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第32話:先生VSカレン・前編

 周囲を味方につけようとする加害者ほど厄介な奴はいませんよね。


 随分昔に、父さんは『女は恋をすると優しくなるんだ』と言っていたが、俺はそんなの絶対にあり得ないと思っていた。

 恋をしたくらいで人がガラリと変わる事なんて、男が考えた都合のいい幻想でしかない。


 ……俺は『恋をしたくらいで人は変わらない』事が実証される瞬間を、心の何処かで待ち望んでいた。

 かくしてそれは、実証された。想像しうる限りでは最悪に近い形で。




 ◆ ◆ ◆




 俺達はギルドの依頼を受けて、湖の付近にて残存するリザードマンの捕獲または掃討を請け負っていた。

 俺とアレットのペアと、ウスティナのソロで分担だ。

 緑色に光る歩行樹トゥレントは一旦中止だ。



 それは突然の事だった。


 ――ヒュウウ、ズビャッ、ビュウウッ、ジュッ!!


 機動オービタル魔導書グリモアから放たれるビームの音がした方角に、俺は振り向いた。

 カレンとピーチプレート卿がせめぎ合いながら、近づいてきていた。


 全方位から自在に攻撃を仕掛けるカレンに対して、ピーチプレート卿は避けるので精一杯だ。

 ……それでいて、ある一点においてピーチプレート卿は昨晩と違っていた。


「――先生! ピーチプレート卿の頭……!」


「そう……ですね」


 ヘルムが無い。考えられる原因としては、カレンが外したのだろう。

 それで、期待していた顔と違う、むしろ人間ではなくオークだったために、今に至るのだ。


「ほら! ほらぁ! 命惜しさに逃げ回った事が、仇になりましたわねぇ!?」


 連続するビーム攻撃を避けた結果、皆の前に顔を晒してしまう。


「し、しまっ……――ッッッ!!!」


「――さあ! 自らの醜悪なオーク顔を晒しなさい!? どんなに取り繕おうと、所詮あなたはオーク! 低能な怪物でしかありませんわ!」


 ……オークである事を殊更ことさらに強調して周囲に言いふらす辺り、悪質すぎる。

 討伐せざるを得ない状況に追い込むつもりだ。


「アレットさん、僕はちょっと介入してきます。ウスティナさんを呼びに行ってくれますか?」


「はい! ……ついでに、この前の悪口のツケも払ってもらってくださいね!」


「……もちろん。覚えていますよ」


 短縮術式呼び出し……対象をパーティメンバーに設定。

 ――“反射リフレクター付与エンチャント

 ――“俊足スプリント付与エンチャント


 カレンとピーチプレート卿の間に割って入る。


「これ以上やらせないぞ、カレン・マデュリア!」


「あら、邪魔しないで下さる? オークは強姦好きの好色な魔物! 巧みに人心を拐かす手合がいてもおかしくありませんわ!」


「まずは種族について勉強してこい!」


 オークは人間の近似種で、過去に魔王軍側に加勢したと言っても、あくまでその時期だけだし、種族単位での話だ。

 それに、占領地での捕虜に対する強姦はあらゆる種族によって行われてきたし、征服欲や自己顕示欲に起因するものだという研究結果も出ている。


「ステレオイメージに当てはめるのは、偏見に基づいた暴論だ。ピーチプレート卿に限らず!」


「偏見ではなく! 常識! でしてよ!」


 6冊の魔導書の見開きがこちらに向けられ、ビームが放たれる。


「くっ……」


「邪魔立てした以上、あなたも誅伐すべき悪ですわ。今頃、どなたか冒険者がギルドに報告しに行った筈」


「あんたに加勢する奴なんているか!」


「甘く見られたものねぇ? この街の魔道具工房の支配人が、わたくしの元教え子だという事をお忘れでして? 既に衛兵団には話を通していましてよ!」


 なんだよ、都合のいい時ばかり!

 ジュドーが引きこもった時は『あんな役立たずのわがまま小僧、わたくしの生徒にはふさわしくなくてよ』などとのたまったじゃないか……!


「あら! 泣いておいでですの!? 男が泣き出すなんて気持ち悪いったらありませんわ! ッホホホホ!! オ゛ッ――」


 カレンの脇腹に、こぶし大の石が投げつけられる。

 彼女の薄いブラウスでは衝撃を防御できず、尻餅をつく。


「一体何ですの!?」


 カレンと共に、俺も振り向く。

 見れば、クロスボウを構えたアレットが立っていた。


「先生を泣かす奴は許しませんっ!!」


 そしてその横には、ウスティナも。


「私も加勢するぞ、ピーチプレート卿」


「そ、そなたはッッッ!!!」


「ウスティナだ。昨晩は世話になったな」


「……」


 味方の増援でも、ピーチプレート卿の表情は晴れない。

 俺は、どうしたらいい?

 ウスティナはカレンに向き直る。


「カレンといったな。オークが冒険者をする事が、そんなに気に入らぬというのか。女が魔道具に傾倒する事を許されなかった事への八つ当たりのつもりか」


「――っ、あなたなんかに、解ってたまりますか!」


 立ち上がろうとするカレンに、ウスティナは一瞬で距離を詰め、大剣で機動魔導書を3冊、紙屑に変える。


「解らんから訊いているのだ。質問に罵倒で返す輩は教師に向いていないぞ」


 そして、ウスティナに付いてきたであろう冒険者達が口々に同調する。


「そうだ!」「クソ年増!」「売れ残り!」



 カレンは一瞬だけ呆気にとられたようだが、すぐにいつもの表情に戻った。


「あら。品のない野次ですこと」


「それについては同感だが、品性下劣は貴公とて同じさ」


「せいぜい吼えていなさい? どう足掻いたところで、過ちには罰が下されるものでしてよ。ほら!」


 カレンが手で指し示す先には――馬に乗った衛兵団、数十名の姿があった。


「――あのオークを捕らえよ!! 抵抗するなら命を奪っても構わん!!」


「「「応!!!」」」


 職務に忠実といえば聞こえはいいが……。

 対する、ウスティナ派の冒険者も、気迫は充分だ。


「俺達のヒーローを、殺させはしない!」


「鉄仮面ウスティナに続けェー!!!」


「「「おおおおおお!!」」」


 カレンの呼んだ冒険者達と衛兵団、対するはウスティナが呼んだ冒険者達。

 排斥か、共闘か。殺すか、守るか。

 俺はカレンの牽制に手一杯で、どうにも手が出せない。

 アレットも、クロスボウから石を飛ばして援護してはくれているが、カレンの魔道具は想像以上に手強い。



「ピーチプレート卿がオークだからってなんなんだ! こいつは俺達の命を助けてくれた!」


「いいや、こいつはピーチプレート卿を騙る偽物だ!」


「違う! 本物だ!」


「どちらでもいい! オークは魔物! 殺す!」


 ――ああ、ルクレシウス・バロウズ! 考えろ! 起死回生の一手を!

 見過ごしちゃ駄目だ。ロビンズヤードの時と同じことをさせはしない!

 全員を巻き込む事になるが、やむを得ない。


 対象を設定――アレット、ウスティナ、ピーチプレート卿それぞれの耳……

 範囲拡大――ピーチプレート卿救出派のメンバー全員に設定……

 魔力量、20%……

 ――“防音サウンドプルーフ付与エンチャント


 対象を設定――自身の喉……

 魔力量、反動危険領域オーバーチャージ……

 ――“咆哮ロアー付与エンチャント”!!

 ――“反響エコー付与エンチャント”!!


 そして俺は、両手で耳を塞ぎ――……叫んだ。



 皆さまの応援が作者の励みになります。

 感想、ツッコミ、ピーチプレート卿への応援メッセージなど、心よりお待ちしております。


 たくさん感想が増えても必ずお返事いたします。

 よろしくお願い申し上げます。

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