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幕間:一方その頃アレット達は

 タイトルの通り、アレット視点です。


 わたし――アレットは、医務室から軟膏を持ってきてグレンさんの火傷に塗っていた。

 ルクレシウス先生の付与術エンチャントは本当にすごい効果で、グレンさんの火傷はかなりの速度で再生が進んでいた。


 それでも……痕は残りそう。赤黒いケロイド状の火傷痕。

 もう一度、誰かに嫁入りするなら……きっとこの傷は致命的だ。



 この船に何が起きているのかも解らないし、どこへ進むかも解らない。

 不安な状況を誤魔化すようにして、わたしは質問を投げかけた。


「あの人のお嫁さんで在り続けたいと思いますか?」


 マルギレオは、グレンさんの火傷なんて知ったことじゃないといった風だった。

 それよりも、机から落っこちた資料のほうが大切なんじゃないかとさえ思わせた。


 正直、その場で殺してやりたいくらい気分が悪かった。

(実力差があるから、わたしでは奴を殺せないけど! 畜生!)


 グレンさんはしばらく黙っていたけれど、やっと口を開けた。

 たぶん、尋常じゃないくらい葛藤したんだと思う。


「……そう、ですね。私には、ここしかありませんから……オストラクル家と共に生きる事を選びます」


 歯切れ悪いなぁ。どう考えても、自分自身に言い聞かせてるよね? それ。

 わたしの頭の中で、鐘の音(・・・)がずっと鳴り響いてるんだ。

 ――あなたは嘘を言っている、と。


「ホントに本気で言ってますか? ここには見張りもいませんよ。どうか、本音で言って下さい。

 心の底からあの家への献身を望むというのなら、わたしからは何も言いませんし、なんならルクレシウス先生にも、完全に手を引くよう説得します」


 本人が「自分は可哀相な人では断じて無い、望んでそうしているのだ」と本気で言うなら、無理に手を差し伸べる必要なんて無い。

 いくらお人好しな先生だって、その線引きはしていて、その上で首を突っ込んだ筈だ。


「私は……」


 答えは聞けなかった。

 代わりに……


 ――コンコン


 軽いノックが、わたし達の注意を引いた。

 誰だろう? 先生が戻ってきたのかな?


「貴公らを護衛すべく、私は戻ったぞ」


 ――! この声と言い回しは!


「ウスティナさん!」


 ドアを開けた。

 ウスティナさんは、いつものように澄ました顔で立っていた。


 この先行きのよくわからない状況では、すごく頼もしい。

 変なやつが来ても、すぐ追い払ってくれるだろうし……


 でも、なんで返り血?


「気になるか」


「はい……」


「つい先刻、賊共に絡まれてな。寝返りを提案されたのを断ったら、喧嘩になってしまったのだ」


「ひえぇ、そんな事が……」


「そういえば、彼奴らは気になる事を言っていたな」


「な、何をですか?」


「“メルグレーネだけは生かす”と。メルグレーネ。貴公、何か心当たりはあるか」


 ウスティナさんの問い掛けに、グレンさんは首を傾げた。

 そりゃあそうだよね。


「まったく心当たりが……私には恨みが無い、となると、ますます解りません……」


「とっ、とりあえず! ウスティナさんグッジョブです! そんな奴らの誘いなんて蹴って正解でしたよ!」


「いやな、一度は考えてみたのだ。奴らの仲間になったふりをして内情を偵察するという案も」


 ごくり。


「一応お伺いしますが、そのプランを実行しなかった理由は?」


「面倒だ。正面から殴り倒したほうが圧倒的に早い」


 などと言いながら、ウスティナさんはシュッシュッとシャドーボクシングをし始める。


「「……」」


 あー。うん。そんなことだろうと思ってました。ハイ。

 安心と信頼のウスティナさんクォリティ。

 というかあなた、拳もいいけど背中の大きな得物がメインじゃないですか!


 あと投げナイフね! 杭に投げたら杭が真ん中辺りからボキッとなっちゃう、謎のマッスル投げナイフ!


 わたしはグレンさんのほうを向いて、


「頼もしいでしょう? いつもこんな感じなんですよ。あはは……」


「っうふふふ」


 おお、笑った。

 さっきまで沈んだ表情だったから心配だったけど……少しだけ、気を持ち直してくれたのかな。


「あの人は……バロウズさんは、いい友人に恵まれましたね。ええ、本当に……」


「グレンさんだって、大切な友人じゃないですか」


「きっと私に、そんな資格は無いわ……あの時、オストラクル家に嫁入りする事、勇気がなくて言えなかったもの」


「でも先生が気にしているのは、今現在、グレンさんが苦しんでいる事ですよ。

 それで、どうしますか? ウスティナさんの話では、グレンさん以外は皆殺しだとか……わたしは、助けに行きたい。

 チェルトちゃんが殺されてしまうのは、一番嫌です」


「私も……――」


 グレンさんが言いかけると、ドアが蹴破られて海賊達がなだれ込んできた。

 反対側の天井も叩き割られて、そこからワラワラとやってきた。


「メルグレーネ・オストラクル! ボスからオメェさんを保護(・・)しろとのお達しだ! 他は転がして売りモンにしてやらァ!!」


 えええええ……。

 ちょっと勘弁してよ。ウスティナさんはともかく、わたし弱すぎて太刀打ちできないよぅ……。



「ふんッ」


「おっごォ!?」


 ウスティナさんはすかさず、すぐ近くにあったカルテか何かを、みぞおち目掛けて投げつけた。

 続いて、回し蹴りを顔面に。


「はッ」


「んぐぇッ!!」


 流れるような動きで、ナイフを肩口に投擲!!


「せい」


「ぎゃあッ!?」


 すっごいなぁ……あっという間に半分が片付いちゃうんだもんなぁ……。

 でも、呆気に取られているうちに、今度はグレンさんが掴まれる。


「きゃあっ!」


「っへへへ、約得約得ゥ!」


「わぁああ、グレンさんから手を離せこのゲス野郎~!!」


「やなこった! お前ら、そいつらを運べるようにしておけ!」


「「「ガッテンでさぁ!」」」


 くそォー! ンやめろォー!!


「オストラクル夫人」


「は、はい……」


「――訓練を、思い出せ」


「――!!」


 え!? なになに!?


「……でぁああああああッ!!」


 グレンさんが、それまで怯えていた表情から一転、雄叫びを上げて背後の海賊を一本背負いで床に叩き付けた。

 そこからは、一方的な蹂躙に戻るだけだった。




 侵入してきた海賊をすべて倒し終える。


「存外、実戦でもやれるものだな。やはり、貴公の身体は覚えているようだ」


「そんな。でも、私――」


 なんてグレンさんが言いかけるも、



 ――スゥ


 壁が透けた。

 よく発言が遮られる人だなぁ。




 ……じゃなかった! 何この現象!?

 この規模の壁をいきなり透明にしちゃうなんて……!


 もしかしてもしかすると、いや。もしかしなくても、これって……


「……先生の仕業、ですよね」


「ああ。他にいたら困る。だが、お陰で道は解りやすくなった。今まさに、オストラクル家の他の面々が危機に瀕しようとしている」



 ウスティナさんの指さした、その先には。



 オストラクル家の人たちが、海賊達に囲まれていた。


「ホントだ……!」


「行くぞ」


「はいっ」「ええ」



 ……お願いだから、間に合ってよ。



 皆さまの応援が作者の励みになります。

 感想、ツッコミ、心よりお待ちしております。


 たくさん感想が増えても必ずお返事いたします。

 よろしくお願い申し上げます。

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