表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
45/141

第35話:先生と海水浴

 少しお時間を頂きました。お待ち頂きまして、ありがとうございます!


 残暑はまだまだ続くという事で、水着回を挟んで見ることにしました。


 俺達が立ち寄っているのは、王国東部の入江に面した、そこそこ大きな漁村だ。

 この季節には海水浴場もあって、俺達は気分転換に泳ぐ事にしたのだ。


 ただし、ピーチプレート卿は泳がない。当人がそう主張した。


「それがしは、何かあった時の為に備えよう」


「……暑くなったら遠慮なく言って下さい。すぐに付与術エンチャントを掛けに来ます」


「心配無用にございますぞ。それがしの鎧は空調付きであり、またそれがしの肉体も頑丈ゆえ!」


 ピーチプレート卿は、自身がオークであると認識したくないから、鎧を脱ぐのには抵抗があるのだろう。

 じゃあ、当人のやりたいようにさせてあげるのが一番だ。




「先生、早く早く~!」


 などと波打ち際ではしゃぐアレットは、いつもの服装ではなくミントブルー色のビキニ姿。

 町に着くなり「海といえば海水浴ですよね」と服屋を連れ回され、一番良さそうな水着を一緒に選んだ。



「貴公、早く行ってきたらどうだ」


 なんて、ウスティナはパラソルの下で、あくまで他人事のように勧めてくるが、彼女も白のワンピース水着……そして目元はサングラスだ。


 俺もウスティナ本人も「いつも水着みたいな格好だし別にいいのでは」と言ったが、アレットが「女の子に一張羅なんて許しませんっ! 場面によってオシャレするんです!」と言って聞かなかった。


「であれば、お言葉に甘えまして……行ってきます」


 ぺこりと一礼して、俺はアレットのほうへと向かった。



「お待たせしました、アレットさん」


「待ってました! ほらほら、見てくださいよ、このカニさんっ! わたしの水着とカラーがおそろいなんですよ!」


「えッ、あ……――」


 待ってくれ。なんでよりにもよって胸元にカニを運んでいるのかな、この子は……!

 俺がそこに反応できる程、女性慣れしているとお思いか!?


「わー! カニさん、泡ぷくぷくしてますよ! かわいー!」


 待って、待って、えっと、ここは、そうだな……!

 これまでのアレットの言動から鑑みて結論を導くと、以下の言葉が適切なのかもしれない。


「あ、アレットさんの、ほうが、か、かわいい、ですよ……」


 言 え る か !

 ちくしょう……顔が熱い。どうして、こんなしどろもどろに返事をしなければならないのか。


 そもそも考えても見ろ、ルクレシウス!

 お前は女性を褒める時に一度でも「かわいい」と言った事があったか!?


 無い! 断言するが、皆無だ!

 必ず「素敵ですね」とか「かないませんね」とか、同性でも通用する褒め言葉を使ってきただろ!?


 それをお前、年下を相手に「かわいい」だと!? これではただのロリコンじゃないか!

 見ろよルクレシウス・バロウズ! お前の仕出かした失言で、アレットもドン引きして――



 ――ドン引きしてなどいなかった。


「あ、わ、わ……」


 アレットは指をカニに挟まれながら、それすら意に介さない程に顔を赤くしていた。


「せせせ、先生のほうがっ、かわいいもんっ!!」


 などとアレットは訳の解らない事を叫び、明後日の方向へと走り始める。

 ご丁寧に、途中でしゃがみこんでカニを砂浜に逃した。


「アレットさん、待って!」


 俺は砂浜に足を取られながら、アレットを追いかける。

 おかしいな、どうして二人して、こんなバカげた追いかけっこをしているんだ?


 下着は駄目でも水着なら大丈夫だっていうのか?

 ルクレシウス……日差しにやられて心の壁が溶けたのか!?




「ぜーはー……!」


 浜辺の端のほうまで来て、ようやく追いついた。

 アレットめ、意外と体力があるな……巡礼者だから足腰も強いのか?



 しかし、ちょっと遠くにいるアレットに、俺は呼びかけるのをためらった。

 赤いワンピース姿の幼い女の子が本を抱えて、アレットを見つめていたのだ。


 ……5~7歳くらいか。保護が必要な年齢だ。

 ましてや金髪碧眼とあらば、人攫いに狙われやすい。


「おねーさん! 今、ひま?」


「うんうん! おねーさん、ちょっとだけなら暇だよ! どうしたのかな? ママとはぐれちゃったの?」


「ううん。ママは置いてきた。クロアといっしょなんだもん。メルはおじいちゃんばっかりかまってるし、チェルト、つまんな~い~」


 推測するに、チェルトというのがこの女の子の名前だろう。クロアは弟の名前かな?



 アレットはチェルトと視線の高さを合わせながら、会話を続ける。


「チェルトちゃん。おうち帰らなくて平気なの?」


「や!」


 チェルトは頬を膨らませ、ぷいっと顔を背ける。


「そっかー……じゃあ、どうしようか……」


「えっとね、えっとね? ごほんをよんでほしいの!」


「うっ……ごめんね、おねーさん、教典じゃないと読めないんだ……」


「パパは、このくにのシキジリツはセカイユースーだっていってたのに。さてはおねーさん、びんぼーにんだな!」


 うちのアレットになんてひどいことを!!

 親の教育を疑いたくはないが、一言物申したい気分ではある……!


「ごめんね……呪いをかけられちゃって、教典じゃないと読めない身体になっちゃったの……」


「ええー! おねーさんかわいそう……でも、どうしよう? ごほんをよんでもらえない……」



 いいだろう。俺に任せろ。


「アレットさん、代わりますか?」


「……っ」


 チェルトはたじろぐ。そりゃあ、見知らぬ男が突然出てきたら怖いよな。



「先生~待ってました~っ!」


 アレット! 俺の膝を抱き込むな!! 胸が当たっている!!

 けれども、まあ……チェルト警戒を解く事には成功したらしい。


「おねーさん。そのおにーさん、コイビトなの?」


「へッ!? あ、あぇ! ええええっと! せ、先生は、あくまでも先生というか!」


 突然、アレットはしどろもどろになって、両手をわたわたと動かす。

 ベッタリくっついたまま言われても。あの、気まずい……。


「僕は、このお姉さんの仕事仲間ですよ。本を読んで欲しいのでしたら、僕が力になりましょう」


「ほんとー!? やったー!」



 任せろよ。その本のタイトルには見覚えがあるんだ。

 何度も読んだことがあるし、各地で役者さんが舞台をやってもいる。


 ――“静寂の騎士”

 俺の古い友人は、よくこれを読んでとせがんできたものだ。


 なあ、グレン・ダシーク。

 君は元気にしているだろうか?



 皆さまの応援が作者の励みになります。

 感想、ツッコミ、心よりお待ちしております。


 たくさん感想が増えても必ずお返事いたします。

 よろしくお願い申し上げます。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ