(9)
「展開がベタすぎてあくびも出ねえぜ。」
広場についた彼らはそこにたむろっていた、者達を見て細い目を向けた。
「あん?これを見てもそういえるってのか?」
その中心にいたリーダー格のものがあごで指す。
何気なくその先を見ると、そこにはどこからかっぱらってきたのか十字架に貼り付けにされ、その周りに不清潔な男どもを従えたシトがいた。
「あれを見てもそんなことがいえるってのか?」
「なんだか・・・シトの美しさが際だっているようだね。」
ロザリオは率直な意見を述べた。
「全くだ。あれはまるで・・・女神ではないか・・・。」
ティオはため息をついた。
確かに、今のシトは状況が状況でなければため息をつかんばかりの神々しさを醸し出す美しい美女だった。
「こりゃぁ・・ロザリオに譲るにはもったいなかったか・・・。」
「だめだよ・・。シトはもう僕のものなんだからね。」
ロザリオは薄い笑いを浮かべた。
「おい!てめえら!なに勝手なことしゃべってやがる。この状況が分ってねえのか?下手なことしやがったら。あのお姫さんのお顔に真っ赤な筋がつくことになるぜぇ?」
はたしてそれは脅しだったのだろうか?いや、普通の人間にとってはそれは脅し以外の何者でもないだろう。
しかし、
「そんなことをしたら・・・お前らは皆死ぬことになるな。一瞬で。」
「僕らを脅しているつもり?それだったらもっとましな方法を考えるべきだったね。」
「な!?」
リーダーの男はほえた。
「なぁ・兄貴。やっぱりやばいって。ここは上の連中に報告してさあ・・・。」
彼を兄貴と称した小太りの男はそう耳打ちした。
「バカ野郎。この程度で上の連中を動かしてみろ俺たちがまるっきりの無能者扱いじゃねえか!」
「だけどよ・・こいつらマジやばいって。普通の奴らじゃねえよ。」
そいつは昨日まで盗聴器の内容を確認していたものだった。だから分る。彼らが普通の人間ではないということを。実際罠にかかっているのは自分たちなのではないかと気づき始めている。
「は!だからどうしたんだ?銃さえうばっちまえば・・・。」
「だったら。なぜ初めっからそうしなかった?」
ティオの声が広場に響く。そして、いくつかの乾いた音。
「残念。僕たちのお姫様は返してもらったよ。」
リーダーが気づいたときにはシトはすでにロザリオの手の中だった。
その隣にいたもう一人の取り巻きの男ははっきりと見ていた。
ティオの放った銃弾はまるで魔弾の後とく、シトを戒める縄のことごとくを破り去り、ロザリオの一度の跳躍でシトをかこんでいた二人の男は地面に伏した。
「やっぱり地上にいた方がシトらしくていいな。やっぱりシトは女神より人間の方がいい。」
薬莢が地面に落ちる無機質な音とともにティオの声が響いた。
「ふふ・・・誰でもない人間って意味だからね。シトって・・・・。」
ロザリオの着地する音もそれに混じる。
「さて・・・。お姫様の眠っているうちに・・・。」
ティオはロザリオを見た。
「うん、そうだね。・・・さあ・・。」
ロザリオもニッコリと笑ってシトを抱きかかえるとあいた方の手を懐へと突っ込んだ。
「「バカ野郎どもを土に返す時間だ!」」
そうして、大地は赤く染まっていった。




