第47話:先生の行方不明者捜索
俺はひとりで、朝露の滴る森の木々をかき分け、無人島を探索する。
時折、ピヤピヤともケアケアともつかない奇妙な鳴き声が頭上から聞こえてきた。もしかして、この島の固有種だろうか?
「……」
単身での潜入は、かなり久しぶりだな……下手すると十数年前にやったきりだ。
でも実際、これなら大勢で探索するよりも見つかりづらい。つまり、船の位置を特定されるリスクが減らせるという事だ。
俺が、しくじって殺されたりさえしなければ、これが一番いい。
……というよりも、現状の頭数を防衛に当てたら、探索に回せる人が俺しか残らなくなってしまったのだ。
あの船に、どれだけギリギリのラインで人数を配置していたかがよく解る。
それをマルギレオは“少数精鋭”などと称したが……物は言いようだな。
広告に金をかけ過ぎて人件費が殆ど無い状況では、従業員の不満なんて募るばかりだというのに!
結果、新技術に惹かれてやってきた取引相手の人たちは、こんな窮地に晒されてようやく推進機を含めた、この船の構造的欠陥を目の当たりにするのだ。
でも、変だな。一部の作業員は海賊達とグルになって、この島に船を運ぼうとしていた。
マルギレオ達を始末するだけなら、わざわざここまで運んでくる意味が無い……。
不可解なのは、グレンだけは生かしておくという事だ。
それに、メイド長のフランソワーズが姿を消した事も。彼女が無実であるならそれに越したことは無いけれど……
けれど、もし彼女が、この事件の真犯人だったとしたら。
グレンを助けようとするあまり、フランソワーズの苦悩に気づけなかったことになる。
……もしもそうだったなら、その責任は取らないと。
頼む。悪い予感よ、外れてくれ。
――カラン、カラン
「ん……!」
警鐘が、頭の中に響いた。
チェルトに通知付与をかけたが、これが発動したという事は……くそ、急がないと!
通知付与は、対象の場所までは解らない。
一度戻って確認だ。
* * *
「何だって!? いなくなった!?」
急いで船に戻り、チェルトの母親とマルギレオに確認を取れば「急にいなくなった」などと言い出す。
「私も探しに行きたいが、何分、足をやられてしまった。どうすべきだろうか」
「休んでいて下さい。僕が探しますから」
「……すまない」
くそ、参った。せめて心当たりでもあれば。
……グレンは、どこにいるだろう?
もしかしたら、グレンなら知っているかもしれない。
理想的なのは、フランソワーズも見つかってくれる事だが……望み薄だ。
俺は、船内を駆けずり回る。
途中でアレットやウスティナ、ピーチプレート卿ともすれ違ったけど、チェルトの行方は知らなかった。
「先生、わたし達にできる事はありませんか?」
「乗客を一箇所に集めたら、船内でグレンさんとチェルトさんを探して下さい」
「貴公。グレンなら甲板にいたぞ」
「ありがとうございます!」
甲板……お、いた!
「グレン!」
「おう、早いじゃねぇか」
グレンはドレス姿のまま、船内図とペンを片手に、あちこちのドアに貼り紙をしていた。
貼り紙には集合場所が記されている。侵入者にも情報が漏れるが、取り残されるリスクを考えれば、こっちのほうがいい。
「チェルトを探しているんだ。誰かに攻撃された可能性がある」
「何!? オレも行く!」
「それぞれ別方向から探そう」
「どうやる!?」
俺は地図を広げて見せる――といっても船には地図が無かったから、辺りを回って即興で作ったものだ。
簡素なものだけど、背に腹は代えられない。
「俺は東側を回る。西側は頼んだ」
「ああ、任せろ。見つけたら合図はどうする?」
「狼煙を」
「あいよ」
グレンにも“通知付与”を掛ける。
俺の担当する東側は険しい地形が多いから、必然、付与術の出番が多い。
でこぼこした岩肌を超えて、吊り橋へ。
「……これは」
大部分が焦げている上に何ページか無くなっているが、この本は……間違いない。“静寂の騎士”だ。
チェルトは、この近くにいたんだ。だとすると、この先にいるのか。
眼の前には、鬱蒼と茂る黒い森。
「……」
今から引き返して仲間を呼びに行く時間は多分、無い。
いくらチェルトに“反射付与”を掛けて、そう簡単には即死しないようにしているとはいっても、それでも死なないわけじゃない。
森の入口で、枯れ枝を集めて燃やす。
短縮術式呼び出し……対象を自身に設定。
――“俊足付与”!
続いて“障壁付与”!
“漸復付与”!
“筋力付与”!
“暗視付与”!
「頼むから……無事でいてくれよ、チェルト」
俺は両手を握って、駆け出した。