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幕間:アレット狂乱す

 今回はアレット視点です。


「なにあのクソ野郎!!」

「なんだあのクソアマは!!」


 わたしは怒りのあまり両手の拳をテーブルに叩き付けた。エミールさんと同時に。

 先生がビクッと跳ね上がる。


「うわぁあ!?」


「あいつ、お師匠様の顔を殴らせた事について謝罪の一つも無いってどういう事だ!! あの場で黒焦げにしてやりゃ良かった!」


「ダンとかいうやつ、先生が殴られた箇所と同じところを銀の杭で串刺しにしてやろうかな!!」


「ふたりとも、物騒なことを言うのはやめましょうね! ほら周りの視線! ねっ!」


 先生ごめんね……だっていきなり先生に顔面パンチをかましてきた上に、的外れな説教だよ? あんなの怒らないほうが無理だよ。


 調子に乗ってたかもとか一瞬でも反省しかけたわたしが馬鹿だった。

 ローディのやつ……ダンを見る時の目が恋する乙女のそれだった……。

 距離をとった今だからこそわかる。

 あいつやっぱ駄目だ!


 先生の頬に触れる。

 まだ腫れは引いていないようだ。けれど……。


「先生の顔が変形しちゃったらどうしてくれるんですかって話ですよ。ヒールで治ったとはいえ、ううう……いつもと感触が全然違う~!」


「い、いつもって……?」


「あっ、実は先生が寝ている間に、何度か頬に触れたことがありまして」


「いつのまに……」


「普段はほっぺたやわらかいんですよ~。えへへ……」


 ……あっ、いけね。もしかして調子乗りすぎた?

 わたし引かれてる……よね。


 ウスティナさんは……うん、いつもの生暖かい笑顔だ。よしっ。

 ピーチプレート卿は……頷いているから否定的ではなさそう。よしっ。


 クゥトさんは……たぶん引いてる。ごめん。

 エミールさんは……なんか怒ってる……? ダンに対して、だよね。

 あれ、そういえばヒルダさん見かけないや。一服しにいったのかな?


「よしよし。もう充分堪能したでしょうから、そろそろ離れましょうね……」


「はーい……」



 先生は、ふと何かを思い出したような顔をする。


「エミールさん。さっきの、ダンさんとは随分と因縁深い関係にあるようでしたが、どういった人なのですか?」


「転校生です。義理と人情を口実にすれば多少の無礼は罷り通ると勘違いしてやがるクソ野郎ですよ……会ってもいないのにお師匠様のことを噂話だけで“最低だ”とか“教師の風上にも置けない”とか……あいつマジで百万回ブチ殺して曳き廻して――」


「――どうどうどう。エミールさん、深呼吸」


「すぅー、はぁー……冤罪がどうとかって抜かしてたでしょう。他にもあの手のこと言いふらしてやがるんですよ」


「……なんですって」


「いじめ告発の署名についても“一部は冗談を拡大解釈しただけだ”とかなんとか……あの野郎、詳細な情報を見てもいないくせして印象操作にまんまと引っかかって、しかもそれを拡散してやがるんです!! 挙げ句“この学校を変えてみせる”とか息巻いてやがる……あのクソ馬鹿チート野郎にできっかよ!」


「そうですよ! 先生はその点、ちゃんと事実を確認してから行動に移してますよね。パッと見の結果だけで判断するような軽率なことしませんもん!」


「甚だ同感だ。だがキミ!」


「ひゃい!?」


 い、いきなり指さしてきて、なんなの!?


「さっきからお師匠様に馴れ馴れしすぎるぞ! 寝顔に触れるなんてうらやま――いや不敬だ! 一体キミはお師匠様のなんなんだ!?」


(このひと一瞬“うらやましい”って言いかけなかった!?)

 どう答えたらいいんだろう。うーん……。

 恋人って言うのもちょっと気が早すぎるよね……。

 かといって、パーティメンバーってだけだと理由としては弱いよなぁ。


 3年待ったら結婚してくれるって先生も言ってくれたし、これはつまり婚約と言っても過言ではないのでは?

 よし決定!


「……フィアンセですけど」


「は、はぁあああ~!? どどどどどどどういうことですか、お師匠様!? 理由を、理由をお聞かせ願います!」


 詰め寄るエミールさんに、先生はたじろぎながらも答える。

 この構図は、もしや! 子犬系の年下生徒攻め×おっとり系の年上教師受けってやつでは……!?


「その……気が付いたら、ずっと側にいたくなったといいますか」


「熱烈にアタックされて、やむにやまれず、ではないのですね?」


 うっ……!? 痛いところを!?

 そ、その可能性は、実は考えていたけど。


「大切な仲間である事は確かですから。その中でもアレットさんは、上手く説明できないのですが……特別ということで。ね、アレットさん」


「ひゃい……」


 マズい……顔が熱い。

 両手でパタパタしても、ちっとも涼しくならない!


「なるほど。それなりの絆を作り上げたようだな……だが一番弟子の座は、このボクだからな! キミに、この座を渡しはしない!」


「こら。アレットさんに意地悪しない」


「だってお師匠様! 聞いてませんよ!」


 そういえばフィッツモンドにいた時、先生にBL本を朗読してもらったのは痺れたなぁ……しばらくあれをオカズにできるレベルだった。

 おかげで、久しく忘れていた感覚が蘇ってきた。


 やきもちを焼く年下の攻め……はぁ~性癖~……しかも実在人物ナマモノジャンルですよ……脳内で垂れ流す分には無罪フリー!!

 これは、これは最高に昂ぶってきちゃうやつじゃないですかぁ……!


『お師匠様はボクだけを見ていればいいんですよ!』


『エミールさん……』


『覚悟してくださいよ、お師匠様。あなたの心は、ボクが奪ってみせる』


 ああ、やぶゎあああい……!



 ――はっ!?

 いやいやいやいや、落ち着けアレット!


 未来の旦那さんをカップリングの受けにするとは如何なる了見だガッデムばかやろう!?

 寝取られ趣味か!? 寝取られ趣味なのか!?

 いくらBL本に理解があるといっても妄想の対象にする許可までは頂いていないだろうが身の程を弁えろアレット!!


 ……そろそろ脳内で騒ぐのやめて現実に戻ろう。



「だいたい、あんな連中! お師匠様が本気を出せばすぐに片付くじゃないですか!」


 ふわぁああああああぁぁぁやめろぉおおお!!

 そこで軽率に壁ドンとかするんじゃない!!

 そして先生は両手の、手のひらで「どうどう」と制している。


「そういう直情径行で短絡的な解決では、それこそ彼らと同類になってしまいますよ。彼らが如何に自らの暴力の正当性を信じていたとしても、他人に同じことをされれば、彼らは決まって得意顔で批難します」


「ですが!」


「大丈夫、落ち着いて……」


「ボクは……どれだけ待たされればいいんですか……!」


 は?


 は???


 先生相手にそのセリフは反則でしょ?

 軽率に汎用性の高いセリフを吐くのはヤバみisあるだろうが!!

 ウッ……動悸息切れが……! 胸が苦しい……!


「……アレットさん、大丈夫ですか? 顔が赤いですよ。熱かな……」


「先生!? な、ななな、なんでも、ないですよっ!? ――へうっ!?」


 おおおおおでこに手ェエエ!!

 うぅ、ムラムラしてきたよぅ……ちょっと今ダメだ。


 外の空気を吸ってこよう! この後の行動に支障が出たらマズいもんね。


「や、やっぱり、ちょっと、外で涼んできます……」


 ふらふらした足取りで、外に向かう。



 腐女子リミッターを解除したので……

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