第5話:先生と依頼探し
先に行かず、後ろにもつかず、隣を歩いてくれる人ってきっと貴重なのではと、私はときどき思います。
床で寝ていた筈が、いつの間にかベッドで寝ていた。
……その御蔭なのか、無理して精神作用系の付与術を使ったせいなのか、昼までぐっすり寝てしまった。
いけないな、昔はもうちょっと睡眠時間が短かったような気がするんだけど。
――む、人の気配。
「昨夜は申し訳ございませんでした……」
部屋の入口で土下座しているアレットの姿が見えた。
「落ち着いて。顔を上げて下さい」
なんでそんなに涙をぽろぽろ流してるの……!?
君本人には怒っていないと、昨夜ちゃんと言った筈だよ……?
「わ、わたし、嬉しくて、先生がなんだか可哀想で、ほうっておけなくて、つい……あとお酒の勢いとか……だから、嫌わないで……お、置いてかないでぐだざい゛……」
「あの……泣かないで。大丈夫、置いていきませんよ」
彼女は、ひどくいびつな価値観に毒されている。
それを差し引いたって、放っておけないよ。
「今日から冒険者パーティを組んで、一緒に活動しましょう。早速ですが、ギルドへ向かおうと思います」
「はい!」
カウンターで女将さんにお礼を。
朝だからか、赤ちゃんも一緒だ。
「「ありがとうございました」」
「いいんだよ。また泊まりにおいでね」
「キャッキャ♪」
気のいいお人だ。赤ちゃんも、愛想の良さを受け継いでいる。
もうちょっとお金を使えば良かったかな……なんだか申し訳ない。
と、女将さんが俺のほうへと耳打ちしてくる。
いつになく神妙な顔だ。
「それで、昨夜はどうだったんだい。あんなに可愛くて若い子だから、ほら」
それをあなたが訊いてしまうか……。
ちょっと、ガッカリだ。
「何も起こさせませんでしたよ」
「やっぱりね。本当に、今どき珍しい人だねぇ……アレットちゃんは幸せ者だよ。どうか、誠実なままでいてあげてね。アタシも、昨夜に見てて心配だったんだ」
……単なるカマかけだったか。
疑ってごめんなさい。
◆ ◆ ◆
アレットの歩行速度は存外に早く、普段の俺の8割くらいだった。
だから横で歩くのもほぼほぼ無意識でできた。
もしかしたらアレットは昔、誰かにおいていかれそうになって、それで歩くのが早くなったかもしれないが。
アレットが何もないところで転びそうになる。
「うわっと!?」
「大丈夫ですか!?」
俺は咄嗟に肩を掴んじゃったから、慌てて手を離した。
「は、はい……大丈夫です……」
いかん、いかん。警戒させちまう。
それにしても、アレット……もしかして昨日の疲れが残っているかな。
「もし疲れたら遠慮なく言って下さい。急ぎではないので」
「大丈夫ですよ。ありがとうございます」
「では、冒険者ギルドで休憩しましょうか。軽食はある筈です」
「賛成ですっ!」
冒険者ギルドは扉が開け放たれている。
退店する人を先に出させてあげるのがマナーだ。
黒い鎧の三人組が会釈をしながら出ていく。
奴隷制度が廃止されてから、亜人や黒騎士の冒険者がすごく増えたなあ。
黒騎士は何らかの事情で肌を晒せない人達が、ああして黒染めの鎧で身を隠しているそうだ。
ここに至るまでの紆余曲折を思えば手放しには喜べないけど、ある意味では昔よりマシになったと思いたい。
「さあ、どうぞアレットさん」
レディファーストってやつね。
「ありがとうございます」
この小さな街、ロビンズヤードにある冒険者ギルドは、街道沿いにあるだけあって依頼の量も多い。
壁一面とまで行かなくても、そこそこある。
「ほえぇ……いっぱいありますねぇ~。わたしまだまだ初心者なんで、どこから目星をつけたものか」
「探すコツならありますよ」
緊急性の高いものから真っ先に候補に入れる。
あまりにも危ないものについては騎士団のほうに流されるから、腕利き冒険者がそっちから直接雇われる。
だから、大抵は国に見向きもされない勢力からの依頼だ。
「このバクダンイナゴの駆除は?」
綺麗な挿絵だな。でも駄目だ。
「下手に刺激すると人間大のハンバーグが出来上がります」
「よし、やめましょう!」
「僕達の実力を考えると、この辺りなんてどうでしょうか? スケルトン狩りです」
野良スケルトン狩り。
採掘中に、打ち捨てられた地下墓地をうっかり掘り当ててしまって、スケルトンが湧いて出てきたからこれを鎮静化させようというものだ。
「あ、それなら得意中の得意です!」
「アンデッド退治は聖職の十八番でしたね」
「えっへん。おばけを怖がるほうが可愛いって思ってもらえるかもですけど、足手まといと思われたら詰むので!」
「誰にでも得意不得意はありますから、その時は別の依頼を選べばいいだけですよ」
「先生みたいに優しく言ってくれる人、初めてですよ……」
過去に誰かと組んだことがあるようだ。
でも、現時点での詮索は控えようと思う。
「――さて、依頼を受けたので軽食です。お好きなのをどうぞ」
「昨日に引き続きですか!?」
「貯蓄と所得が同額になったらご厚意に甘えさせていただきますが、基本的には僕が支払うべきでしょう」
「いやいやいや、割り勘って発想は無いんですか! 貯金箱扱いしている女だと思われたら癪なんですけど!?」
「僕のほうが貯蓄があるからってだけの話です。君に年下の後輩ができたなら、君が奢ってあげて、という事ですね」
「うぅ……そ、そういうことなら……」
ゆうべの事を引きずっているのか、アレットの注文内容は打って変わって随分と控えめだった。
俺は挙手して、ウェイトレスさんを呼び止める。
「すみません、注文をしたいのですが」
「はーい!」
「これと、これで……お願いします」
「かしこまりました!」
さあ、ご飯の時間だ。
腹ごしらえをしながら、話を進めよう。
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