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第45話:先生、遅くないですか!?

 前回のあらすじ:

 メルグレーネ・オストラクルもといグレンが昔の自分を取り戻し、モラハラ糞夫をファミリーパンチで黙らせた。


 やっと、辿り着いた! 途中でクラーケンの触手が幾つも壁を突き破ってきた時は、流石に沈没を覚悟した。

 触手を幾つか引きちぎったり、感電させてやったら、ようやく大人しく引っ込んでくれた。

(火に耐性あるのに雷は耐性ないのか……初めて見たな)



 それで、どうにか間に合ったかなと思ったけど、なんだ、この状況……?



 壁一面が黒焦げになった部屋の中心で、海賊達が簀巻きになって転がされている。

 グレン、アレットとウスティナとチェルトは、何か話し込んでいて、俺とピーチプレート卿に気付いていないようだ。


 壁際では、チェルトを除くオストラクル家の面々が寄り集まって震えていた。

 マルギレオに至っては、全身あちこち包帯を巻かれている。

 ……一体、何があったんだ?


 訊いてみよう。

 その前に、遅刻の謝罪を。



「すみません、遅くなりました」


「――! 先生!」


 たたたっ、とアレットが軽い足取りで駆け寄ってきたのを、抱きとめる。


「良かった……無事だったんですね!」


「どうにか。皆さんも、ご無事で何よりです。いえ、いきさつは気になりますが……アレットさん、如何でしょうか?」


「その、実は……」




 * * *




「そう、でしたか……その瞬間に立ち会えなかったのは残念ですが……でも、まずは――」


 グレンの拳に、俺の拳を軽く当てる。


「おかえり、グレン」


「は、はい――いや……おう、待たせたな!」


 ……うん。

 まだちょっとぎこちないけど、目に光が戻っているのがよく解る。

 それに表情全体が、すごく生き生きとしている。


「あんましジロジロ見ないでくれよ……っていうか、何だよ、その“見守ってます”的な生暖かい微笑みは!? オメーはオレの保護者じゃねぇだろ!」


「い、痛ッ、そんなに強く背中を叩かないでくださいよ!」


くださいよ(・・・・・)だぁ? オレは元に戻ったんだ。もう、他人行儀な言い回しはナシにしようぜ」


「急にそう言われても……はぁ、解ったよ。善処する」


 ……アレット、そんなあからさまに妬ましげな視線を寄越さないで欲しい。

 正直、俺だって敬語のほうが性に合っていて気が楽なんだ。距離が近すぎなくて。


 こほんっ。


「アレットさん。海賊達は、これで全員でしょうか?」


「はい! この部屋に侵入してきた海賊は、これだけです! 尋問はウスティナさんにお願いしましたけど……」


 アレットに視線を送られたウスティナは、どこか残念そうな声色で答える。


「ああ。肝心の黒幕が誰だか解らんと来た。これには参るよ。グレン、貴公に心当たりは無いか」


「んー……無いってワケでも無ぇけど……できれば、そうであって(・・・・・・)欲しくない(・・・・)かな」


「なに、そうそう当たるものでもあるまいよ。言ってみろ」


「……フランソワーズという給仕長がいただろ。ひょっとしたら、アイツの仕業なんじゃ――」



「――ちがうもん!!」


 チェルトの甲高い叫び声が、グレンの言葉を遮る。

 彼女は両手で本を強く抱きしめ、両目には涙を浮かべていた。


「フランは、フランは、こんなわるいこと、しないもん……やさしくて、ほんを読んでくれるもん! ちかごろは、ちょっといそがしそうだけど!」


 癇癪を起こして地団駄を踏むチェルトを、実母と思しき女性が抱きかかえる。


「駄目よ、チェルト。“そうかもしれない”って言っただけなの。だから、心配いらないわ」


「やだ!」


「言うことを聞きなさい!」


「やだぁー!」


 じたばたと暴れるチェルトに、グレンはゆっくりと近付く。

 チェルトの実母は、警戒を隠そうともしない表情でチェルトを遠ざけようとする、が……


「ごめんな。フランがそんな事する筈、無いよな」


 グレンは屈んで、チェルトの頭を撫でた。


「……いいの。チェルトのほうこそ、ごめんなさい」



 あんなに暴れていたチェルトは、嘘みたいにおとなしくなった。


 初めて見た時のグレンは、保護者とか育て役としての責務というものに囚われて、子供の目線を忘れていた。


 それが、今はどうだろうか。

 一瞬の事ではあったけど、同じ目線で考えて、視線を合わせて言っていなかっただろうか。


 何らかの前進を意味しているなら、それに越したことは無い。




「も、もう終わったのだな?」


 なんて、マルギレオはおずおずと問いを投げかけてくる。

 最初に会った頃からは考えられないくらい、情けない姿だ……。


「一応、終わったと思いますよ」


 とだけ返しておこう。


「コホン! では、これより指揮権は私に戻して頂こう。まずは推進機の損傷を確認せよ。人員は……あー、この場合、誰が適任だ?」


 なるほど、さっきの質問は「終わったなら仕切っていいか?」という意味か。

 そういう事なら、この焦げた壁を黒板代わりに使わせて頂こうかな。


 対象を設定、チョーク……

 魔力供給量を調節……光量、月明かり程度……――

 ――“光源ライト付与エンチャント


 これで、光るチョークの出来上がりだ。


「簡単にまとめて行きましょう。それにより情報の整理と、行動の優先順位を決定します」


「何故貴様が! 私の船だぞ!」


「家族を道連れに心中するような真似をしたあなただけに一任するのは、あまり得策とは言えません。ご家族のお顔を、よくご覧になって下さい」


 どう見てもすごーく不安そうだろ?

 あんたは致命的な失策を仕出かした。俺達はその尻拭いをした。あんたより俺らのほうが信用されるのは、当然の帰結だ。


 ……もっと、いい父親である事を期待していたのに。

 どうしてなんだ? この、分からず屋……。




 情報をまとめた。


 海賊の規模は不明、現時点で少なくとも300人ほど

 他の乗客への被害は出ておらず、あくまでオストラクル家のみを狙ったと思われる

 護衛はいないのか? → コスト削減のため、従業員が護衛も兼ねている(!)

 グレンは保護対象

 ウスティナがスカウトされるも断った → 正面突破のほうが手っ取り早い為(本人談)

 クラーケンは撃退済み

 首謀者は依然として不明


 ……こんなところか。



 ……待ってくれ。今まで無事だったのが不思議なくらいグダグダな状況じゃないか!!


 はあ……よし。


「――作戦を、立案します」


 息を吸い込み、意を決して口を開く。



 皆さまの応援が作者の励みになります。

 感想、ツッコミ、心よりお待ちしております。


 たくさん感想が増えても必ずお返事いたします。

 よろしくお願い申し上げます。

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