第57話:先生と、アレットの新必殺技!!
3/6追記
改題しました。
(旧名:異端のS級エンチャンター、教職をクビになったので優しさと誠実さで世界を救います)
(初期名:異端のS級付与術士は先生をクビになるも、優しさと誠実さで無双して救世主になります)
4日目。
「――なぁ、ルクレシウス。シャノンと話をしてきたんだがよ」
実技訓練を見ている最中、グレンに肩を叩かれ、俺は振り向いた。
「うん?」
「解呪屋について訊いといたぜ」
「――! ありがとう! それで、どうだった?」
「ピアースロックって街に、もしかしたら流れの解呪屋がいるかもって話だ」
「すると、王都の北西部……ここから真逆の方角だね」
「おう。オレはそこに行ったこと無いから知らねーけど……ああ、あと、ここから山ふたつ向こう側の街……えっと、セルシディア、だっけな。そこにカティウスって巡礼者もいるってよ」
「ありがとう。ルートの割り出しもやっとこう」
「あいよ。ンで、アレットの調子はどうよ?」
「うーん……まずは自信を持たせるところから、かな。あ、ちょっと離れるよ」
「おう」
俺はグレンに手を振って一旦離れ、魔力切れを起こして座り込むアレットへと駆け寄った。
先は長い。結論を出すには、まだ早い。
5日目。
「“障壁付与”! おにーさん、できたよっ!」
「はい、今そちらに行きますね」
今回は、チェルト自身と、あと彼女の母シルヴェストラへの付与術の行使を測定した。
……よしよし。漸復付与と筋力付与もクリアしているし、ひとまず護身用のものは申し分ない成績だな。
実の母を誰かの暴力から守ることだって、実の母の暴力から自分を守ることだってやりやすくなる。
アレットのほうは……難航気味だ。
「うえ゛へぇ゛ぇぇええん! やっぱりわたし落ちこぼれなんだああああ!!」
だから泣くこと無いでしょうってば!
あ、鼻水。拭いてあげないと……。
――チーン、ズビズビ
よし、オーケー。
「大丈夫ですよ、こういうのは得意不得意があります。アレットさんは既に他人が使いこなすのが難しいようなスキルを幾つも覚えているじゃないですか。審問官スキルとか」
「だってぇ……」
チェルトが駆け寄って、頭を撫でる。
「よしよし~」
「わ゛ぁああああん! ライバルに頭を撫でられたって嬉しくなぁああいぃいい! やっぱりかわいい~わたしもなでなでしちゃう……」
でもね、アレット。
攻撃魔術の練習を見ている限りでは、君も少しずつコツは掴んできているんだよ。
7日目。
ここまでの習得状況を測定してみよう。
まずはチェルトから。
測定方法は、ピーチプレート卿に鉄製フリスビーを投げてもらい、そこに魔術を打ち込むというものだ。
「ではピーチプレート卿さん、お願いします」
「御意ッッッ!!! ――えええいッッッ!!!」
空中に投げられたフリスビー。
チェルトはそれに狙いを定める。
「えいっ、マジックミサイル!!」
緑色の光の弾が幾つも尾を引いて飛んでいき、フリスビーを貫く。
「さすがですよ、チェルトさん! もう充分に実用レベルです。その調子で今後も励んで下さいね!」
「お見事ですぞッッッ!!!」
「やったー!」
次はアレットの番だ。
案の定アレットは緊張でガチガチに震えている。
「み、みみみ、見て下さい、先生! ピーチプレート卿、フリスビーを!」
「応ッッッ!!! ――せいやぁあああッッッ!!!」
いや、結構な高さだし速度もあるな!?
だが!
「――えいっ!」
アレットの両手から夥しい量の光弾が拡散していく!
マジックミサイルに似ているが、緑じゃなくて白に近い金色!?
なんだこれ……なんだこれ!!
「どうですか! わたしのマジックミサイル!」
軌道が曲線を描かず、代わりに拡散具合がえげつない。
「すごすぎる……これ本当にマジックミサイルですか……?」
「お、お見事、ですぞ……さながら花火ッッッ!!!」
8日目。
「「俊足付与!」」
チェルトは付与術も順調に習得していた。
E級の初歩的なものはほとんど習得済みで、経験不足に起因する不発はあるものの、概ね安定していると言っていいだろう。
「わーい! はやーい!」
対するアレットは不発こそ無いものの、効果が非常に低かった。
「ぐぬぬぬぬ……わたしにはちっとも効果が……いや微妙に出てはいるんですけどね!? 微妙、すぎる……うぅぅぅ……」
「ですが、これで僕の代わりに誰かに教えることができますよ」
「んー……まぁ、そうですけど……」
「教える側である僕がボトルネックを把握しきれていないのが、何より不甲斐ないです……すみません」
「先生が謝ることじゃないですってば!」
……いや待てよ?
「E級には無い、D級以上の妨害系付与術をやってみましょう」
「妨害、系……!」
糸口はつかめてきた気がするぞ!
10日目。
「マジックミサイル!」
チェルトの元気のいい詠唱で、緑色の光弾が飛び出る。
更にチェルトは、幾つかのカカシに持たせた鉄の棒にも次々と付与術を掛けていく。
「“火炎付与”!
“雷電付与”!
“氷結付与”!」
よしよし、基本3属性もバッチリだ。
攻撃魔術教育担当のシルヴェストラも、一緒に見に来ているグレンも、満足げな笑みを見せている。
じゃあ、次はアレットだな……。
昨日の午前中はチェルトをシルヴェストラに一任して、こっちはこっちで妨害系の付与術について図解を交えながらじっくりと教えたのだ。
午後はチェルトに付きっきりでアレットを見てあげられなかった。
俺が視線を向ければ、アレットは静かに頷いた。
もう流石に、この前みたいな過度の緊張は見られない。
……いい傾向だと思う。
「ウスティナさーんっ!」
アレットが呼びかけると、
「ついに私の出番だな。良かろう、昼寝終了だ」
などと言いながら、木の上からウスティナが飛び降りてきて、回転しながら着地した。
しかも手には大剣を持ったままだ。
俺を含めて周りがみんな面食らっている中、アレットとウスティナはハイタッチをする。
「じゃあ、その場で大剣を振ってみて下さい!」
「ああ。ルクレシウス、見てみるといい」
事前に打ち合わせでもしていたのだろうか。
「は、はい」
「では行くぞ。ふんっ」
ウスティナによる横薙ぎの素振りは、ブォンッ、ブォンッと周囲に風圧を撒き散らす。
あの風圧に巻き込まれれば、刃に触れずとも千切れそうだ。
「“停滞付与”!!」
振り抜く瞬間のポーズのまま、ウスティナは止まる。
その姿勢で俺達を見てくる。
「どうだ。私が止まっているだけのように見えるだろう」
「でも実際は、違うんですよね?」
「見えるだろう」
「……はい、見えます」
「では離れるぞ」
やるかどうかは予想できていた。昨日教えたから。
でも、かといって上手く行っているかどうかは未知数だった。
アレットが使った停滞付与は、本来なら発動そのものが難しい部類のものだ。
「どうだ。空中に固定されているだろう」
ウスティナが完全に大剣から離れる。
確かに大剣はその場で、宙に浮いたまま静止していた。
「おお、完璧に発動できているじゃないですか……すごいですよ、アレットさん!」
「出来てますか!? やった、やったー!! 苦節10日間、わたし、ついにやったんですね……!!」
ここまでたくさん喜んでくれると、こっちとしても教えた甲斐があるというものだ。
人によってはロクに知りもしないくせに“これくらい出来て当然”なんて言う奴がいるのかもしれない。
だが、新しいことができるようになる、というのは本来、これくらい喜ばしい事なんだ。
少し間を置いて、大剣はガラランッと大きな金属音を立てて地面に落ち……そうになったところを、ウスティナが掴んだ。
「アレットよ。次はどうする」
「次はあの木の的に向けて、マッスル投げナイフを!」
「心得た。ふんっ」
「“停滞付与”!!」
複数の投げナイフが全て、空中でピタリと固定された。
これもまた時間差で、カランカランと地面に落ちていく。
「これで矢の雨もへっちゃらですよ! どうやらわたし、仲間を支援するよりも、敵の足を引っ張る系のスキルがやりやすいみたいですね……」
「それは言い方を変えれば、相手に“戦う”という選択から遠ざけるという事です。上手く使えば味方の消耗を少なくできるという事ですから、あまりできない分野での支援、という事になりますね」
「じゃ、じゃあわたし、先生のお役に立てますか!?」
「もちろんですよ。ありがとうございます」
ウスティナが粛々とナイフを拾い始めたから、俺とアレットも手伝う。
その最中、ウスティナが口を開いた。心なしか、何とも愉快そうな口ぶりで。
「こんなもの、敵方にいきなり使われたら私とて肝が冷えるだろうな。して、ルクレシウスよ。これは何級に相当するのだ」
「そうですね。本来ならC級に相当します。やり方を教えはしましたが、術式の構築は同じ等級の中で比べても桁違いに難しく、またここまで完璧にピタリと止められる人は今まで見たことがありません。
アレットさんの努力と、相性の良さが利いているのかもしれませんね」
「クククッ、ぞっとしない話だな。毎日の鍛錬に取り入れるとしよう。いつか静止した武器を無理やり動かせるかもしれん」
……ウスティナだったら、いつか本当にやれるような気がしてきた。
その頃には、アレットも新しい付与術を覚えているのかもしれない。
心強いなぁ……。
それじゃあ、グレンと打ち合わせしていた通りのルートで解呪屋を探しに行こう。
物語の途中でパワーアップが好きなので……




