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第59話:先生と案内人


「私について簡単に説明させていただきますね。ジョブは剣士B級、冒険者ランクはCです。現在ソロ活動中ですが、初心者の方々のサポートもいたします。ヒールを使えることが個人的な自慢ですね」


 似たような活動をしていたピーチプレート卿は、ガントレットに包まれた両手を叩いてはしゃぐ。


「おおッッッ!!! それがしも、今のパーティに加入するまではソロで救援活動をしておりましたぞ!」


「ふふ。ギルドで顔を覚えられて挨拶を受けると、やってよかったと思いますよね」


「ワハハハ! 然様ッッッ!!!」


 良かったね、ピーチプレート卿。

 あなたの同志が見つかるのは、俺も嬉しい。



 俺達も自己紹介を済ませ、セルシディアの街をヴェラリスに案内してもらう。


「ああ、では皆さまがバロウズ御一行様でしたか! 皆さまのご活躍ぶりは私どもの耳にも届いておりますよ。これは私も気合を入れてご案内せねばなりませんね」


 という言葉が、何とも面映いというか……こそばゆいというか。




「――メインストリートは区画ごとに壁で区切られ、それぞれに明確な役割を与えています」


 結構、高い壁だな。それにツルッとしていてよじ登るのは難しそうだ。


「私達が今いるのは商業・工業区ですね。王都から派遣された鍛冶職人やアクセサリー職人も活躍しています」


「ほんとだー! お店がいっぱいありますね! ほら、先生!」


 アレットが飛び跳ねながら俺の袖を引く。

 なんだろう、この、子犬っぽい可愛さは……いやいや待て。

 相手は保護対象でなおかつ人間だぞ! 子犬扱いはあまりにも上から目線にすぎるじゃないか! よく考えろ……!!


「もう、先生ってば、聞いてます?」


「あ、はい! 子犬っぽいとか思ったりしてごめんなさい!」


「わんわんっ、うぅぅぅぅ……じゃなくて!!」


 何かを置くようなジェスチャーをする。

 久しぶりにノリツッコミを見たような気がする。


「お店、いっぱいありますよ! まあ、デートはこの前したばっかりですし、見るだけですけど」


「落ち着いたら、何か買うのもいいですね」


 ヴェラリスはその間、すれ違う人達に手を振って挨拶していた。ほとんどが好反応だ。

 俺達が再び話を聞く姿勢になったのを確認してから、説明を再開する。


「もちろん冒険者向けの実用的なお店も沢山ありますよ。冒険者ギルド、宿屋、アイテム屋に武器・防具屋、闘技場もござい――」


「――ほう。闘技場とは興味深いな」


 ウスティナが食い気味に割り込んできた。

 仮面越しじゃあ目つきまではわからないが、その声音は興奮を隠せないでいる。


「貴公の左の腰に差した刀、業物とお見受けした。手合わせが楽しみだ」


 なんかもう手合わせは決定事項であるみたいな言い方をしているが。


「ああ、これですね。貴方様の大剣とぶつかり合えば、いともたやすく折れてしまいますよ。ふふ」


 半笑いで相手にするヴェラリス。お互い、どこまで本気なのだろうか。

 たぶんお互いに社交辞令だと思う。



 アレットが遠くを見て、何かを見つけたようだ。


「あの。あっちのピンク色の看板が沢山並んでいるところはもしかして――」


「――女性には、関係のない場所でございます」


 色街だから、か。

 それにしてもヴェラリス……かなりピシャリと言い放ったな……。

 どうやら自分でもきつい言い方だったと気付いたらしく、慌てて両手を振る。


「あー……失礼いたしました。私としたことが、つい」


「い、いえ、いいんですいいんです! 何となく察しはついてますし! それに実際、わたしと先生には用のないところなのは間違いないですから!」


 こら、アレット。べったりくっつくんじゃない!


「お二人は、まるで恋人同士か、ご夫婦のように仲良しでらっしゃるのですね」


 ヴェラリスはニヤけるんじゃない!

 ほら! そういうこと言うから、アレットが満更でもない顔で俺に視線を寄越すじゃないか!

 仕方ない、説明するか……。


「いやぁその、お互い話し合って3年後にそうする予定になったといいますか……18歳になるまでは保護者というポジションでいようかなと、ははは……」


「なるほど。しっかりした考えをお持ちですね。ふふ」


 よし、セーフ。




 高い壁に囲まれたゲートをくぐる。


 建物だらけだった場所から打って変わって、土と植物が目立つ。

 なかなか広大だが、この内部も壁で仕切られ細分化してあるようだ。


「こちらが農業区です。都市内部を通っている運河の上流なので、水質はもちろん綺麗ですよ」


「植林までされているんですねぇ。あ、りんごだ! わたし、青りんご好きなんですよね。でもなかなか売ってなくて」


「よろしければ直売店にご案内いたしましょうか」


「いいんですか!? やったー!」




 直売店は割と賑わっていて、人の出入りが多かった。

 そんな中でも売店のおばさまは愛想よく対応してくれた。


 おばさまの口から自然と出てくる「あら、新顔さん? いらっしゃい!」とか「ヴェラリスさんも、いつもありがとうね。助かっているわ」という言葉から、彼女自身の人柄の良さやヴェラリスの貢献ぶりが伺える。


 流石にピーチプレート卿に青りんごを勧められたときは焦ったが「それがしは皮を剥いて6等分してからフォークにて頂く主義であります故、お気遣いなくッッッ!!!」という返しは見事だった。


 青りんごをかじりながら次のエリアへ。


「ここが居住区です。付近には領主の別荘や、国防騎士団の駐屯地もあります」


 閑静な住宅街だが、冒険者がうろついている。

 何かの依頼を受けているのだろうか、或いは実家があるのだろうか。

 そうでなければ、宿屋は商業区にあるから用事も特に無い筈だ。


「ここに隣接している教会特別区が、あちら」


 ヴェラリスの指し示した先の門は、他に比べると教会の意匠が特に目立つ。

 門番の服装も違うことから、ひと目で重要な拠点だとわかる。


「教会と孤児院、それから聖堂騎士団の駐屯地がありますね。巡礼者さんのご用件はだいたいここで済ませられると思いますよ。そうでない方々も、祈りを捧げに来たり、孤児院で貰い受ける子供の下見に来たりと、意外と出入りがあります」


「おー……ここから見ても解るくらい結構でかい……ありがとうございます! あとで寄っていきますねっ」


「ぜひ、お連れ様と一緒にどうぞ。式場選びのご参考までに」


 ヴェラリス。余計なことを言うな……。

 それとアレット。そんな期待のこもった眼差しを俺に向けてくるな。

 残り二人も、何か言いたそうな仕草をやめろ!




「はい、では商業区に戻ってまいりました。私達の目の前にある建物が、冒険者ギルドです」


「ありがとうございました」


「いえいえ。これくらい造作もないことですよ」


 冒険者を名乗る以上、案内人を名乗り出たことにも理由がある筈だ。

 単なる暇つぶしでそんなことをするようには思えない。

(稀にそういう奇特な人がいるだろうということは否定しないが)

 訊いてみるか。


「それにしても、どうして僕達を探していたのですか?」


「ここ数週間、スラム街のほうでゾンビが発生していまして」


「「「――!」」」「ほう」


「されども諸般の事情により境界線に監視を常駐させておくこともできず。

 新しくお越しになれた冒険者さんはまとめてご案内しながら大まかな地形を把握していただく、という形を已む無く取らせていただいております」


 存外、素直に教えてくれたな。ひとまずは俺達を信用してくれたのだろうか。

 いや……偽の情報を与えたという可能性もあるぞ。

 ここでウスティナが問いかける。


「では。地図が無いのはどう関係があるのか、お聞かせ願おうか。ゾンビが地図を読む訳でも無かろう」


 俺も気になっていたことだ。


「先刻、ご自身が仰っていたではないですか」


 ――!

 敵に地形を把握されると困るという事情がある、か。

 ゾンビの原因を作っているやつは、地図を読めるかもしれない……なるほどな。


「クククッ……随分いい趣味をしているな」


「センスの良さではあなたに負けますよ」


 ……お互い褒め言葉になっていない。

 それにしても、俺達が街に辿り着いた時には既に近くにいたってことだよな……。

 俺達にこうして釘を差したのは、まだ信用されていないのかもしれない。



 ピーチプレート卿がのっそりと出てくる。


「ときに、道案内の料金はお幾らとなりますかな?」


「そんな、ふふ……無償ですよ。あくまでも巡回のついでですので」


 あとは……新顔の俺達をあちこちに回らせて、住民に俺達の顔を覚えさせるという目的も兼ねているのだろう。


「さて、ご案内は以上となります。私はギルドに用事があるので、これにて。皆さまに、星々の導きがあらんことを」


 胸に手を当てた丁寧な一礼は、彼女の雰囲気によくマッチしていた。

 癖の強い連中とばかり会ってきたから、彼女がその手合でないことを祈りたい。



「では薬屋を探しますかな?」


「見張りの様子を鑑みるに、依頼も無しにスラム街でうろつくのは怪しまれるだろう」


「うぅ……ですよねぇ……」


 肩を落とすにはまだ早いよ。


「ギルドの案内板を見るに、上の階にラウンジがあるようです。そこで情報交換でもしてみるのはいかがでしょうか? それを基にスラム街で活動可能な依頼を受けておくと」


「そうしましょう!」



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