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(2)

 ティオの表情が戦闘モードに変化していく。

 ロザリオは耳を澄ませた。

 痛くなるほどの静寂の中、何かが動き振動するような低い音が聞こえてくる。

「まさか・・・。」

「奴らの活動圏内だ・・・後一歩・・そこの出っ張りを越えたあたりからだな。」

 ティオはいつの間にか取り出した50口径の拳銃でロザリオの足下にある岩の出っ張りを指した。

「いつの間にか・・だね・・・。もしかし、知っててここで食事にしようって言ったんじゃあ?」

 ロザリオは驚いたようにティオを見る。

「さて。どうだろうな。」

 ティオはにやりと笑うとロザリオの手から懐中電灯を奪い去り、二人の前に出た。

「見えるか?あそこのレーザーサイト。」

 ティオは銃で暗闇の向こうを指した。

「・・・・何か赤い点が見える。」

 目のいいロザリオですらその識別には少しの時間がかかった。ということはそのレーザーサイトはかなり向こうにあるということだ。

「電灯で少し照らしてみた限りで言うと。少しでもここから前に進むとあのサイトが反応してこの先にある備え付けの自動操縦型トーチカが火を噴くってことだ。」

「それじゃあ・・・。あのサイトを破壊できたら・・・。」

「そういうことだが・・・失敗したらそれに反応してやっぱりトーチカが火を噴く。一回が限界だな。それに、逃げることもできやしない。」

 ティオは銃のシリンダーを一度スリングアウトし中の弾薬を確認した。リボルバー方式の回転型のシリンダーを持つそれは無骨な外見を大いに露わにしていた。

「さて・・少し離れてな・・狙いをつける邪魔だ・・・。」

 ロザリオは無言で頷きシトをつれて5メートルほど後ろに下がった。

「一か八かか・・・まあこの距離なら大丈夫だろう。」

 いざ銃を構えようとしたところ、ティオは誰かが自分の袖を引っ張っていることに気がついた。

 振り向くとそれはシトだった。

「なんだ?」

「・・・・がんばって・・・。」

 頬を染めながらも必死でそういう彼女を見て、ティオは微笑んだ。

「大丈夫だ。一発で決めてやるよ。」

「うん・・・信じてる。」

 そう、一言だけ告げるとシトはロザリオの待つ場所へと引っ込んでいった。

「さてと・・責任重大だな。」

 ティオは一度だけ深呼吸をするとゆっくりと銃を前につきだした。

 ジェノサイドファングと名付けられた50口径、およそ12,5mmの弾丸を撃ち出すその銃はおよそ人の扱える物ではない。その威力、飛距離、破壊力は現在この世界に存在するどの拳銃よりも群を抜いているのだ。

 そして、その反動はものすごい。この銃を扱う者に求められることはひとえに屈強な体躯のみ。

「・・・・・!」

 ティオは一瞬息を止め、そして一気にトリガーにかけられた指を引き絞った。

 耳をつんざくほどの轟音の鳴り響く中。それに混じって僅かなガラスの割れる音が響いた。

「・・・・成功だ・・・。」

 ティオはやれやれと汗をぬぐった。この炭坑はひんやりとして冷たい空気が漂っている。その中でいても汗を流すぐらい彼は緊張していたのだ。

「おめでとう!ティオ!」

 今にもブラボーと叫びださんほどの勢いでロザリオは手を叩いた。

「・・・よかった・・。」

 シトはとりあえず皆生きていることを思い安心を覚えた。

「結構ぎりぎりだったな。後1mmずれてたらやばかった。」

「これでトーチカの心配はなくなったね。」

「まあ、とりあえずはな。」

「先に・・進む?」

 シトの言葉に二人は力強く頷いた。

「こっからは俺が先頭になった方がいいだろう。地図は・・・いらねえか・・・役にたちやしねえ・・。」

「ライトは・・・私が・・持つ・・よ。」

 シトはティオから預かったライトを大事そうに抱えていた。

「分った。それじゃぁ、俺の足下から少し前あたりを照らしてくれるか?」

「うん・・・分った・・・。」

 シトは頷いた。

「じゃあ。僕はしんがりと言うことで。」

「頼りないしんがりだが・・・よろしく頼むぜ。」

「頼りないはよけいだよ。」

 暗い闇の中その先に待つのは血に飢えた機械達。それでも彼らの周りだけはまるで光がともったかのようだった。

「さてと・・・ギャラリーも集まってきたことだし・・・さっさと切り抜けるぞ!」

「イエッサー!」

 ティオは駆け出し、ロザリオはシトを抱きかかえるとそのままティオの後に続いた。

「・・・・・???」

 シトは何がなんだか分らなかった。しかし、流れていく周りの景色をよくよく眺めてみるとそこはだだっ広いフロアになっているようで・・その壁にはいくらかの赤いランプがともっていた。

「・・・・!」

 いや、それはランプではない。しかも、それは壁ですらない。それは、機械的な腕を今にも自分たちに向かって振りおろさんとしていた機械人形だった。

「シト!頭。」

 一瞬呆然としていた頭がその声で一気に現実に引き戻される。シトは半ば本能のままに頭を抱え込んだ。

 一瞬の後自分のそばを鋭い何かが駆けてゆく。

 それが、機械人形のマニピュレーターであることは後から分ったことだった。

「ちっくしょう。思ったより数が多い。」

 ティオはジェノサイドファングを右手に持ち左手には9mmのエトランゼと名付けられた銃を握り、絶え間なくそれを放っていた。

 ロザリオはシトを抱えているため銃を取り出すことができない。

「ティオ。僕が先に行くから後方の援護をしてくれ。」

 ロザリオは敵の一瞬の攻撃の隙を見て、一気に跳躍し、ティオの前に出た。

「了解!抜かるなよ!」

 火薬の炸裂の光で一瞬だけフロア全体が明るく照らされる。そこには10を超える機械人形がひしめいていた。

「手榴弾を使う。耳ふさいどけ!」

 ティオの声にシトは迷わず耳を堅く塞ぐ。何か堅い者が床に落ちる音・・・。

「5,4,3,2,1,・・・。」

 耳元でささやかれるロザリオのカウントダウン。その次の瞬間、耳がわれてしまうほどの轟音があたりに響き渡る。

「ひ・・・!」

 シトは思わずうめき声を上げるが、ロザリオがそれを気にすることはなかった。

「ティオ。手榴弾はそれで最後だ。これ以上使うと炭坑自体がやばい!」

 今の爆発の衝撃波は炭坑自体を揺るがせたような気がした。ロザリオは若干の予感から忠告を促した。

「分ってる。それは俺も感じた。」

 マガジンチェンジの音が響く。

「こんなことなら、12,5をもっと買っとくんだったぜ!」

 見ると機械人形のほとんど大半は既に動かないくず鉄になっているようだ。殺気の手榴弾が効いたのだろうか?いや、今はそんなことを考えているときではない。

 ロザリオはフロアの終わりの急に狭くなっている通路に突進するかのように滑り込んだ。


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