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第48話:先生VS事件の黒幕?


 大きな広葉樹が鬱蒼と茂る森。まだ昼間だっていうのに木漏れ日も通さず、真っ暗だ。

 この木々の樹齢はどれほどだろう? どれもこれも幹は太く、それでいて地表にも浮き出た根は足場をデコボコに形作っていた。


 暗視ナイトビジョン付与エンチャントが無ければ、とてもじゃないが入っていい場所じゃあない。

 まぁ……いかにも不吉な雰囲気で、海賊の拠点にはちょうどいいのかもしれないけれど。



 鳴子なるこ――つまり足元に音の鳴るものを紐で吊った罠なんかは……特に見当たらない。


 木々に目印になるものも無い……が、足跡は幾つも見つかった。

 奴ら、この森が真っ暗なのをいいことに、足跡隠しをしていないな。或いは、初めから俺を誘い込むつもりか。


 どっちでもいいさ。

 チェルトを解放してもらうぞ。




 沼地を越えて、高い岸壁に囲まれた空き地へ。

 ここだけは木々が生えていない。



 ――代わりに、どこから調達したのか、5mほどの高さの金属製のゴーレムが鎮座していた。

 頭が無く、腕は太く長い、いびつな形だ。

 資料でしか見たことがないけれど、大戦期の魔王軍が使っていたものに近い。


 そしてその一番上のアンテナ部分に、チェルトは気絶させられた状態で縛り付けられていた。

 そんなチェルトの隣には、フランソワーズ……フランが座っていた。



「セントイゴール号におかれましては、世話になりましたね……ルクレシウス・バロウズ」


 冷徹な声で語りかけてくるフランは、凍てついたように無表情だ。

 グレンが言っていたように顔が整形されているけれど、そんなことすら気にならないくらい、静かな殺意が眼差しには込められていた。


 怒りを抑えている人が、よくあんな表情になる。心当たりは山ほどあるが、果たしてどれがフランの逆鱗に触れてしまったのだろう……?


 ただ、それを気にする前に、まず言わなくちゃいけない。


「馬鹿な真似はやめて、戻ってきてください!」


「……お断りします。グレンはお前を気に入っていたようだけど、私から言わせてもらえば、お前なんてただの、余計なことをした厄介者だ」


「……」


 厄介者。余計なこと。

 それらを耳にする覚悟は、無かったわけじゃあない。

 けれど実際こうして聞かされれば、やっぱり胸が苦しくなる。


「お前が、グレンの魔術の才能を開花させなければ、あんなクズの家に嫁入りすることも無かったかもしれないのに」


 それでも……やらないと。まずは物陰に隠れて――


「――おい!!」


 フランが、声を荒げる。今までそんな声を聞いたことが無かったから、俺は一瞬、身をすくめた。


「会話を!! しろよ!! 私を無視するな!! 小娘の命がどうなってもいいのか!?」


 メキリメキリと音を立てて、ゴーレムは木々をなぎ倒しながら近づいてくる。


「くッ……」


 どこまで本気かはわからないけど、今は要求に従っておいたほうがいいかもしれないな……。

 意を決して、ゴーレムの前に飛び出す。


「そうだ、それでいい……船に向かわせた海賊連中はどうした? 殺したのか?」


「いいえ。殺してはいません」


「お優しいことですね。それとも背後関係でも洗うつもりで? 残念! 奴らは何も知らない! 金で雇われただけの、正真正銘のゴロツキだ!」


 ――ブォオオンッ


 縦方向に思い切り振り下ろされた肉厚の手刀を、飛び退いて避ける。

 動きは大味だけど……素早いな。厄介な相手だ。



「直接殺すより、マシです!」


「その甘さがグレンを殺したとも知らずに」


「生きてる!」


「何を言う……メルグレーネ・オストラクルなど、ただの抜け殻だ!」



 ――バシュゥ……ボボボボボボボッ


 上空に打ち上げられた緑色の光は、小さく分裂して降り注いでくる。


 まさかあれ……マジックミサイルか!?

 しかも、あんなに……数百発も飛ばすなんて! くそ、べらぼうに高性能なゴーレムだな!?


「他にもあるんだよ、このゴーレムの武器は!」


 ――シュゴォオオッ


 ゴーレムの腕から炎が飛び出てくる。ただの炎じゃなく、おそらくはドラゴンブレスだ。

 いったい、どれだけのコストをかけたんだ……背後の組織が恐ろしい。


「……ああ、そういえば。海賊連中に伝えて、ウスティナを勧誘させたよ」


「そんなことをしたのか!?」


 初耳だ。


「へぇ。ご存知ない? 可哀想に! ま。だけどあれも存外、強情な奴だったらしくて……結局来なかったよ。オストラクル家には言いたいことが山程あるだろうに、どうして私達と手を組もうとしないのかね、あの女も」


「僕はウスティナじゃあないからわからないけど……賊に手を貸すような誇りは持っていないのかも」


「どいつもこいつも、どうしてお前を選ぶ……!? 私の本来の顔が醜いからか!?」


「顔は関係ないだろ!? 顔は!」


「うるさい……うるさい!!」


 くッ、駄目だ、話が通じない!!

 ほとんど正気を失っている……どうやって、あのゴーレムに近付く?


 正直、いくら付与術エンチャントで強化しているといっても、今のままじゃ無理だ。

 あのゴーレムの装甲は光沢から察するにおそらく合金製……となると、下手な竜種の鱗よりも硬い。


 よじ登る前に、振り落とされるのがオチだ。貯蔵された魔力が尽きるのを待って、それから一気に畳み掛けるしかない。

 幸い、先刻のマジックミサイルの炸裂は、花火のように派手な音と光だった。遠くからでもよく見えたと思う。


 味方の増援は……いの一番にグレンが来てくれるなら、それが最高の展開だ。

 グレンの言うことなら、聞いてくれるだろう。


「……」


 俺は手の内側に、汗がじっとりと滲み出るのを感じ取った。


「――」


 一歩、踏み出そうとした、その時。



 ――ガキンッ


 俺の足元から、そんな音がした。

 恐る恐る視線を下げると、トラバサミが俺の足首に食い込んでいた。


 油断した……完全に……。



「無様だよねえ、ルクレシウス・バロウズ!! お前に助けが来る前に、ちょっと話し相手になってもらおうか」


 ……やっぱり正気じゃないみたいだ。もし明確に正気を保っていた上で殺意を抱いているなら、すぐ殺そうとした筈だ。

 だけど、ゴーレムの巨大な両手は、俺の胴体を締め上げるだけだった。


「……」


「……思い出話をしようじゃないか」


 そう言って、フランはぽつぽつと言葉を続けた。


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