずだ。」
ティオはそういうとトーチカを開き、中をあさり始めた。
「どう?何かありそう?」
破片で腕をけがしたシトの手当をしながらロザリオはとにおりトーチカの中をのぞき込んだりしていた。
「んー・・お、グレネードランチャーがあるぜ。それに・・・おお!これはC4(プラスチック爆弾)じゃねえか!」
がさごそという音の合間にそんな歓声が上がる。
「へーC4まであるの。なかなか大漁じゃないか。」
「C4って・・何?」
そういった武器類のことに疎いシトは彼らの会話の内容がさっぱり分らない。
「ん・・・別に覚えなくてもいいんだけどね・・・。プラスチック製の爆弾で少ない量でかなりの爆発力を発揮するんだ。さっきの手榴弾はどっちかというと金属の破片で傷つくタイプだけどC4は純粋に爆発力だけで敵を吹っ飛ばすものなんだ・・・ってわかる?」
「・・・・・。」
シトは首を横にふる。
「・・・ごめんなさい・・・全然・・・わかんない。」
「いや・・・わかんなくてもいいんだけどね・・・。」
お姫様にこんなこと教えてもいいんだろうか?と思いつつも彼は手当を続けた。手榴弾の余波は結構なものだったらしい。
「なんだ?ロザリオ。こいつにいらんこと吹き込むんじゃねえぞ。」
「分ってるよ。」
あらかた調べ終わったティオは結構重装備に見えた。
「何か・・・持とうか?」
シトは本当におずおずと効いた。
「いや、いい。っていってもお前じゃもてねえだろうが?」
確かに、彼の持つものはどれもこれもかなりの重量がありそうだった。
「うん・・・ごめん。」
「だから・・・謝ることじゃねえって。」
ティオは俯いてしまったシトの頭をわしわしとなでつけた。
「・・・・・・♪」
シトは心なしかその手を気持ちよさそうに受け入れていた。
「さてと・・・もうめぼしいものはなかったの?」
ロザリオはメディカルセットをバックの中にしまい込むと立ち上がった。
「ああ。まあこんなもんだ。さすがに、あの砲塔を持ってくわけにもいかねえだろう?」
ティオは親指でトーチカを指した。そのトーチカのメインとなるキャノンは戦車のそれとほとんど違わない規模をほこっていた。
「まあ。言われなくとも。」
ロザリオはあっさりと不採用の烙印をはった。
「だろう?」
「ということは・・。」
「とっとと最深部に向けてレッツゴーだ。」
変に陽気なティオの口調が気になるところだが、あえて放っておこう。とロザリオは結論を下した。
「・・・・わたし・・・。」
シトはそんな二人の後ろでたたずんでいた。
「ん?どうしたさっさとこねえとおいてっちまうぞ?」
先頭切ったティオはそういうがシトは動きそうにもない。
「どうしたの?まだどこか悪い?」
しかし、シトは強く頭を振るだけ。
「・・・ちがうの・・・わたしだけ・・・やくたたず・・・わたし・・・あしでまとい・・だから・・・。」
「ああ、そういうことか。」
ティオは何となく納得したように頷くとシトのそばにやってきた。
「だったらこれを持っててくれ。」
ティオは懐からハンドガン、エトランゼを取り出しシトに手渡した。
「え?でも・・・・わたし・・・つかえない・・・。」
シトはそれを手にして困惑したように視線を泳がしている。
「俺はこれからこいつらを使わないといけない。」
ティオはさっきトーチカから強奪した武器類を指した。
「だから、今はその銃は邪魔なんだ。だからお前が持っててくれないか?大切にしてくれよ。そいつはこいつよりも古い相棒なんだからな。」
「まあ、そのことに関しては否定しないよ。」
ロザリオはなにやら複雑な表情を浮かべていた。
「でも・・・。」
「それに、ライトを持った人間が来ないと先に進めないじゃねえか?」
「あ・・・。」
シトは自分がライトを抱えていることをようやく思い出した。
「うん・・・わかった・・・わたし、さきをてらす・・・。そうしたい・・・。」
シトはエトランゼを大事そうに抱えるとリュックのポシェットに大事そうにしまい込んだ。
「そう。それでいい。そこならなくさないだろう。」
ティオはニカッと笑うと先に歩き出した。
「実はね・・・ティオはその銃を絶対他人に預けたりしないんだ。」
ロザリオはそうシトに耳打ちする。
「そう・・・なの?」
シトは驚いた表情を浮かべた。
「うん。だから。シトはティオに信頼されているよ・・たぶん・・僕以上にね。」
「そんなこと・・・ない・・・ティオは・・・ロザリオを・・いちばん・・・しんらいしてる。と・・おもう・・。」
「おーい。二人ともなにしてんだ。しんがりが後ろを警戒しないでどうするんだ?ライトがないと前に進めないだろうが?」
少し先でティオが待っている。
「すぐ行く。」
ロザリオはそうティオに告げるとシトの手を取り彼のもとに駆け寄っていった。




