幕間:そういうところよ、あなた達
遅くなりまして申し訳ございません。
ヒイヒイ言いながら書いては投稿のため、出来上がりまでに時間が!!
今回は、ルクレシウスの教え子の姉、シャノン・フランジェリク視点です。
私――シャノン・フランジェリクは、ちょっと困惑している。
だって!!
まさかバロウズ先生達が船に乗るなんて、想定外に決まってるじゃない!!
ちょっと待ってよ、なんであんなホイホイと乗れちゃうの!?
乗船に支払う運賃は!? 招待状とかは!?
……あのドレスの女の人が手配してくれたのかしら。
「姐御~、置いてっちゃいますよ~」
「誰が姐御ですって?」
「いや~、誰ってシャノンの姐御の事ッスわ」
この長い黒髪の女の子――リサ・アルバは、割と初期から私のパーティに加入していた。
おとなしそうな見た目なのに、これがまた結構なやり手で、あっという間に距離を詰められ、今ではすっかり恋人同士に……。
ま、別に構わないわよ。
おかげでストレスも幾らか和らいだし!
「ちょっと考え事を、ね」
「姐御は心配事が多いんスよ」
「職業病みたいなものよ」
私たちは、雑用係のボランティアとして応募した。
簡単な面接のあとすぐ採用されたけど……清掃、配膳、各種機材や備品の運搬、正規スタッフへのお茶汲みって。
バカにしてるとしか思えない内容だわ。
これ全部タダでやらせるなんて。
まあ、でもいいのよ。滑り込みで採用してもらえたなら、バロウズ先生との連絡係としての役目は果たせるもの。
本隊のほうにデイジー達が残って上手くやってくれているから、こっちはこっちで仕事に集中できるし。
* * *
フランソワーズってメイドさんから話を聞いて、さっそくお掃除。
乗客宿泊エリアは、個室はそのままでいいという事なので、廊下だけ。
「――ぱぴぷぺ! ぽぴょんぼ! ぶっちんにゃー!」
「!?」
突如、素っ頓狂な掛け声が廊下に響き渡る。
曲がり角の先から聞こえてくるわね……。
「ぶっちんぶっちんぶっちんにゃー♪ ぶっちんぶっちんぶっちんにゃー♪
ぶっちんぶっちんぶっちんぶっちんぶっちんぶっちんにゃー♪」
ええぇぇ……。
何……? この、面妖な歌詞は……?
「待ち合わせの場所に相手が来ない! ぶっちんにゃー!!」
なんかダミ声で語りが入った。
恐る恐る曲がり角の先を覗く。
「せっかく作った料理に文句つけられた! ぶっちんにゃー!!」
……よく見たらこの子、アレットって子じゃないかしら?
外見的特徴が一致しているわ。
「ぶっちんぶっちんぶっちんにゃー♪ ぶっちんぶっちんぶっちんにゃー♪
ぶっちんぶっちんぶっちんぶっちんぶっちんぶっちん――はうううあああああああっ!?」
あ、すごい飛び上がって、派手に尻もちついた。痛そう……。
私は咄嗟に支えようとしたけど間に合わなくて、差し出した手は虚しく空を切った。
「ごめんなさい、邪魔しちゃったかしら……」
「ちちちちちちちちちち違うんですこれはそのえっとわたしのオリジナルの歌じゃなくて、えっと、その、あのう!!」
両手と首を高速で振って、必死に言い逃れをするアレット。
初めて聴いた歌だから、それくらいは解るわ。一緒に遊んでいた女の子でしょ?
「落ち着いて。見なかった事にしてあげるから」
「できればその、聞かなかった事にもしてくれるとすごくありがたいです!! 気がついたら口にしちゃうくらい、わたしにとっては中毒性の高いフレーズだっただけで!! ほんとに!! 子供の遊び相手になったときに歌っただけですしっ!!」
「わかった、わかったから」
うぐぐ……キョーレツね……!!
で、でもまあ、き、嫌いじゃないわよ?
「それじゃあ、事故に気をつけてね」
「はい……」
* * *
廊下の掃除は、他に目立ったイベントも無く終了。
スケジュールの書かれた紙を開く。
続いては甲板での給仕係ね……ああ忙しい。
確か、奥にいるふたりは……ウスティナと、ピーチプレート卿だったかしら。
オストラクル夫人も一緒なのね。
両者とも、あちこちの商会で一目置かれている優秀な冒険者だったわよね。
万一、戦が起きる時はとりあえず引き込んでおけと、言われていた筈……。
「では、私の腹を狙ってみろ」
「本当に、よろしいのでしょうか……?」
「構わんさ。何だったら、魔術も併用してみるといい。せっかく復活させた魔力回路だ。試し打ちは必要だろう。最悪、船に風穴が空いたところで私が責任を負えばいい」
「流石に、魔術は遠慮いたします……」
「そうか。では魔術は使わず殴ってみろ」
「で、では……えいっ」
可愛い感じの掛け声とは裏腹に、姿勢を低くして振り抜かれた拳は見事にウスティナのみぞおち辺りへと命中した。
――ドスンッ
結構重たい音。
それでいてウスティナは微動だにしないのだから、恐ろしい。
「その調子だ。続いて打ち込み続けろ」
「こう、いいえ……こうですか?」
「いいぞ。身体が型を覚えているな。何か習っていたのか」
「……その。実は幼い頃、聖堂騎士団の訓練場を覗き見した事がありますの」
「効率的な学習方法だ。幼少期の貴公に感謝せねば」
「うふふ。そうですね」
私は思わずその場に立ち尽くして、見とれていた。でも、それがいけなかった。
――ドンッ
「ちっ、あっぶねーな! ぼさっとすんな!」
ちょっと、背中ぶつかんないでよ、名も知らぬオジサン!!
ああ、トレーの上のグラスが揺れて、お、落ちる!!
――ぱし
「服には、かからなかったか」
ウスティナは、ひとっ飛びで私の近くまで来ていた。
両手には、落としそうになったシャンパングラス。
「あら……ごめんなさいね。手を煩わせてしまいました」
「構わんさ。これは全て頂いていこう。喉が乾いていたところだった」
なに……この……こういう言い方が正しいのか解らないけれど、イケメンって言うのかしら……?
私に足りないのは、ああいう機転だったのかな。
「――なぁーにシレっと浮気しそうになってるんスか。アタシがいながら」
「!?」
リサに耳元で声を掛けられ、全身が跳ね上がる。
「違うわよ。私もリサに、ああいうふうにしてあげられたらって思っただけ」
「ふ~~~~~ん……ま、いいッスけど」
なんでこんなタイミングで!
「では、それがしは機材運搬の手助けをして参る!」
ウスティナに報告するピーチプレート卿。
「鎧はもう動くのか」
「魔力回路を繋げる程度であれば、タンクの半分で事足りますぞッッッ!!!」
「せいぜい兜を奪われんよう気を付けるがいい。私は引き続き訓練を執り行う」
「応ッッッ!!!」
のっしのっしと、ピーチプレート卿は螺旋階段の方角へ歩を進める。
私はカウンターからストローとエナジーポーションを一本持っていく。
「ストローがございますので、良かったらこれを」
「おおッッッ!!! かたじけないッッッ!!!」
耳、痛っ……。
総評。
バロウズ先生、いまいち相手の押しに弱いような印象があったけど……。
もしかして癖の強いメンバーを纏め上げる能力は人一倍あるのかもしれないわね。
本人の押しが強いって可能性のほうがあるかも。
おかげで、私は観察と連絡係に徹する事ができるのだけれど。
……近況報告して、弟を元気付けてあげないとね。
あの子、転校生と喧嘩して機嫌悪いし。
それにしても、学院もあんな時期に転入生の受け入れなんかして、一体何を考えているのかしら。
空気を入れ替える、といった意図にしては、ひとりだけというのも気になるわね……。
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